9/10 あなたは歌舞伎、と言えば誰を、どんなことを思い出しますか?
若い頃は、歌舞伎という伝統芸能があることは知っていても、見に行く機会は全くありませんでしたし、チケットも高そう、という印象をずっと持っていました。けれど亡くなった18代勘三郎が、勘九郎を名乗っていた頃、様々な試みをされている様子がメディアで紹介されるようになり、海老蔵が若手のホープのような存在として脚光を浴びるようになり、そうなると「人生で一度くらいは見といてもいいかも」と、思い、博多座に出向いてみたんです。もちろんチケットは安くないなあ、と思いました。けれど、そこで演じられるものの質の高さ、華麗な衣装、ストーリーの展開、そうしたものを総合して考えれば、世の中で、ディナーショーのチケットが2万円、時には5万円なんてものがあるのと比べて、決して高いとは言えないのではないか、という気がしてきたんです。
先月は、劇作家であり演出家の野田秀樹が、戦後作家の坂口安吾の短編を基にして書いた「桜の森の満開の下」という作品が歌舞伎座で、上演されました。野田秀樹が大切な友人であった勘三郎といつか一緒に、と書かれた作品、残念ながら、叶わなかったものの、二人の息子勘九郎と七之助が、見事な演技を見せたことで大きな話題にもなりました。
私はそれまで坂口安吾の作品を読んだことがなくて、今回の歌舞伎がきっかけで「桜の森の満開の下」そして「夜長姫と耳男」を初めて読んだのですが、安吾の、幻想的で、切なくて、それでいて身につまされるほど現代的な欲望と恋愛の様々なあり方を見せつけられる格別な経験だったと言えるように思います。
「夜長姫と耳男」の終わりに次のようなセリフがあります。「好きなものは呪うか、殺すか争うかしなければならないのよ。」そして、姫は言うのです。「サヨナラの挨拶をして、それから殺してくださるものよ。私もサヨナラの挨拶をして、胸を突き刺していただいたのに」。— このセリフが心に残ったまま歌舞伎座から熊本に戻ってきてテレビで見た「直虎」の正次最後の場面が重なりすぎて、呆然としたほどでした。
海外でも歌舞伎に関心がある人は少なくないと聞いていますけれど、外国人が日本の何に興味を持っているかを知ることで、日本の良いもの再発見することは、思っている以上に多いに違いありません。
Kumamoto Curio 今日のBGMは “Over You” by Diamond Rioでした。