「作って贈ろう!盲学校用飛び出す音声地図のモノづくり教室」

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月曜対談
「ひと」「もの」「こと」に関わるさまざまなトピックを切り取っていくインタビュー「月曜対談」。
熊本大学工学部「音声展示教具」グループから須惠耕二さんと、和久屋愛実さん山下玲音さんがゲストです。
2月18日(日)に行われるイベント「作って贈ろう!盲学校用飛び出す音声地図のモノづくり教室」について伺います。

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●ご出演者のプロフィール
 
名前:須惠耕二(ふりがな)すえこうじ
所属:熊本大学工学部技術部電気応用グループ技術専門職員
プロフィール:
熊本市出身の51歳。
熊本電波高専を卒業後、2年間のボランティアを経て大学の技術職員になり、11年前に熊本大学へ。
平成23年に、熊本盲学校の要望で点字タイプのキー入力を音声で教える「音声式点字タイプ」をグループ開発し寄贈して以来、盲教育現場で必要とされる様々な新教材を開発して全国の盲学校に寄贈する活動を展開。
これらの教材を学生のものづくり講習会で製作指導し、その作品を全国に贈る「社会貢献型学生ものづくり教育」を実践中。
自らも開発を続けつつ、本取組から生まれた工学部公認学生サークル「ソレイユ」(在籍28名)の指導にあたっている。
ホームページ、ブログなど:
 
名前:和久屋愛実(ふりがな)わくやまなみ
所属:熊本大学工学部情報電気電子工学科2年
プロフィール:
佐賀県出身。学生サークル「ソレイユ」のメンバーで現在、アプリ開発を担当。
9月に行われた高校生イベントで指導員を務める等、2年生の中心メンバーの一人。
 
名前:山下玲音(ふりがな)やましたれおん
所属:熊本大学工学部情報電気電子工学科3年
プロフィール:
福岡県出身。今年、北九州高専から編入学してすぐにサークル「ソレイユ」に参加。
現在、地図教材の新作開発を担当。今年度の学生ものづくりプロジェクトの代表。
 
Q 今回の活動の主体となる「事務局」の基本情報を教えて下さい。
 
熊本大学工学部「音声点字教具」グループ
〒860-8555熊本市黒髪2丁目39-1熊本大学工学部総合研究棟1102-5(技術部室)
TEL:096-342-3623FAX:096-342-3630(情報電気電子工学科事務室)
「音声点字教具」グループホームページ
 
Q まず、熊本大学が取り組んできたこれまでの活動について教えて下さい。
 
平成23年に熊本県立盲学校の要望で、点字タイプの入力を音声応答する「音声式点字タイプ」を開発してクリスマスに3台寄贈したところ全国にご紹介されて沢山の導入希望を頂きました。
先天性の全盲児への教育は私たちには想像できないほど難しく複雑な世界です。
大学では通常、新開発があると企業と連携して製品化という流れを取りますが、盲学校用の教材は専門の先生方が使用して初めて正しい教育効果が生まれるという特殊性から市販には向きません。
製品化できても多くの販売数が見込めないと高価格になり盲学校が簡単に入手できなくなります。
それでは、たとえ良い教材を開発できても、必要とする生徒さんの手元に届くことになりません。
そこで、学生向けのものづくり講習会を企画して、その中で開発手法を学生たちに学んで貰い、完成したものは大学では不要品なので、欲しいと言って下さる全国の盲学校に寄贈することにしました。
この方法は、学生が社会で実在するニーズの製品開発を学べ、寄贈で社会貢献もできるという新しいものづくり教育活動として各方面からご賛同頂けるものになりました。
そして5年ほど前に、この製作講習に参加してきた学生が集まって自主サークルを立上げ、後輩たちを集め始めました。
工学部の学生は大変忙しく、なかなか思うように時間は取れないのですが少しずつ学んで地力をつけ、学生自らも製作・寄贈する社会貢献プロジェクトを企画するようになり、一緒に活動してくれるようになりました。
昨年、正式に工学部公認のサークルとなり、現在は28名の学生が在籍して活動しています。
私たちの活動スタイルは、全国の盲学校の先生方から「こんな教材がほしい」という要望を伺い、その開発をして試作品を盲学校で評価して頂き、全国の視覚障がい教育の研究会で紹介して導入希望を集め、数年かけてでも寄贈していく、という形に固まってきました。
これまでに音声式の幾つかの点字学習教具や、指で触れて校舎の中を理解できる盲学校の建築模型、そしてこのあと紹介します音声式の地図教材などを開発してきました。
7年間で全国ほぼすべての盲学校・視覚特別支援学校に計180台以上の新教具を寄贈させて頂き、年度内には200台を超える見込みとなっています。
 
