毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。

毎週、松村奈央が選んだ映画をご紹介しています。

 

今日ご紹介するのは、現在公開中の「はじめてのおもてなし」です。

この映画は、ハリウッドの映画ではありません。ドイツの映画です。

ドイツをはじめとするヨーロッパの映画界は、世界の映画の最先端とも言われていて、ドイツの「ベルリン国際映画祭」、フランスの「カンヌ国際映画祭」、イタリアの「ベネチア国際映画祭」と、それぞれの国ごとに大きな映画祭があり、毎年たくさんの観客でにぎわっています。

先日開催された「ベルリン国際映画祭」では、熊本出身の行定勲監督の最新作「リバーズ・エッジ」が、国際批評家連盟賞という大きな賞を受賞して、日本でも話題になりましたね。

ハリウッドとは、ひとあじ違った新しい映画の潮流が、ヨーロッパの映画祭からどんどん世界へ紹介されています。

 

そんなヨーロッパを代表するのが、ドイツの映画界です。

“ドイツ映画”というと、あなたはどんなイメージを持たれるでしょうか？

ナチスドイツをテーマにした歴史ドラマや、社会問題に焦点を当てたヒューマンドラマなど、“質実剛健”な国そのままのハードなイメージを持つ人が多いのではないかと思います。

 

今日ご紹介する映画「はじめてのおもてなし」は、そんな社会性を反映したドイツらしさと、ホームコメディという意外性が組み合わされた1本。

本国のドイツでは2016年に公開され、ドイツアカデミー賞の観客賞を受賞。

その年の興収NO.1の大ヒットとなった作品です。

ドイツの観客が、その年に最も愛した映画と言っていいでしょう。

 

主役となるのは、ミュンヘンの閑静な住宅街に暮らす、ハートマン一家。

普段は、大病院の外科医のボスとして働く夫のリヒャルトと、教師を定年退職した妻のアンゲリカの二人暮らしで、たまに長男と長女が訪ねてくる静かで平和な日常です。

ところがある日、社会活動に目覚めたアンゲリカが、難民を受け入れると宣言！

夫や子供たちが猛反対する中、ナイジェリアから来た青年ディアロがハートマン家に住むことになります。

 

社会問題とホームコメディを組み合わせた映画といえば、山田洋次監督の「家族はつらいよ」がありますが、この作品「はじめてのおもてなし」はまさに“ドイツ版・家族はつらいよ”という感じ。

「家族はつらいよ」の家族が、それぞれうっぷんを吐き出しながら、ドタバタのコメディで笑わせてくれたように、ハートマン一家も、ディアロとの文化のギャップで笑わせつつ、家族の問題点が浮き彫りになっていきます。

 

しかし最も違うのは、ディアロが難民であること。

物語はフィクションですが、彼がドイツに逃げてきた経緯は、実際の人々からリサーチされていて、イスラム過激派に襲われて家族を亡くしたエピソードや、価値観の違いに戸惑う場面、難民とテロとの関わりなどは、かなりリアルに描かれています。

ディアロを演じるエリック・カボンゴは、コンゴ生まれで、映画プロデューサーやミュージシャンが本業の人物。

演技経験はあまりないのにもかかわらず、この難民ディアロの役を見事に演じています。

とてもつらい経験をした過去を持ちながら、人生を前向きに生きているディアロの姿は、この映画全体にとてもさわやかな雰囲気を醸し出しています。

映画を観ている人が全員ディアロが好きになって、応援したい気持ちになっていくはずです。

ドイツでは、2010年にメルケル首相が、シリアやアフガニスタンからの難民100万人を入国させると発表し、賛成派と反対派が激しく対立、いまもドイツ国内は、この問題で揺れ続けています。

この映画は、そんな社会にとって誰もが関心のある重要なテーマを、難しくなく、優しい語り口で映像化しています。

 

この「キネマのススメ」のコーナーで先日紹介した「希望のかなた」、「パディントン２」、「グレイテスト・ショーマン」などの映画は、どれも「外部の人間を社会がどう受け入れるか」というテーマの作品でした。

 

欧米では、いま“他者（多文化）の理解や共生”をテーマにした作品が目立ちます。

彼らほどまだ切実ではありませんが、日本も２０２０年の東京オリンピックを控え、

国際交流が増えることは確実。

映画をきっかけに、そんなことも少し考えてみるのには、絶好の作品ではないでしょうか？

 

日本の映画とハリウッドの映画ばかり見ている人には、初めてみるドイツ映画としては、ピッタリの作品ですよ。

 

今日ご紹介した映画「はじめてのおもてなし」は、

■Ｄｅｎｋｉｋａｎ

で、現在公開中です。

 

「はじめてのおもてなし」オフィシャルサイト

http://www.cetera.co.jp/welcome/