崇城大学 生物生命学部 応用微生物工学科 寺本祐司教授

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月曜対談
「ひと」「もの」「こと」に関わるさまざまなトピックを切り取っていくインタビュー「月曜対談」。
崇城大学 生物生命学部 応用微生物工学科の寺本祐司教授がゲストです。
「バイオテクノロジー」について、また暮らしにも身近な「発酵食品」について伺いました。

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●ご出演者のプロフィール
 
名前:寺本祐司 (ふりがな)てらもとゆうじ
所属・肩書き : 崇城大学生物生命学部応用微生物工学科教授
 
プロフィール:
専門:応用微生物学
 
職歴:1989年九州大学大学院博士課程修了(農学博士)
1989年熊本工業大学(現崇城大学)助手
2007年崇城大学教授
2014年バイオテクノロジー研究推進会会長
 
趣味:ロックミュージック鑑賞。
昭和の時代、福岡のライブハウスやホールでスマイリー原島氏がボーカルのアクシデンツを観たことがあります。
上下黄色のスーツを着てがんばっておられました。
 
Q 「バイオテクノロジー研究推進会」について、基本情報をお願います。
 
古来、熊本では清酒、焼酎、味噌、醤油な伝統的でかつ高品質な食品がつくられています。
また個性豊かでユニークな赤酒、高菜漬け、豆腐の味噌漬けなどもつくられています。
さらに納豆は全国的にもトップの品質を誇り、県民に愛されています。
全国的にも珍しい伝統的乾燥納豆「こるまめ」なども存在します。
熊本は発酵王国といっても過言ではないと思います。
全国の吟醸酒に使用されている醸造協会9号酵母は熊本の酒蔵から分離されたもので、熊本酵母とも呼ばれています。
東北、越後、灘、伏見、広島など全国の銘醸地の酒も熊本酵母でつくられていることはひろく知られています。
この熊本の地の発酵産業、バイオテクノロジーのさらなる発展を目的の一つとして創立されたのがバイオテクノロジー研究推進会です。
本会は1982年6月熊本地域の企業・大学・行政名そのバイオ関係者が発起人となって設立された任意団体です。
事務局は崇城大学応用微生物工学科内にあります。
バイオ分野への更なる発展の一助になるよう、バイオ甲子園、研究助成、市民公開講座、先端バイオの技術講習会、工場見学などの活動を行っています。
バイオ甲子園は本会の主たる活動の一つで、バイオ分野、発酵醸造分野の若手育成と若手の活性化を目的にしています。
 
Q そもそも「バイオテクノロジー」とはどんな学問でしょうか?
 
バイオ=生物、テクノロジー=技術です。
バイオテクノロジーは、微生物、植物、動物など、生物を利用して、人の役に立つものをつくったり、人の役に立つことをする技術です。
日本では古来、微生物をもちいて、酒、味噌、醤油、食酢、漬物、納豆、カツオ節など様々な発酵食品がつくられています。
海外でも古来、ワイン、ビール、ハチミツ酒、チーズ、ヨーグルト、パンなど微生物を利用した食品が、つくられています。
現在では、微生物をもちいて抗生物質などの薬品をつくったり、廃水処理をしたり、L‐グルタミン酸ナトリウムなどの旨み発酵調味料をつくったりしています。
その他、医療、食品、薬品、環境、遺伝など様々なジャンルでバイオテクノロジーが利用されています。
 
Q 崇城大学のホームページでは、寺本先生の研究キーワードとして「発酵食品」という言葉が挙げられていますが、「発酵食品」について教えてください。
「発酵」と「腐敗」の違いは何でしょうか?
 
発酵は、主に微生物のはたらきで人の役に立つものができることを意味します。
排水処理のメタン発酵は微生物で人の役に立つことをしています。
広い意味では、微生物ではない酵素のはたらきで紅茶やビールの原料となる麦汁をつくることも発酵と呼びます。
逆に食品などが微生物のはたらきや化学反応などによって変敗したり、有害なものになることを腐敗といいます。
 
Q「発酵食品」の良いところはどんなところでしょうか?
 
