「熊本市動植物園」

カテゴリー
ヒューマン・ラボ
あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。
熊本市動植物園檜垣智行さんがゲストです。
園内の復旧状況などについてお話を伺いました。

IMG_4166.JPG
 
● ご出演者のプロフィール
 
名前:檜垣智行
(ふりがな)ひがきともゆき
所属:熊本市動植物園
プロフィール:
H4宮崎大学農学部獣医学科卒業。熊本市役所入庁後、食肉衛生検査所配属
H14動物愛護センターに異動、H174月動物ふれあい広場オープン時に動植物園に異動
H21食肉衛生検査所に異動、H273月に食肉センター閉場に伴い動植物園に復帰
 
ホームページ、ブログなど:http://www.ezooko.jp/
 
Q 「熊本市動植物園」の基本情報をお願いします。
 
所在地:熊本市東区健軍5丁目14-2
問い合わせ先:TEL 096-368-4416 
 
スタッフの人数:約70名
動物数哺乳類:40種239頭
鳥類:57種364頭
は虫類:16種97頭
両生類:1種31頭計114種731頭(10月31日現在)
 
Q 檜垣さんの「熊本市動植物園」でのお仕事は何ですか?
どんな点が苦労しますか?どんな点がやりがいですか?
 
園内たくさんの動物がいますので、サル・クマ・ネコ科の動物を中心とした1班、
ゾウ・キリン・カバなど大型草食獣やオタリア(アシカのなかま)・ペンギンなどを担当する2班
ウサギ・モルモット・ヤギや鳥類・は虫類担当のふれあい班の3班で分担して飼育しています。
 
私は、飼育第2班の担当動物を中心に、飼育係職員と協力しながら動物の世話をしています。
動物の世話といっても、単にエサを与え、排泄物を処理するだけではありません。
現在の動物園は、「動物たちが精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること」という動物福祉の観点に基づき、人間によって制限された環境にいる動物たちが、できるだけ快適かつ苦痛を受けずに生活できるようにしなければなりません。
当然、それぞれの動物について、その生態や生息環境、習性、行動様式、体の構造や繁殖、特有の病気から個体の性格に至るまで造詣を深めておかなければなりません。
それらに基いて、みんなで知恵を出し合い、よりよい環境を実現しようと努力する。
苦労は多いし、思い通りにならないことも多い。
自己満足の部分も多々ありますが、動物の反応が良かった時にはそれまでの苦労がいっぺんに報われます。
今は熊本地震の影響でお客様にはおいでいただいておりませんが、歓声のなくなった動物園ほど寂しいものはありません。
動物たちの反応ももちろんですが、それをご覧いただくお客様の声援が大きな支えであり、やりがいだったのだと飼育係一同改めて痛感しているところです。
動物園は一昔前まで、地球上の野生動物を1ヶ所に集めてお客様にご覧いただくことを主な目的としておりました。
しかし、地球温暖化や生息域の減少など、動物たちを取り巻く環境は決してよい方向に向かっているとは言い難く、動物園の象徴であるゾウやキリン、サイやチンパンジーも見られない時代が来るかもしれません。
そのような状況の中、絶滅しつつある動物をどう守るのか、動物種の保存に力を注ぐだけでなく、動物園に足を運んでくださる方々に動物たちのおかれている環境に思いを馳せていただき、また同じ地球で生きる大切な仲間として改めて見つめ直していただける場を提供することが1つの使命と思っています。
動物園を、動物たちと来園してくださる様々な年代のお客様、動物と人双方に満足していただける場として作り上げるくことが私の目標であり、やりがいです。
 
PB221857縮小.jpg
 
Q 「熊本地震」での担当業務の被災状況は?
 
幸いなことに、私の2班担当の草食獣舎は東側に位置し、園内での被害は軽い方でした。
しかし、園全体でみると
 
園内の地盤沈下、隆起、液状化、獣舎の損壊、
猛獣の展示スペース(運動場)大規模損壊、放飼不可。
上水道・井水ともに給水停止、排水管各所で破断、停電(4月17日未明復旧)

そんな中でも幸いなことに
動物の脱出や死亡なし
飼料確保可能
スタッフの死者・負傷者なし
 
とりわけ猛獣舎の被害が大きく、アムールトラ(到津の森公園)、ユキヒョウ(大牟田市動物園)、ウンピョウ(福岡市動物園)、ライオン(九州自然動物公園)の緊急避難実施。
 
