ラジオ局エフエム・クマモト「FMK Morning Glory」の番組ブログ
[メニュー][トップ]

熊本大学薬学部 薬学部長 甲斐広文さん


2020/04/27 10:25

「ひと」「もの」「こと」に関わるさまざまなトピックを切り取っていくインタビュー「月曜対談」。
熊本大学薬学部 薬学部長の甲斐広文さんに公衆衛生の観点から新型コロナウイルスの感染を防ぐために大切なことについて、お話を伺いました。
 
Q@ 新型コロナウイルスは「密閉、密集、密接」が重なる場所で感染拡大のリスクが高いと言われていますが、この「3つの密」について改めてわかりやすく教えてください。
 
はい、3つの「密」ですが、一つ目の「密」は、換気の悪い密閉空間、二つ目の「密」は、多数が集まる密集場所、三つ目の「密」は、間近で会話や発声をする密接場面です。
例えば、換気の良くない部屋で、大勢の仲間と朝まで大声で何曲も歌っている場面をイメージしてください。
部屋の外に歌声が漏れないようにするために、ドアは締め切っています。気の合う仲間が寄り添い、歌を歌うと沢山の唾が飛び散ります。
マイクをお互いに手渡します。楽しくなるとハイタッチをしながら歌います。
この間に、あなたの手が、自分の口や鼻や目を無意識に触れます。そのような場面が三つの「密」が重なっている状況です。
 
QA なぜこの「3つの密」が重なる場所が危険なのでしょうか?
 
ウイルスは自分自身の力で飛び回るのではなく、ウイルスは人間が運びます。
人が吐き出した唾や手の接触などを介してウイルスが運ばれていきます。
三つの「密」が重なる場所は、会話などで飛び散るしぶきに含まれるウイルスを吸い込みやすい環境だからです。
それゆえに、感染のリスクをできるかぎり減らすためには、一つでもあったら感染する可能性があると思って、三つの「密」が一つも無いことをできるかぎり目指すことが大切です。
 
QB 普段の生活の中で「3つの密」が重ならないようにするためには、どういった工夫をしたらよいでしょうか?
 
一つ目の密閉空間にしないためには、例えば、目安として一時間に2回以上、1回数分間換気をして、風の流れができるようにしてください。
一部屋あたりの人数をできるなら減らしてください。
公共機関を利用する場合も、窓が開く場合は、窓をあけておくとよいと思います。
二つ目の密集にならないためには、できるだけ、互いに両手をひろげて当たらない距離を保ってください。
また食事に行った際は、真向かいに座らないようにするのも一つの方法です。
飲食店も、今、とても大変な時期ですが、椅子の配置等を工夫すると良いと思います。
それから、エレベーターに乗る際も、混んでいるようであれば、次の機会の空いている時に乗るのも一つの方法です。
健康のためにもなりますので、階段を利用するのも良いと思います。
三つ目の密接にならないためには、距離をとって、マスクを着用すると良いです。
「会話5分間」は「咳1回分」になるという世界保健機関WHOの報告もあります。
密閉の場所にいる場合は、会話や、携帯による通話をするのは、できるだけ控えておくと良いと思います。
そして、最後に、私が考える四つ目の密は、いつもそばに、「密」にいる「人」です。
いつもそばにいる人達が、感染予防や3つの「密」の意識を持ってきちんと行動している人達かどうかを意識する事です。
例えば、もし、いつもそばにいる人が、自分はコロナにかからないから大丈夫と言いつつ、かつ、手洗いもしない、感染予防の対策の意識が低い人であったらどうでしょうか。
それは、大きな感染リスクになります。その場合は、「密」にいる「人」と感染予防の意識をぜひ共有してください。
とにかく、誰一人、例外なく、国民全員が正しい知識を持ち、正しく行動することが重要であります。
 
QC 新型コロナウイルスの感染を防ぐために、マスクの着用や手洗いが大切ということですが、その重要性について詳しく教えてください。
 
手洗いは、人類ができる感染症対策の最高の手段です。
一般に、感染症の多くは、“手”を介して体内に侵入することが多いと言われています。
日常生活を送るにあたり、手にウイルスが付着することを未然に防ぐことは困難です。
ですから、様々な感染症から身を守るためには、手から体内への侵入を遮断する「手洗い」がとても大切になります。
手洗いは、帰宅時や食事前だけでなく、共有のパソコン、トイレのドアや会社の入り口など、不特定多数の人が触るようなものに触れた後にも、可能な限り、意識して行うことが大切です。
少し神経質に思われるかもしれませんが、今のこの状況では、意識して頻繁に手洗いを行うことが何より大切と思います。
そして、マスクには、3つ目の「密」である密接を避ける以外に、もう一つの重要な役割があります。
その役割は、感染し、重症になってしまう人の立場になってみるとわかります。
重症化する人は、自分の目の前に、マスクをしていない人がいると大変不安になります。
それゆえに、健康な人のマスク着用は、心の「不安」を周りの人に与えないという役割を持っています。
健康という人も、手作りでも良いですから、マスクを着用しましょう。
 
QD 手洗いの際に注意することなどはございますか?
 
