熊本県精神保健福祉センター 富田正徳所長

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月曜対談
「ひと」「もの」「こと」に関わるさまざまなトピックを切り取っていくインタビュー「月曜対談」。
熊本県精神保健福祉センターの富田正徳所長をお迎えして、アルコールやギャンブル依存症について伺いました。
 
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●プロフィール
 
名前:富田正徳(ふりがな)とみたまさのり
所属:熊本県精神保健福祉センター
プロフィール:
熊本県上益城郡益城町生まれ。
精神科医平成29年熊本県へ入職、当センター次長。平成30年4月より所長。
精神科病院に勤務していましたが、1年前から行政医となりました。
熊本地震で痛い目にあいましたが、この経験をこころの復興に、精神科医療に保健福祉に役立てたいと思いました。
今年還暦を迎えました。
 
Q 「熊本県精神保健福祉センター」の基本情報をお願います。どんな活動をしている施設ですか?
 
熊本県精神保健福祉センター
〒862-0920
熊本市東区月出3丁目1-120
Tel 096-386-1166
精神保健及び精神障害者福祉に関して、知識の普及を図り、調査研究を行い、並びに相談及び指導のうち複雑困難なものを行うとともに、精神医療審査会の事務並びに自立支援医療(精神通院医療)及び精神障害者保健福祉手帳の申請に関する事務のうち専門的な知識及び技術を必要とするものを行う施設です(センター所報より)。
力を入れているのは、アルコール、薬物、ギャンブル等関連問題対策、自殺対策、ひきこもり支援、また「熊本こころのケアセンター」と連携しながら被災者のこころのケアの支援など直接支援、企画立案、普及啓発などの間接支援。
 
Q 「熊本県精神保健福祉センター」が設立されたきっかけは?
 
昭和47年精神保健福祉法で設置が定められた機関。各都道府県と政令指定都市に1か所ずつ設置。
熊本県には、県精神保健福祉センターと、熊本市こころの健康センターの2か所。
 
Q「熊本県精神保健福祉センター」では、現在、「ギャンブル依存症」「アルコール依存症」に関する相談を受けて付けているそうですが、まず「依存症」とは、どんなものなのか説明をお願いします。
 
依存症は病気です。「本気で今度こそやめる!と誓っても止められない、繰り返してしまう」「嘘をついてでも、大事ない人を傷つけても、失っても止められない」レベルは、依存症という病気の可能性が高いです。
それは「意志が弱いから」「根性を叩き直せば」という精神論では乗り越えられない、脳レベルでの病気です。
また、「親の育て方が悪かったから」なる病ではありません。
「家族として至らなかったから」なるものでもありません。
依存症は「こころの痛み止め」と表現されます。
依存症になったご本人は、人生における苦難や解決しがたい生きづらさを、誰にも相談できず、一人孤独に悩み続けてきた人が多いと言われます。
孤独に生きづらさを抱えた人が、自分の心の痛みを、人に頼ることができずにやむなく自分で自分を治療するために使用し続けた「こころの痛み止め」の作用が、依存症にはあった、そう理解するのが最近の依存症治療現場のことばです。
「こころの杖」という人もいます。
ですから、依存症が何の支援もなくしばらくの間止まっている場合、それは痛み止めを使わずに痛みを我慢している状態に過ぎないわけです。
杖を使わずに痛いのを我慢して必死で歩いているだけなのです。
ですから、しばらくするとまた痛み止めを使うことになります。このような人に、痛み止めや杖を奪い取るだけでは、治療や支援とは言えません。
痛み止めや杖を徐々に手放し、その代わりとなる生き方を一緒に探していくのが治療や支援です。
 
Q「依存症」について、簡単に診断できる方法があるそうですが・・・・・?
 
