映画「ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男」

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キネマのススメ

 
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松村奈央が選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、現在公開中の「ウィンストン・チャーチル / ヒトラーから世界を救った男」です。
この作品は、今年3月に発表された「第90回アカデミー賞」で、ゲイリー・オールドマンが最優秀主演男優賞を。
メイクアップアーティストの辻一弘が日本人として初めて「メイクアップ&ヘアースタイリング賞」を受賞して大きな話題となりました。
このゴールデン・ウィークに、いよいよ熊本でも公開です。
 
あなたは、ウィンストン・チャーチルという政治家を知っていますか?
歴史の教科書などには、必ず登場するこの人物。勝利を意味する「Vサイン」をした写真などが有名です。
2013年に行われた「世界のCEOが選ぶ最も尊敬するリーダー」では、アップル社のスティーブ・ジョブズやマイクロソフト社のビル・ゲイツ、インドの英雄マハトマ・ガンジーなどを押さえ1位に選ばれました。
そのリーダーシップが、21世紀も変わらず高く評価されている伝説の政治家ウィンストン・チャーチル。
世界の運命を変えた歴史的な1ヶ月を描いたのが今回の作品です。
 
映画は、第二次世界大戦初期のイギリスを舞台に、内閣の閣議記録を基に、ウィンストン・チャーチルが首相に就任する前日の5月9日から6月4日までの、およそ1か月を描いています。
普通の政治家とは全く違う視点を持っていたため、国民からは人気があったものの、議会からは嫌われていたチャーチル。
彼が首相になった時期は、戦車や航空機を駆使したドイツがフランス国土に侵攻し、フランス軍とイギリス軍を中心とした連合軍は、ドーバー海峡に面した港町ダンケルクに
追いつめられていました。
ヒトラーと和平交渉するか、徹底抗戦するか。チャーチルは究極の選択を迫られます。
 
この時の戦いの様子をリアルに描いて、去年話題となったのが、クリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」。
そして、当時のイギリス国王が、2011年のアカデミー作品賞を受賞した「英国王のスピーチ」で描かれた、ジョージ6世です。
 
今回の映画では、当時の歴史を詳しく描くことより、チャーチルの人物像に焦点が当てられているのが特徴です。
朝から晩まで、一日中アルコールを手放さず、気が短くて、すぐに部下を怒鳴り散らす。
一方で、妻には頭が上がらず、大変な勉強家で世界大戦前からヒトラーの本性を見抜き、議会に大きな影響を与える、強烈なリーダーシップの持ち主・・・。
 
こんなチャーチルのキャラクターを見事に演じたゲイリー・オールドマンは、主演男優賞も納得の演技。
そして、チャーチルのルックスを完璧に再現した辻一弘の特殊メイクが、物語に一段と説得力を与えています。
顔の造作や体型、髪形も全く違う二人を似せるために、ゲイリーは毎朝3時にスタジオ入りし、メイク時間に毎日4時間。
合計200時間以上のメイク時間をかけて撮影に臨んでいたそうです!
これだけでもすごい根気と集中力ですよね!
 
ゲイリー・オールドマンは、インタビューにこう答えています。
「他のキャストやスタッフが現場入りする頃には、すでにメイクが仕上がっているから、彼らは、撮影中一度も素顔のゲイリー・オールドマンを見ていないはずだ。ウィンストンとしての僕だけを見ていた。」
また、チャーチルの声を再現するために、オペラ歌手のレッスンを受け、チャーチルの声域まで再現する徹底ぶり。
映画の中でさまざまな決断を強いられるチャーチルは、場面によって、いろいろな表情を見せます。
とても強い表情を見せたり、弱気になって疲れた表情を見せたり、今回のメイクが高く評価されたのは、単にチャーチルに似せるというレベルを超えて、チャーチルの内面を描くまでにメイクのレベルが高かったということだと思います。
 
また、映画の中では、政治家としてのチャーチル以外にも、家庭で過ごすプライベートなチャーチルも描かれます。
チャーチルの妻・クレメンティーンを演じるのは、「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー主演女優賞にノミネートされたこともあるイギリスの名女優・クリスティン・スコット・トーマス。
弱音を吐く夫チャーチルを励まし、鼓舞する妻の 強さ、優しさ、賢さ を素晴らしい演技で見せてくれます。
また、チャーチルの秘書役のリリー・ジェームズもとてもナチュラルな演技で、男性が多いキャストの中で、この妻と秘書の二人の女性がとても重要な役を担っています。
 
歴史的な大きな枠組みのストーリーなのですが、細やかな演出と演技で、物語が進行するにつれ、観客は、当時のイギリスの状況を細部まで知ることができます。
こういう映画は、難しい歴史的用語が乱発されることが多いんですが、登場人物の気持ちを描いたこの作品は、退屈な歴史絵巻にならず、「人間ドラマ」として、とても見応えのあるものになっています。
 
この映画の企画がスタートした時、メイクアップ担当の辻一弘は、一度、映画界を引退し、芸術家としてのキャリアを歩んでいました。
そんな彼の復帰を熱望したのは、ゲイリー・オールドマン本人。監督のジョー・ライトに起用を進言し、「君がこの仕事を受けないならこの役は断る」とまで言い切ったそうです。
 
ゲイリー・オールドマンと辻一弘の友情と努力の結晶から生まれた、素晴らしい作品。
ぜひご覧になってください!
 
今日ご紹介した映画「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」は、
■Denkikan
で、現在公開中です。
 
「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」オフィシャルサイト
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