手洗いは、石けんを使い、指先、手の甲、親指、指の間と、洗い残しやすい部分も忘れずに、しっかりと時間をかけておこなうことが基本です。
手洗いの時間の目安は、「ハッピーバースデーツーユー」の歌を2回歌うぐらいの長さ「約20秒」であります。洗い終わったら、流水でしっかりすすいでください。
これで十分ですが、気になる場合は、これを2回繰り返してください。
それでウイルスはほぼゼロになるということもわかっています。
そして最後に、使い捨てのペーパータオルが無くても、清潔なハンカチやタオルなどでふき取ってください。
その場合、念のために、家族でタオルを共有するのは避けておいた方が良いと思います。
液体石鹸である必要もありません。固形石鹸でも大丈夫です。
アルコールが無くても、石鹸を使った手洗いでも十分大丈夫です。
そして、アルコールを使う場合は、70-80%の範囲のアルコール濃度が重要です。
その濃度のアルコールを使わないと消毒効果は無い事は知っておいてください。
 
1.png
 
QE 新型コロナウイルスの感染者が確認された際には、「濃厚接触者」の確認も同時に行われますが、この「濃厚接触」とはどういうことなのでしょうか?
 
「濃厚接触者」とは、感染者が咳や熱などの症状が出始めた後に接触した人です。
そして、新しい定義として、感染者が咳や熱などの症状が出始めた日の2日前の、いわゆる、無症状の日から、1メートル以内で15分以上接触していた人も「濃厚接触者」として追加されました。
ただし、例外条件があります。
それは、症状が出る前の感染者が、いつも、マスクの着用や手洗いなど周囲へ感染させない対策をとっていた場合は、2日前から、1メートル以内で15分以上接触していた人であっても、原則、「濃厚接触者」になりません。
これは、無症状であっても、国民全員が、マスク着用、手洗いなどをきちんとしておくことが、「濃厚接触者」を増やさないということにもなります。
これに関係して、とても大切なことがあります。
それは、国民全員が咳や熱などの症状が出始めた日の2日前の情報を把握しておく必要があります。
そのための対策は、毎日の健康状態と行動を記録する日記をつけることです。
この日記は、朝と夜の体温と体の変化を付ける健康記録になり、誰と、どのくらいの時間、一緒にいたかという行動記録にもなります。
この日記により、自分が感染者になった場合に、あるいは、一緒にいた人が感染者になった場合に、「濃厚接触者」であるかを迅速に調べることができます。
それが、感染の拡大を最小限に食い止めることができます。国民全員の力で、急激な感染拡大を起こさないようにし、医療体制を守ることが大切です。
 
QF 先ほどのマスク着用や手洗い以外のも、普段の生活の中で私たちができる新型コロナウイルス対策などはございますか?
 
日々の食生活や運動や睡眠は、自分の体の免疫力を高めるために極めて重要です。
とにかく、疲労がたまらない生活をすることです。
さらに、3つの「密」を避けるために、換気を良くしている場所に行く時は、寒く無いように厚着をしておくことも必要です。
いわゆる普通の風邪をひかないようにしてください。
実際は、新型コロナでは無いのに、風邪の症状から不必要な心配をしたり、周りにも不安を与えることになってしまいます。
また、直接のウイルス対策ではありませんが、日々、繰り返されるマスコミからの情報や危機を煽るようなSNSの情報を見すぎないことです。
これは、心の「不安」の対策に必要なことです。
1日の中で、必ず、コロナの事を考えない時間を作ることも重要です。
 
QG 最後にラジオをお聴きの皆さんへメッセージをどうぞ。
 
今は、皆さん、本当に心配な日々をお過ごしかと思います。
今の自粛は、医療崩壊を防ぐことが主な目的です。
医療体制が整い、さらに薬やワクチンが使えるようになるまで、感染拡大を抑えないといけません。
私が最後にお伝えしたいことは、新型コロナウイルスの感染者とともに、医療の現場で戦っている医療者や重篤になりやすい人たちへの思いやりを持ってくださいということです。
感染者に対して、決して、「差別や偏見」の気持ちを持たないでください。
これは、感染者が、「差別や偏見」を受けるのを恐れ、潜んでしまうことにもなります。
そのことは、特定できない感染者を増大させることにも繋がります。
皆さんの思いやりが感染症対策になります。
私は、この自粛期間を、今までにない新たな社会の仕組みを考える時間として、経済をうまく回すための知恵を出す時間として活用しています。
つまり、私にとって、この自粛期間は、受け身では無く、攻めるための時間であると考えるようにしています。
熊本地震の時と同じように、皆で今、何ができるか知恵を出し合い、乗り越えていきましょう。
 
-----
本日オンエアのこのコーナーをポッドキャストでも配信中。
詳しくはここ↓
ポッドキャストへはここをクリック!