映画「泣き虫しょったんの奇跡」

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キネマのススメ

 
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松村奈央が選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、現在公開中の「泣き虫しょったんの奇跡」です。
 
さて、去年、中学生棋士として大きな話題となった藤井聡太七段の活躍や「ひふみん」こと加藤一二三九段の大ブレイクなどもあって、将棋が一大ブームになりました。
そのブームにあわせるように、映画界も反応。
伝説の棋士・村山聖を松山ケンイチが演じた「聖の青春」や人気漫画を原作にした神木隆之介主演「三月のライオン」2部作といった将棋をテーマにした映画も作られ、こちらも話題になりました。
今日ご紹介する映画「泣き虫しょったんの奇跡」も、ある実在の棋士の自伝を原作につくられた本格将棋映画です。
 
その棋士とは、瀬川晶司。
小さいころからおとなしくて地味だった、“しょったん”こと瀬川晶司。
あまり将来の夢を持てないでいた小学生のころ、彼は、将棋で初めて周りから認められたことをきっかけに、プロ棋士の道を目指します。
ライバルや師匠との出会いを経て、着々と実力をつけた彼は、14歳でプロへの登竜門である「新進棋士奨励会」に入るのですが・・・。
 
この「新進棋士奨励会」、略して「奨励会」は、いわば、将棋のプロ養成機関。
ここに入ればプロへの道が開けるわけですが、そこには厳しい掟があります。
まず、入る時点で四段以上のプロから推薦された上で毎年8月に行われる試験に合格すること。
ちなみに、毎年の受験者は30~40人、そのうち合格するのは1割~2割。この時点でかなり狭き門です。
会員は160人~170人ほどで、6級から3段までの等級に分かれています。
ここで腕を磨き、26歳までに四段以上になれば、晴れてプロデビュー!!となるんですが、逆に言うと、26歳までに四段になれなかったら問答無用で退会です。
つまり、われわれが「プロ棋士」として名前を知る人たちは、この難関を潜り抜けて、プロになった人ばかりなのです。
 
“しょったん”こと瀬川さんは、このプレッシャーに負け、26歳までに四段になれませんでした。
映画の前半では、彼が負ける様子が何度も何度も出てきます。
子どものころから将棋一筋、ほかの仕事など考えたこともない・・・。
一度は絶望の淵に落とされ、一般企業でサラリーマンをはじめた瀬川さんですが、友人との再会をきっかけに、再び将棋の楽しさに気づき、もう一度プロを目指すことになります。
ただ、一旦奨励会を退会した棋士をプロ棋士として、認めることは、将棋界の慣例を大きく変えること。
当然、反対する人も出てきます。
果たして、「しょったん」は、プロになることができるのでしょうか?
 
主役の“しょったん”こと瀬川晶司を演じるのは、松田龍平。
そのほか、永山絢斗、「RADWINPS」の野田洋次郎、妻夫木聡。
染谷将太、藤原竜也、松たか子、イッセー尾形、小林薫、國村 隼など、豪華キャストが共演しています。
 
実は、この作品の監督、豊田利晃監督自身、奨励会に所属し、プロ棋士を目指した過去の持ち主。
なんと監督は9歳で入会し、その快挙は当時ローカルニュースで新聞やテレビに取り上げられたこともあるんだとか!
そんな天才少年だった豊田監督も、17歳で挫折し、将棋界から身を引いたそうですが、その時の経験が、今回の映画でも存分に発揮されています。
 
例えば、試合を始める前、将棋盤に駒を並べるシーンなど、通常のドラマや映画では省略してしまいそうな場面も丁寧に描いていて、駒を動かす指の動きまで詳細に演出したそうです。
ちなみに、映画の冒頭に駒を並べる手のアップが画面に映るんですが、この手は、原作者・瀬川晶司さんご本人の手だそうです。
 
さらに、映画の中で描かれる数多くの勝負も、当時の棋譜が残っているので、駒の配置まで実際の場面のとおりに再現されています。
豊田監督は、「駒の動きは、時代劇でいうところの刀の作法と同じようなこと。そこがおろそかだとシラケてしまいます。」とインタビューで語っています。
 
勝負に負けた敗者が、最後に言う「負けました」という言葉。
この言葉の重みが、これまで将棋を描いた映画では、描かれていなかった「重み」をもって表現されているのも、見逃せないポイントです。
いろいろな負け方が描かれますので注目してご覧下さい。
 
豊田監督と松田龍平は、2001年の「青い春」でコンビを組んでいて、信頼も厚い関係です。
豊田監督は、自分の青春と重なる将棋界の物語に、もっとも信頼する俳優・松田龍平をキャスティング。
監督20年目の節目の作品として、自らの青春に決着をつけるかのような見事な作品を完成させました。
 
物語の背景は将棋の世界ですが、一度挫折を味わった主人公がもう一度這い上がっていく姿は、どんな人でも共感できるはず。
爽やかな感動と元気をもらえる1本ですよ!
 
今日ご紹介した映画「泣き虫しょったんの奇跡」は、
■TOHOシネマズ 光の森
■TOHOシネマズ はません
で、現在公開中です。
 
将棋のことに詳しい人はもちろん、将棋のルールをまったく知らない人も、挫折から再び立ち直る一級の「青春映画」として、楽しめる1本です。
今日は、映画「泣き虫しょったんの奇跡」を紹介しました。
 
以上、「キネマのススメ」でした。
 
泣き虫しょったんの奇跡」オフィシャルサイト
 
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