一般にコメや穀物を原料とした食品を主として食べる食生活では必須アミノ酸が十分とれなかったり、ビタミン欠乏症がおこったりします。
コメや穀類を発酵させて酒類や味噌醤油などの発酵食品にすると微生物のはたらきで、ビタミン類、アミノ酸、タンパク質がつくられ、それらの一部を補うことができます。
野菜が乳酸菌や酵母菌のはたらきで漬物になると、原料の野菜より栄養が増強され、おなじくダイズを発酵させて納豆にするとビタミン類が増えて栄養価が増すといわれています。
香りで心身をいやすアロマセラピーの方が有名ですが、薬で病気を治すことを化学療法(ケモセラピー)といいます。
抗生物質の英語名はアンティバイオティックスです。
ヨーグルトなどを日ごろから食べていると病気になりにくいと言われ、ヨーグルトなどの発酵食品はプロバイオティクスと呼ばれています。
 
Q 先生がこれまでに出会った「発酵食品」について教えてください。
 
アフリカやアジア諸国の村には、ストローを用いて飲む吸酒管酒が現存します。
現在は宗教上の理由で飲酒をしない中東諸国の紀元前の印(スタンプ)にも吸酒管で飲酒する様子が描かれたものが多数出土しています。

●中東の吸酒管酒(古代バーレーン印(スタンプ)の印影。BC1600~1000)
中東の吸酒管酒(古代バーレーン印(スタンプ)の印影。BC1600~1000).jpg
 
中東の吸酒管酒はイチジク、ナツメヤシ、ブドウを原料につくられていました。
日本ではあまり見かけませんが、アフリカ、アジア、ヨーロッパ諸国ではハチミツ酒が飲まれています。
とくに北欧の神話や伝説には、ハチミツ酒が日本のお神酒のような感じで登場します。
また、ハネムーンという言葉の語源も、ゲルマン民族新婚夫婦のハチミツ酒飲酒の風習に由来するといわれています。
一般に酒類は、現地で沢山とれ比較的容易に手にいるものを原料につくられます。
バナナ焼酎、パイナップルワイン、ヤシ酒、麦芽のかわりに稲芽を用いたライスビールなど世界には様々な酒が存在します。
納豆は日本固有の発酵食品と思われていますが、アジア、インド、アフリカにも納豆が存在します。
現在、納豆の起源は中国と言われています。
インドやネパールの納豆はカレーに利用されています。
キワモノと思われがちな納豆カレーもインドなどでは主流です。
インドネシアにはテンペという納豆に似た食品があり、日本でも製造されています。
東南アジアでは醤油ではなく魚醤が主な調味料になっています。
個性の強い香りを持っていますが、エスニック料理にはなくてはならないものです。
逆にカップ麺、レトルト食品、練り物には魚醤またはタンパク質加水分解物が旨味調味料として加えられているので、知らぬ間に魚醤を口にしている場合もあります。
 
Q 「発酵食品」以外に「発酵醸造酒」など、一見美味しそうな研究テーマが挙げられていますが、研究される上で大変なことはどんなところでしょうか?
 
生活のリズム、研究の時間を、微生物のリズムに合わせることが必要となります。
発酵の状態によって深夜にサンプリングしたり、早朝に仕込を行ったりします。
卒業研究や大学院の研究が体力勝負になることもあります。
微生物を使った研究では、条件によって期待した結果が出ない場合もあります。
また、微生物は生き物ですので、子の世代、孫の世代と微生物を植え継いでゆくと、好ましい特徴が出なくなることもあります。
たとえば、とても良い香りを出す清酒酵母を植え継いで、毎年安定した高品質の清酒をつくることはかなりの努力と手間暇がかかります。
現在も未知の微生物が無数存在し、そのはたらきには無限の可能性があります。
新しい薬、新しい食品、新しい酒、微生物は宝の山です。応用微生物やバイオテクノロジーのパワーを若い科学者の卵である高校生が、バイオ甲子園で爆発させてくれることを期待します。
 
Q 「バイオ甲子園2017」についてご紹介ください。
 
高校生によるバイオに関する研究発表会です。今年26回となります。
今年は、九州沖縄をはじめ中国・四国11県21校25テーマの申請の中から選抜された、8県9校が最優秀賞を目指しプレゼンテーションします。
熊本県からは、宇土高校生物部、東稜高校生物部の皆さんが発表します。
当日発表について質問していただけた方には、オリジナルくまモングッズをプレゼント!
また、情報交換会(茶話会・参加無料)も予定しております。
身近な研究でかつ大変面白い研究ばかりです。どうぞお気軽に、ふるってご参加下さい!
 
バイオ甲子園2017
日時:2017年12月2日(土)10:15~16:00 観覧無料
場所:熊本市国際交流会館大ホール
 
皆様のご来場お待ちしております。
 
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