Q 今回、2月18日(日)に行われるイベント「作って贈ろう!盲学校用飛び出す音声地図のモノづくり教室」について、まず、このイベントを開催することになった「きっかけ」や目的を教えてください
 
大学には寄贈するための予算はないので、沢山の導入希望に応えるには外部資金を申請するしかありません。
そこで、これまで学生向けに教えてきた講習を、県内の高校生に製作体験してもらって作品を寄贈するイベントに仕立て、平成25年から日本学術振興会の助成で開始しました。
今回、イベントの製作テーマにしている「飛び出す音声地図」は全国53校から導入希望を頂いており、しかも「早く欲しい」という希望が多かったので、より迅速に寄贈できる方法を見つける必要がありました。
そこで今年は、(公財)日本教育公務員弘済会にも新たな助成を申請したところ採択されましたので、高校生向けのイベント内容のまま、2月に中学生向けにも実施できることになりました。これが今回のイベントです。
寄贈を掲げて実施しているイベントですが、高校生や中学生の皆さんに、視覚障がいとその教育について知って頂いて、ものづくりに挑戦した自分の作品がどこかで目の見えない生徒さんを笑顔にしていることを感じてもらえたら、参加した生徒さんが自分の進路を考えるうえで何か良いモチベーションにつながるかもしれない、ということで毎年やらせてもらっています。
 
Q 今回のイベントでは、具体的にどんなことをするのでしょうか?
「飛び出す音声地図」とはどんなもの?
 
今回作ってもらうのは、全盲の生徒さんが日本地図を学ぶために開発したもので、全部の都道府県のコマがスイッチになっていて、押すと3mmほど浮き上がって、その都道府県名を音声で教えます。
使うために、まず沖縄県パネルを回転させて本来の位置にセットします。
こうすることで、日本列島が実際の方角に一直線に並びます。そして、電源を入れると音声で知らせてくれますので、各県のコマを押して浮き上がらせることで所在位置と県名が確認でき、また県境の形も指先で調べることができます。
クイズモードもあります。
出題された県を押すまでは、ずっとチャイムを鳴らして待っています。
正解すると、「正解!〇〇県です」とアナウンスしてくれるので、生徒さんは遊び感覚で自然と日本地図が身についていくようになっています。
ポップアップする地図なので「ポップまっぷ」と名付けて現在、全国の盲学校に寄贈を続けています。
 
この「ポップまっぷ」を製作体験できる中学生向けイベントを、2月18日(日)朝9時から熊本大学工学部で開催します。
都道府県スイッチ取付から内部のはんだ付け、マイコンへの配線、本体パネルや木製フレームの接着・組立をひと通り体験してもらい、1日かけて完成させる講習会です。
高校生イベントでは一人1台作って貰いましたが、今回は中学生なので二人一組で1台を製作して貰おうと思います。
とはいえ、1日で教材1台を全部作ることはできないので、難しい部品は私たち学生サークルが前もって準備し、7割程度の工程を製作体験してもらう予定です。
それでも十分作り応えがあって、9月に参加した高校生たちも頑張って作り上げていました。
作品は後日完成検査をして全国に寄贈するのですが、実は寄贈校から製作した生徒宛に御礼のハガキが届くようにしてあって、自分の作った教材が盲学校でどのように使われているかを知ることができます。
なにより「作って下さってありがとう」という言葉に感動した、と言います。
中学生は、本格的なものづくりは初めてだと思いますが、私たち熊大生が作り方をしっかり教えますので、だれでも安心して参加できます。
また、盲学校の先生が来られて、視覚障がいについて、また盲学校の教育について分かりやすくご講演されます。
この講演だけでも聴いて欲しいと思う位に勉強になります。
このイベントは、作業は確かに多いですが、参加する側、私たち教える側、そして作品をもらう盲学校側と皆がそれぞれに喜べる、とっても幸せなイベントじゃないかな、と思っています。
 
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Qイベントの対象は?
参加するには、どうしたらいいですか?
参加費は?申し込み先などもお願いします。
 
中学生が対象で、今回は2人一組で16組、計32名まで申し込み頂けます。
一人での申し込みも大丈夫で、参加費は無料です。
熊本市内の各中学校にはチラシをお配りしています。
申込はメールでお願いします。
「熊本大学音声点字」でGoogle検索頂ければ、私たちの「音声点字教具」サイトが出ますので、イベント情報ページから申込情報をご覧いただけます。
先着順ですので、ぜひお早めに申し込まれてください。
 
申込先:E-mail:popmap2018@tech.eng.kumamoto-u.ac.jp
件名:「中学生イベント申込」
本文:(1)氏名・ふりがな(2)学校名・学年(3)郵便番号・自宅住所(4)電話番号
(5)二人で申し込む場合は相手の名前
締切日:2月5日(月)必着
 
 
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Q 活動を通じての苦労、やりがいとは何ですか?
 
