毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、今週土曜日・11月26日から公開される「永い言い訳」です。
2003年の「蛇イチゴ」で監督デビューして以来、「ゆれる」、「ディア・ドクター」、
「夢売るふたり」と、一貫してオリジナル脚本で映画を撮ってきた西川美和監督。
ベストセラーの小説や漫画原作が主流の日本映画界で常にオリジナルで映画を発表しているのは、それだけ西川監督のストーリー作りが高く評価されているからです。
今日ご紹介する「永い言い訳」は、彼女の最新作にして、初めて映画に先行して原作小説を描き下ろしたことでも話題の一本です。
小説家が自分の作品を監督するというパターンはこれまでも少なくなかったんですが、映画監督が小説も執筆して、その小説が映画化されるというのは、なかなかありません。
直木賞や本屋対象の候補ともなったこの原作小説は、映画化が発表される前からかなり話題になっていました。
そんな「永い言い訳」のストーリーはと言いますと・・・・・。
主人公の名前は、衣笠幸夫。そうあの野球界の鉄人・衣笠祥雄と同姓同名の名前なんです。
偉大な人物と同じ名前だということに、主人公・幸夫は、長い間コンプレックスを抱いていました。
作家としては、ペンネーム津村啓として、華やかに活躍する小説家ですが、プライベートの幸夫は、屈折した人物でした。
ある日、結婚して20年になる妻・夏子が、親友とともにスキー旅行に出かけ、バス事故に遭い帰らぬ人になってしまいます。
しかし冷え切った夫婦関係となっていた幸夫は、妻の死を素直に悲しむことができずにいました。
それでもテレビの取材などで「悲劇の遺族」を演じるしかなかった幸夫。
そんな時彼は、夏子と共に亡くなった親友・ゆきの夫、大宮陽一と、2人の子供たちと出会います。
最初は、小説のネタにしようという下心があって大宮の家族と交流することになった幸夫。
子供たちの面倒をみるうちに彼にも心の変化が起きていくのですが・・・・・。
主人公の幸夫を演じているのが、「おくりびと」以来、7年ぶりの本格主演をつとめる本木雅弘。
端正なルックスもあってか、最近は淡々としたストイックな役柄が多かった彼。
昨年は「日本のいちばん長い日」で昭和天皇を演じ、演技賞も数多く受賞しました。
今回は、非常に人間臭い人物。人間の内面を鋭くえぐる西川作品の主人公らしい、生身の人間味あふれるキャラクターを演じています。
対する、大宮陽一役には、ミュージシャンとして活躍する、竹原ピストル。
幸夫と対照的な、武骨だけれども愛すべきチャーミングな男を好演しています。
プロの俳優には出せない荒削りな存在感が素晴らしいです。
陽一の2人の子供たちには、オーディションで選ばれた藤田健心と白鳥玉季。
当時ほとんど演技経験がなかったという2人ですが、
ナチュラルで素晴らしい演技を見せてくれます。
西川監督の師匠である是枝裕和監督は、子役の使い方が
うまい監督で知られていますが、西川監督も師匠に負けていない、素晴らしい演出です。
また、幸夫の妻・夏子役を演じる深津絵里は、
出番は少ないながら、全編を通して大きな存在感を感じさせてくれます。
多くの映画が1か月ほどの撮影期間なのに対して、この映画は9か月もの時間を費やして
季節の移り変わりと共に変化する、登場人物の心の動きを丁寧に描いています。
短期間に撮影を終えてしまう日本映画界でこの9カ月の撮影期間というのは、かなり贅沢です。
また、その時間をかけただけの成果が、しっかりと映像となって残っています。
子供たちの成長ぶり、そして主演の本木雅弘の変貌ぶりにもぜひ注目してみてください。
今日ご紹介した映画「永い言い訳」は、
■TOHOシネマズ 光の森
■Denkikan
で、今週土曜日・11月26日から公開されます。
「永い言い訳」 オフィシャルサイト