アルコール健康障害についてのチェックリストにAUDITがあります。
10の質問のうち5つをご紹介しましょう。
 
Q1.アルコール飲料をどのくらいの頻度で飲みますか?
Q2.飲酒の際は通常どのくらいの量を飲みますか?
Q3.1度に6ドリンク(これはアルコールの単位です。熱量の単位がカロリーで、アルコールの単位がドリンクです。
目安としてビール500ml3本、あるいは焼酎お湯割りを3杯、ワイン100mlを2杯)を飲むことがどのくらいの頻度でありますか?
Q4.過去1年間に飲酒後、罪悪感や自責の念にかられたことがどのくらいありましたか?
Q5.家族や親せき、友人、医師等、あなたの飲酒について心配したり飲酒を控えるよう勧めたことがありますか?
 
このように、飲酒量だけでなく、飲酒による人間関係や社会的な弊害も含めてアルコールに伴う健康障害を捉えます。
依存症は周囲を巻き込む病気、周囲が先に困って気づく病気と言われますが、このAUDITはその視点をよくとらえているチェックリストといえます。
 
アルコールに限らず、依存症の国際的な診断基準があります。
そこでは次の5項目のうち3項目以上に当てはまると「依存症」と診断されます。
 
①渇望:アルコールや薬物、ギャンブルに対するどうしようもなく強烈な欲求。
②コントロール喪失:T.P.Oを考えればダメだとわかっている状況でもやめられない。
③離脱症状:アルコールや薬物を摂取しないと、あるいはギャンブルをしていないとイライラする、不安が高まる、落ち着かないなどの苦痛を感じる。
④耐性(慣れ):アルコールを飲んだ最初の頃はビール1杯で酔えていたのに、次第にたくさん飲んでも酔いにくくなっていくようなことを言います。
アルコールも薬物も、始めた頃よりも酔うために、気分が落ち着くために、現実のつらさを忘れるためによりたくさんの量が必要になっていきます。
ギャンブルも、やり始めた当初よりも長い時間あるいはたくさんお金をつぎ込まないと満足できなくなっていきます。
⑤ほかのことを無視し費やす時間が長い、明らかな害があるのにやめない:家庭や仕事、健康、信頼関係よりも何よりもアルコール、薬物、ギャンブルなどを優先する。
 
Q「依存症」に関する相談を受けて、「熊本県精神保健福祉センター」では、どんな対応をするのでしょうか?
 
当センターは医療機関ではなく、相談機関です。
相談機関に寄せられる依存症相談の多くに共通することが、「相談者が本人ではなく家族」ということです。
ある専門医は依存症のことを「ありふれた病気、でも見えにくい病気」と表現します。
つまり依存症にまず困らせられるのが家族や周囲の人、本人が困るのはそのずっとあと。
ある調査によると、薬物依存症者のご家族が薬物問題を知ってから相談機関を訪れるまでに平均約3年、そのあと、薬物依存症家族会(後でご説明しますね)に参加するまでにさらに約3年で、薬物依存症者ご本人が相談や治療につながるのはそのあと、というデータがあります。
なかなか相談や治療につながりにくい、そのうちに悪化、進行してしまうのが依存症の特徴です。
ですから、当センターは依存症の家族相談を大事にしています。
 
①依存症専門相談員:昨年度秋から試行的に依存症専門相談員による相談活動を始めまして、今年からはより内容を充実させて相談対応しているところです。
依存症治療を専門に行っている県内の精神科医療機関の経験豊富なスタッフが月に数回、当センターで相談対応いたします。
医療スタッフだけでなく、民間の依存症リハビリ施設であるNPO法人熊本DARCスタッフや、依存症からの回復支援に熱心な債務整理の相談員としてNPO法人熊本クレ・サラ被害をなくす会のスタッフもおります。
これらのスタッフがアルコール、薬物、ギャンブル、時にはネットやゲーム依存の相談に応じています。
②依存症家族ミーティング:毎月第3金曜日に依存症のご家族が集います。
依存症本人への接し方を学びつつ、依存症家族共通の悩みや対応の工夫などを出し合う2時間です。
この家族ミーティングは、地域の保健所に出向いて開催する「地域版」もあります。
③依存症家族支援プログラム:CRAFTといって、依存症ご本人を治療に繋げるためのコミュニケーションを習得するプログラムがありますが、その熊本版としてKUMAFT(クマフト)を不適開催しています。
今年は7月23日スタートで、ただ今、参加者絶賛募集中です!
以上がご家族向けの相談とプログラムですが、ご本人向けももちろんあります。
依存症専門相談員との面接相談ももちろん、ご本人からのご相談をお待ちしております。
④依存症回復支援プログラム:KUMARPPといっています。
全国でSMARPPというアルコール、薬物依存症からの回復のための認知行動療法プログラムが実施されていますが、熊本版としてKUMARPP(クマープ)を開催しています。
アルコールや薬物を再使用しないための学習を通して、お互いの経験を出し合い、もしものために備える知恵を出し合うミーティングです。
第2・4火曜日に休みなく開催しています。
 
