毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
松村奈央が選んだ映画をご紹介しています。
今日は、現在公開中の「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」をご紹介します。
みなさんは、サンフランシスコというと、どんなイメージがありますか?
坂道を走るケーブルカーや、ゴールデンゲート・ブリッジが有名な観光の街、最近では、シリコンバレーが近いことから、IT企業の街、といったイメージを持つ方もいらっしゃると思います。
今日ご紹介する映画「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」はサンフランシスコで生まれ育ったジョー・タルボット監督と主演俳優ジミー・フェイルズの経験を元に作られた、社会派映画です。
社会派と言っても、難しい映画ではありません。
制作したのは、いま最も旬な映画スタジオと言われている「A24」と人気俳優ブラッド・ピットの制作会社「PLAN B」です。
実は、この組み合わせは、アカデミー作品賞を受賞した「ムーンライト」の制作チームでもあります。
では、そのストーリーを少しご紹介しましょう。
主人公のジミーは、サンフランシスコに生まれ育った黒人の青年。
街の再開発に伴い、税金が払えなくなった父のせいで
祖父が建て、家族の思い出が詰まったビクトリア様式の家を追われ、家族はバラバラに。
今は親友のモントの家に居候するジミーですが、いつかまたあの家に住みたいと思っていました。
そんな中、現在の家主が家を手放すことになり、ジミーはモントと共に家を取り戻そうと奔走するのですが…。
この作品、普通に観ても面白いのですが、サンフランシスコという街の歴史や
現況について知っていると、さらにジミーの気持ちが理解できると思います。
実はサンフランシスコは、現在のアメリカで、最も格差の大きい街の1つ。
1LDKの平均家賃は37万円、快適に暮らすための年収は1800万円必要と言われています。
歴史を紐解くと、もともとサンフランシスコは、19世紀のゴールドラッシュの時代から、白人、アジア系、アフリカ系、ヒスパニック系と、色んな人種が共存していました。
またカウンターカルチャーが盛んで、1950年代はビートジェネレーション、60年代はヒッピー、70年代にはLGBTQの中心地となり、マイノリティの住みやすい街として、世界中から人々が集まってきていたんです。
ところがベイエリアにある大学の研究者や技術者がベンチャー企業を立ち上げる“シリコンバレー”が90年代に起こると、街の雰囲気は一変。
最先端のIT企業で働くリッチな白人達が押し寄せて再開発が進み、古くから住んでいた人達が立ち退きを迫られて、郊外や居住環境の悪い地域へと押しやられ、最悪のケースはホームレスとなりました。
そんな状況に迫られたのは、ほとんどが有色人種の人々で、この映画の主演を務めるジミー・フェイルズも、そんな経験をした1人。
とくに家族に関するエピソードは、ほとんど事実に基づいているそうです。
また劇中、ジミーが車で生活をしていたことが語られますが、実際サンフランシスコでは、車中泊をしている人が、2017年から19年の間に45%も増えたそうです。
こう聞くと、怒りが詰まった映画ではないかと思うかもしれませんが、この作品から伝わってくるのは、古き良き時代のサンフランシスコを懐かしむ気持ちと、街への愛情。住む場所が変わっていく中でも、故郷を思う気持ちは誰もが共感できるところだと思います。
行定勲監督は、熊本を舞台にした映画「うつくしいひと」シリーズを通して、「映画には記録する役割があると感じた」とインタビューに答えていました。
熊本地震の前と後の熊本の風景を映画として残すことで、未来へ大きなメッセージを送っています。
この作品「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」は、まさに今のサンフランシスコの姿を記録した映画と言えます。
ぜひスクリーンでご覧になってみてください。
今日ご紹介した映画「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」は、
■Denkikan
で、現在公開中です。
「ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ」オフィシャルサイト
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