Q 「熊本地震」の際のエピソードなどあれば願いします。
 
4月14日前震の日は、月に1度の全員出勤の日で、飼育係は全体の会議を終え、通常業務
終了後、時間外の勉強会が終わり、自宅に着いて遅い夕食をとろうとした瞬間、激しい揺れに襲われました。
目の前の床に座ってテレビを見ていた娘に「地震だ!こっちこい!」と食卓の下に潜らせたことを覚えています。1時間ほど経過し、園が心配になって駆けつけたところ、同様に職員たちが集合しておりました。
その後、職員一同手分けして、動物の脱出がないか、けがをしている動物がいないか見回りをし、23時半にはすべての動物についてその無事を確認しました。
その時にはすでにSNSで動植物園のライオンが逃げているとの悪質なデマが出ており、事務所で職員が対応に追われていたり、市役所にかなりの問い合わせがきていたことを後で知りました。夜が明けて、獣舎がかなり損傷を受けているのを目の当たりにした時、昼間運動場に出している時でなくて本当によかったと胸をなでおろしたことをはっきりと覚えています。
それから瞬く間に、全国の動物園水族館の皆様からたくさんの救援物資が届けられ、激しい余震が続き、常に地面が動いて生きた心地がしない中で、懸命に動物の世話を続けたことが思い出されます。
なお本震後、被害の大きかった猛獣舎の動物、すなわちアムールトラ、ユキヒョウ、ウンピョウ、ライオンに関しては、現在も九州の他の動物園で預かってもらってます。
 
Q 現在、園内の動物たちや植物の様子はどんな風ですか?
 
地震後に新たな命が誕生しています。
・マサイキリン1頭、ワオキツネザル6頭、アカカンガルー3頭、コクチョウ2頭、オウギバト、
セキショクヤケイ、シロクジャク、キジ類、ホロホロチョウなど
 
・ホッキョクグマ マルルも遊具などを使い元気に遊んでいます。
 
PC084753縮小.jpg
 
・9月8日生まれのマサイキリンの秋平はすくすくと育っており、170cmくらいだった体高も230cm程度まで成長しました。
 
PB220005.JPG
 
・キンシコウ、ゾウなどほとんどの動物も変わらず元気です
 
s-DSC00530.jpg
 
s-PB283926.jpg
 
・地震前に来てまだ皆さんに公開できていなかった動物、アナグマ、ベトナムキジ、コサンケイなども元気にしています。
 
・しかし、地震後7ヶ月も経つと、大切な動物たち、マサイキリンのラン(10月に22歳で死亡、当時マサイキリンの国内最高齢)やポニーのやよい(7月に25歳で死亡)など、長い間動物園で活躍してくれた大切な動物たちも生涯を全うしてゆきました。
 
Q 2016年12月現在の「熊本市動植物園」の復興への見通しはどうなっていますか?
今後、どんな点が課題でしょうか?
 
まだ全面再開の見通しは立っていませんが、現在、復旧工事の手続きを進めているところで、本年度中(3月には被害の少なかった植物園からふれあい広場にかけて部分的に開園する方向で調整をすすめています。
お客様の安全確保や、トイレや授乳室などの付帯設備の修復次第で時期が決まってくると思います。今は出来るだけ早い開園を目指して努力しているところですので、今しばらくお待ちいただきたいと思います。
 
Q 「熊本市動植物園」のHPでの「動植物園だより」が面白いとファンの間で話題になっています。
これまでの面白かったネタなどを紹介して下さい。
 
熊本地震後、動植物園は園内通路や給排水設備、そして獣舎がダメージを受け休園状態にありますが、幸いなことに動物たちには被害がなく、元気に過ごしています。
そこで、お客様に入場いただけない分、ブログで情報発信に努めています。
こまめに更新されますので、ぜひ動植物園だよりをご覧いただければと思います。
最近の記事の中では、11月28日No.112においては、ワオキツネザルの日なたぼっこの様子が掲載されています。
マダガスカルという天敵のいない島に住む彼らの、警戒心のない間抜けな姿をご覧いただけます。
また、園内の池にいるモモイロペリカンも冬場の日当たりのいい日には同じように翼を広げ、体を開いて日光浴をしますので、ご想像いただければと思います。
他には、何度も記事の中で紹介しておりますが、全国の皆様からたくさんの支援の品物をいただき、感謝の気持ちを込めて、動物たちの喜ぶ様子とともにお届けしているところです。
ホームページ担当者によれば、どの記事も面白いので選ぶことはできないとのことでした。
 
