2/24「デヴィッド・ボウイ」
今週は完璧なアルバムの話をしました。
そんなものはありえないし、第一、何をもって完璧と呼ぶのかも
定かではありませんが、
もしそう呼ぶことの許される作品があるとするならば、
それに最も近いもののひとつが、
デヴィッド・ボウイが1972年に発表したアルバム
「ジギー・スターダスト」でしょう。
この作品、一般的には“あと5年で地球は滅びる、
というところに宇宙人がやって来て、
ロック・スターとなり救世主となるも様々なエゴが渦巻く中、
身も心も疲弊してロックの殉教者となる“というストーリーの
コンセプト・アルバムと言われています。
これは夢も希望もない青春を送っていた若き日のボウイ自身の前に
ロックン・ロールが登場して、パッと目の前が明るくなって熱狂して・・・
という自分の体験を得意のSF感覚で仕上げたものなのかもしれません。
しかし一方ではそんなコンセプトは
最初から存在しないという説もあります。
さっき言ったストーリーも名曲の詞を
そういうふうに読み取ろうと思えばそうも取れる、
というくらい難解であり、曲間にナレーションもなければ、
物語を進行させるための説明的な捨て曲みたいなものもないからです。
1曲1曲が完全に単体で独立しているのです。
それでいて全体的なコンセプトを感じるのは曲順と曲間のつなぎ、
流れが完璧だからでしょう。
詞の意味の流れを越えて、音の気持ち良さの流れが素晴らしいのです。
加えて歌唱の切実さ、演奏の的確さ。
思うにロック音楽のある種の美学が凝縮されているからこそ
アルバム1枚を一気に聴いてしまうのでしょう。
そう、この作品は聴き始めたら
最後まで中座することを許してくれないのです。
トータルで11曲の39分。
昔のLP時代は片面20分の40分がだいたいの相場だったのですが、
人間の集中力ってちょうどそれくらいだと思いませんか?
現在CDの時代になって60分から70分のアルバムを
無理に作っているような気がしてなりません。
CDの時代に名盤と呼ばれるものが少なくなったのは
時代背景とかいろいろ言われますが、
案外その辺に理由があるのかもしれません。
今日は、決して世界中で何百万枚も売れたわけではない
にもかかわらず、この1枚で人生が変わったという人続出の
“完璧にもっとも近い”アルバムから
1曲目の「5年間」をお聴きいただきました。