学生実験やレポートに追われる毎日で、開発にまとまった時間を作るのが難しいですが、やはり盲学校という場所で今後ずっと実際に使ってもらえる教具を作ること、少しでもお役に立てるものづくりに挑戦できることに、やりがいを覚えます。
何を作るにしても、これまでにやったことがない新しい技術の勉強からなので簡単ではありませんが、先輩方に教えてもらいながら身につけています。
 
1つの試作品に対して様々な立場からの改善要望が出されます。
教材として考えた時に、よりシンプルで全盲の子供でも使いやすい物でなければいけないので、どの要望を反映するかについては頭を悩ませることがあります。
でも、時々届く寄贈先からの御礼の手紙や、実際に生徒さんが使っている動画を見ると、本当に取り組んできてよかった!と思えます。
今では全国の盲学校で私たちの製作・寄贈活動が知られるようになって、今後も期待の声に応えられるよう、この活動を先輩から後輩へと継承していくことの大切さと責任も感じています。
 
Q 活動を通じてのもっとも印象的なエピソードは何ですか?
 
やはり、熊本盲学校で行われた一番最初の贈呈式が忘れられません。
当時、全盲の新入生が3人いたので音声式点字タイプを一人1台ずつ学生から手渡して貰いました。
その時の生徒さんたちの満面の笑み、そしてホントに嬉しそうに使ってくれている姿を見た時に、こちらが贈ったのに逆に大切なものをプレゼントされたように感じて、その場にいた誰もが幸せな気持ちになりました。
これには後日談があります。
贈呈式の1年後に、熊本盲で教具を渡した生徒さんにお会いしました。
小2になっていた一人の女の子が私の方に近づいてきたので、私はしゃがんで同じ顔の高さにして声をかけたのですが、その子が両手を伸ばして私の頬に触れたかと思うと、そのまま両腕を首に回してハグして、私の耳元で「好き好き」と言ってくれたのです。
私は感激して泣きそうになりました。
これらの出来事が、今に続く原動力になっています。
もう一つ、新しいことを始める時にはいろんな困難があるものですが、壁にぶつかった時に必ずと言って良いほど、新しい誰かが現れてそれを解決する助けをしてくれるんです。
まるで道が備わっているのでは、と思えるタイムリーで不思議な出会いが何度もありました。
以前、盲学校の校長先生が長年の経験から「なるようになる。」と自信をもって仰っておられた、その言葉は本当だなと分かります。
一期一会があって、なるようになって今に至っているだけだと感じます。
 
Q 最後に、熊本県民にPRしたいこと、今後の活動予定、お知らせなどありましたら教えて下さい。
 
まずは2月の中学生イベントを成功させて16台を全国に寄贈したいと思います。
ぜひ、お申し込みをお待ちしています。
 
学生サークルでも開発できるメンバーが増えていて、電子機器だけではなくアプリ開発や盲学校校舎模型など、幾つかの新しい教材提案も行っています。
これらを詰めて、早いうちに寄贈できるように育てていけたらと思います。
 
有難いことに最近「この取り組みを支援したい」という申し出を個人の方や社会貢献に意欲的な企業様から頂いています。
例えば、静岡のある全盲の女性の方は、自分の母校にポップまっぷを寄贈したいので材料代を送るから作って、と連絡をくださいましたし、水俣から毎年寄附してくださる方もおられます。
製作寄贈イベントの継続はもちろんですが、私たちの教材を市民の方や地元企業の出資によって製作し、御芳名板や会社のロゴシールをつけて全国の盲学校に寄贈できないかと考えています。
ここ熊本から全国の視覚障がい者の学習支援の輪が、熊大生と市民によるムーブメントとして広がっていけばいいな、と思っていますし、現実的になってきています。
もし、良い知恵をお持ちか、協力したいと思っていただけたら、ぜひ熊本大学の方にご連絡頂ければと思います。
 
この時間は、「作って贈ろう!盲学校用飛び出す音声地図のモノづくり教室」の須惠耕二さん、和久屋愛実さん、山下玲音さんをお迎えしました。

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