Q 家族やまわりの人間がサポートできることなどもありますか?
 
もちろんです。
「本人が相談に来ないなら無理です」ということはありません。
先ほどご紹介したように、依存症に気づいたご家族や周囲の方々が、依存症とは何かを学び、依存症ご本人にしてはいけない対応、ぜひした方が良い対応などを学ぶことで、依存症ご本人への周囲の接し方が変化します。
すると、これまで膠着していた、ご本人を責める、脅す、懇願する家族、それに対して嘘をつく、白を切る、もう二度としないと泣いて謝るけれどもまた繰り返す、という悪循環に変化が起こります。
それは、家族や周囲が依存症に巻き込まれた状態からの脱出です。
依存症スパイラルから脱出すると、自然とご本人も変化してくるのです。
そのきっかけを作れるのが、ご家族や周囲の方々です。
そのために、相談機関を利用いただくのもよいですし、もっとお勧めしたいのが、「自助グループ」です。
アルコールであれば「断酒会」「断酒会家族会」「AA(アルコホリック・アノニマス)」です。
依存症当事者だけでなく依存症に悩むご家族の仲間に出会えます。
こういう自助グループで、これまで周囲に隠し通して家族だけで苦しんできた体験を「うちも同じ」「わかる、その気持ち」と共感し合える場所です。
家族はだれにも相談できず、社会や他の家族から孤立したような気持で長年過ごしてこられたのではないでしょうか。
ご家族にも、ご自身たちのつらさ、悲しみを分かち合える場所が必要で、そこから依存症との付き合いが始まります。
難病を持つご本人やご家族にも「○○の会」というのがあるのと同じです。同じ困難を抱えた人だからこそ支え合える場を持つことは、人との心理として自然なことです。
自助グループがあるのはアルコールだけではありません。薬物であれば当事者の会として「NA(ナルコティックス・アノニマ)」、ご家族の会として「ナラノン」があります。
毎週、ミーティングを開催しています。
ギャンブルであれば、当事者の「GA(ギャンブラーズ・アノニマス)」、家族の「ギャマノン」があります。
GAは毎日県内のどこかでミーティングが開かれていて、そこにはご家族の参加もOKです。
ギャマノンは家族だけのミーティングで、毎週1回開催されています。
ミーティング会場や開催日は当センターまでお問い合わせください。お待ちしています。
 
Q 熊本県民にPRしたいこと、今後の活動予定、お知らせなどあれば教えてください?
 
当センターは、まず、お電話でのご相談をお待ちしております。
電話相談員が丁寧にみなさまのご相談を伺い、一緒に考え、ご提案できる社会資源のご紹介をいたします。
お気軽に、そして勇気ある第一歩をお待ちしております。
熊本県精神保健福祉センター電話:096-386-1166
平日月曜~金曜午前9時~午後4時まで受け付けております。
なお、熊本市にお住まいの方は、熊本市こころの健康センターをご利用ください。
熊本市こころの健康センター電話:096-362-8100です。
 
ありがとうございました。
今日のゲストは、熊本県精神保健福祉センター富田正徳所長でした。
 
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