Q 「熊本市動植物園」のスタッフならではの「動物園おススメポイント」を教えてください。
 
閉園していても見られる動物がいます。
園の南側江津湖沿いの遊歩道からは、柵越しながら、毎日ゾウやキリンの元気な姿を9時半くらいから16時くらいまで見ることができます。
アフリカゾウは9時半頃に運動場に出すのですが、その時が、1日のうちで最も元気に走り回ったり、鳴き声を出したりで活発に動き回る時間帯です。
マサイキリンについては、9月生まれの秋平が大きくなってきて、父親のリキを筆頭に体格が特大、大、中、小と4サイズになってきましたので見ていて楽しいと思います。
うまく並んだ時はシャッターチャンスです。
 
Q これまでのお仕事を通じてのもっとも印象的なエピソードは何ですか?
 
以前動植物園に所属していた4年間に手がけていたホタルを育てる事業が、実を結んだのかどうかわかりませんが、ここ数年、園内の日本庭園でホタルが数多く見られるようになったという
うれしい知らせがありました。
お亡くなりになった元園長の永田竹四郎先生も喜んでおられることと、在りし日のお姿が偲ばれるところです。
 
Q 熊日出版から発売中の「素顔の動物園」が好評とのこと。
おススメの動物の写真などあればご紹介ください。
 
「素顔の動物園」は、2015年の取材を元に熊本日日新聞に掲載された人気コーナーが一冊の写真集としてまとめられたものですが、新聞の写真とは質が全く違います。
まず表紙について、カメラマンの方がベニイロフラミンゴの首が重なってハートに見える瞬間を狙って撮影されたものです。かなり苦労された、大変見ごたえのある1枚になっております。
またページをめくる度に現れる様々な形態の色鮮やかな動物たち、そしてそこには澄み切った2つの瞳があります。
息を飲む美しさ、そして生物の多様性について存分に感じられる一冊で、それぞれの動物にまつわる楽しいエピソードも紹介されています。
巻末には地震後の動物園の様子も掲載されていますので、読み応え満点でおそらくご満足いただける内容だと思います。
というわけで全てがおススメなのですが、自分の思い入れも含めて独断で取り上げさせていただくとすれば、今は亡き動物たち、すなわちマサイキリンのラン、ミナミシロサイのメグミ、アンゴラコロブス(サル)のハットリくん、クロジャガーのチャぺ、そして7月に死亡したポニーのやよいです。
いずれも園で長い間活躍して人気のあった動物たちです。
ぜひご覧いただきたいと思います。
 
20161208_080603.jpg
 
Q 最後に、リスナーにPRしたいこと、今後の活動予定、お知らせなどあれば教えてください。
 
動物たちの情報は随時、園のHPで発信していますのでぜひご覧下さい。
またネコ科の動物たちについては、地震以降九州の4箇所の動物園に緊急避難をさせていただいています。
福岡県の大牟田市動物園(ユキヒョウ)、福岡市動物園(ウンピョウ)、
北九州市到津の森公園(アムールトラ)、大分県の九州自然動物公園(ライオン)にもぜひ行ってみて下さい。
熊本の復興を支えるために快く引き受けてくださっている、それぞれとても魅力的な動物園です。
熊本市動植物園は、今は地震の影響で残念ながら閉園を余儀なくされていますが、職員一同、
みなさまのご支援やご声援ににできるだけ早くお応えできるよう、一生懸命準備を進めています。お陰様で、年度内に部分的に開園できる見通しが立ちつつあります。
地域のみなさまの動植物園として、ホームページではなく動物たちの迫力ある生の姿、命の鼓動を是非ご覧いただきたいと思っております。
今しばらくお待ちくださいますようお願いいたします。
 
熊本動植物園ホームページ:http://www.ezooko.jp/

-----
本日オンエアのこのコーナーをポッドキャストでも配信中。

FMK Morning Glory

「熊本の朝をさわやかに!」を合言葉にお届けしています。
毎週月曜~木曜の 7:30~10:34
パーソナリティ
月曜・水曜 長木真琴
火曜・木曜 松村奈央
番組ホームページはこちら