映画「希望のかなた」

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キネマのススメ

 
毎週、松村奈央が選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、現在公開中の「希望のかなた」です。
今日ご紹介するのは、フィンランドが舞台の映画です。
先日の「大学入試センター試験」の問題で、「ムーミン谷」はフィンランドにあるか否か?が論争となり話題となりましたが、みなさんは“フィンランド”と聞いて、何を思い浮かべますか?
サンタクロース、オーロラ、北欧インテリア・・・、といったものが
多いかもしれませんが、実は映画製作も盛んにおこなわれています。
日本でも、ヘルシンキを舞台にした日本映画「かもめ食堂」がきっかけとなって、フィンランドへの関心が高まり、2009年からは、毎年、フィンランドの映画を集めた「フィンランド映画祭」が開かれているんです。
 
その、フィンランドを代表する映画監督が、アキ・カウリスマキ監督。
お兄さんの、ミカ・カウリスマキ監督と共に製作・配給会社を設立し、数多くの映画作品を制作しています。
1983年に初監督作品「罪と罰」でデビュー以来、ベルリン、ベネチア、カンヌの国際映画祭へ招待される常連監督となりました。いまやフィンランドのみならず、ヨーロッパを代表する映画監督として、新作を待ち望むファンが多い映画作家です。
 
今日ご紹介する「希望のかなた」は、そんなアキ・カウリスマキ監督の最新作で、2017年の「第67回 ベルリン国際映画祭」で、監督賞となる銀熊賞を受賞しています。
カウリスマキ監督は、独特のユーモアを交えながら社会問題を描く作風で知られていますが、「希望のかなた」もそんな1作です。
 
そのストーリーを紹介しますと・・・、内戦の続くシリアから、ヨーロッパに逃れてきた青年、カーリド。
旅の途中で生き別れとなった妹を探すうち、彼はフィンランドのヘルシンキに流れつきます。
しかし、難民申請をしたカーリドを待っていたのは、冷たい移民局の対応と、移民排斥を訴えるネオナチ集団。
言われのない差別と暴力にさらされたカーリドを救ってくれたのは、ひょんなことから知り合った、レストランのオーナー、ヴィクストロム。
彼もまた、行き詰まった過去を捨て、妻とも別れ、人生をやり直そうとしていました。
ヴィクストロムや、その仲間たちに助けられながら、カーリドは新たな未来を探していくのですが・・・。
 
主人公のカーリドを演じるのは、シリア出身のシェルワン・ハジ。
彼は内戦が始まる前の2010年にフィンランドに渡り、監督や俳優としてキャリアを重ねてきた人ですが、今回の役を演じるため、実際に難民としてフィンランドにやってきた彼の友人から、内面についてのリサーチをしたそうです。
ちょっと山田孝之に似た感じの彼が、とても魅力的で「ダブリン国際映画祭」では最優秀主演男優賞も受賞しています。
 
カウリスマキ監督は、この「希望のかなた」を、2011年の「ル・アーヴルの靴みがき」に続く「難民三部作」の2作目と位置付けています。
難民をテーマにした作品ということで、難しい内容じゃないかと思うかもしれませんが、ユーモアを大切にするカウリスマキ監督らしく、クスッと笑える場面もあります。
特に、ヴィクストロムが始める日本料理店のシーンは、ムスッとしたおじさんたちの
ハッピ姿とか、多すぎる寿司のワサビなど、笑いのツボにはまること請け合いです。
 
カウリスマキ映画の特徴は、「極端に少ないセリフ」と「登場人物の無表情」です。
映画の中でいろいろな事件が起きますが、登場人物は、あまり表情を変えずいつも無表情です。
無表情だからと言って冷たい印象を受けるかというと、まったく逆で、登場人物の心の動きが手に取るようにわかって、どんどん登場人物たちが好きになっていきます。
このあたりがカウリスマキ監督の映画マジックなんでしょう。
カウリスマキ監督は、日本の小津安二郎監督の作品が大好きで、大きな影響を受けたと度々発言しています。
小津映画もまた、小さな表情の動きで人の心の機微を描く作品が多く、カウリスマキ作品との共通点が多いですね。
日本の音楽がよくBGMとして使われることが多いのも、そのあたりから来ているのかもしれませんね。
 
この「希望のかなた」には、ハリウッド映画のような「世界を救うヒーロー」は出てきませんが、小さな親切が、やがて、大きな運命さえも変えることができるという、いまとても大切なものを教えてくれる作品になっています。
 
もうひとつ、忘れちゃいけない見所を紹介しておきましょう。
カウリスマキ映画では、俳優以外に重要な登場人物として「犬」が登場してくるのが、一種のお約束みたいになっています。
この「希望のかなた」でも、レストランの従業員がつれてきたジャックラッセルテリアのワンちゃんが、重要な役回りを演じています。
犬好きでなくても、このワンちゃんの可愛さにはメロメロになるんじゃないでしょうか?実はこの犬、カウリスマキ監督の愛犬だそうです。
 
人情っていいな、とほっこりした気持ちになりつつ、もし、私達の目の前にカーリドのような人が現れたら・・・ということも、考えさせてくれる1作です。
 
今日ご紹介した映画「希望のかなた」は、
■Denkikan
で、現在公開中です。
 
「希望のかなた」オフィシャルサイト
 
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