3月4日(木)の名盤は…
先週まで2週にわたり”正式名義の重要性”について語りましたが、
今日は”では、それが明らかに間違っている場合はどうなるの?”
というエピソードを紹介しました。
例えば1950年代から60年代のソウルなどでは、
Aさんのアルバム10曲の中に異なる声の歌が1曲混じっている、
なんてことがよくあったのです。
後からそれは同じ会社のBさんのものだとわかります。
“そんなバカな”と思ってしまいそうですが、なにしろ50年近く前の話なのです。
で、会社が誤りを認めて速やかに差し替え訂正し、
Bさんの名義に復権した例もありますが、
何十年もそのまま放置されることも多いのです。
この場合は一般にはAさんの曲として取り扱うしかないのですね。
さて、以上は手違いによる事故ですが、
実は故意に別人に歌わせることもあります。
最も有名なのは名プロデューサー、フィル・スパクターが手掛けた
ザ・クリスタルズ、1962年の全米No.1ヒット「ヒーズ・ア・レベル」。
このオールディーズ定番名曲、歌ったのはダーレン・ラヴという人で、
クリスタルズは誰一人参加していないのです。
今やポップス・マニアなら誰でも知っている事実ですが、
しかし全世界何百万人の心に刻まれているヒット曲の記憶を
今さら書き換えることなどできませんよね。
やっぱりクリスタルズの「ヒーズ・ア・レベル」なのです。この先もずっと。
ですが、90年代になるとそうはいきません。
1990年、全米No.1を3曲連続して放ち、
グラミー賞最優秀新人賞を受賞したミリ・ヴァニリの2人は
すぐに賞を剥奪されました。実は2人はまったく歌っておらず、
影武者の歌に合わせての口パクだったことがバレたのです。
最初から”メンバー4人だけど表には2人しか出ない
史上初の腹話術歌手”とでも宣言しておけば面白かったのでしょうが、
それでは売れなかったかな?
後に影武者が”リアル・ミリ・ヴァニリ”を名乗って独立しましたが、
CDで聴く限り、ミリ・ヴァニリもリアル・ミリ・ヴァニリも同じという
変な具合になって、当然のように売れませんでした。
今日お届けしたのは、
後のリアル・ミリ・ヴァニリが歌っているミリ・ヴァニリの大ヒット曲
「ガール・ユー・ノウ・イッツ・トゥルー」でした。