「AKASAKI海想日誌」
今日は、現在展開されている「AKASAKI海想日誌」について、
つなぎ美術館 学芸員の「楠本智郎」さんにお話をうかがいます。
まずは、この“AKASAKI”について少しお話したいのですが、
ご存知の方も多いでしょう、津奈木町にある、
現在は閉校となっている“旧赤崎小学校”のことです。
海に浮かぶ小学校として知られていますよね、
海底からの高さ4メートルのところに建設され、
左右には円窓を施すなど“豪華客船”の雰囲気も漂う中、
校舎の西約80メートルには、裸島、弁天島、黒島と三つの島があり、
干潮時には陸地とつながるなど、全国的にも珍しい海上小学校でした。
そんな旧赤崎小学校を舞台に展開されている「AKASAKI海想日誌」、
これは、どんな内容なんですか?
津奈木町では美術を用いた地域資源の活用と
文化振興を担う人材の育成を目的に
平成20年から住民参画型現代美術プロジェクトに取り組んでいます。
このプロジェクトの第4弾が「AKASAKI海想日誌」です。
「AKASAKI海想日誌」では、
彫刻家、今田淳子さんをメイン・アーティストに迎え、
(熊本市出身・熊本大学大学院修了・ブレラ美術アカデミー卒業)
旧赤崎小学校を舞台に年間を通じて表現活動を繰り広げます。
地域活性化団体、婦人会など津奈木町を拠点に活動する
諸団体のメンバーと小・中学校の教員によって構成される実行委員会が
ファシリテーターを務める今田淳子さんと
毎月のワークショップの内容を協議しながらプロジェクトを進めます。
ファシリテーターとは、講師役とは違って、何かを教えるのではなく
参加者と一緒に活動をすることで、参加者の気付きを促すような
役割を持っています。
また、今回はゲスト・アーティストとして2008年の
住民参画型現代美術プロジェクト「津奈木ハートマン計画」で
ファシリテーターを務めたレインボー岡山さんを迎えます。
具体的に、これまでの開催の様子を教えて下さい。
・第1回ワークショップ「弁天様に復活祈願!」では、
今田淳子さんが暮らしていたイタリアの風習を模して、
参加者各自が地域への思いを込めたオブジェをつくり、
旧赤崎小学校の沖合に浮かぶ弁天島が見える丸窓に
活性化を願って飾り付けました。
第2回ワークショップ「発信!AKASAKIコレクション」では、
身体を包み込むような衣装を不織布を素材に制作し、
屋外で記念撮影を兼ねたファッションショーを開催しました。
ちなみに…
2回目のワークショップを開催中にたまたまつなぎ美術館を
デートで訪れた鹿児島と熊本の遠距離恋愛中のカップルが
3回目以降は毎回参加してくれるようになり、
スタッフのように雑用からワークショップの進行までを
手伝ってくれています。
初参加の時からあまりにも働きぶりが良いので
私も含めてスタッフ全員が地域の方の親戚だと思っていたようです。
・第3回「いのちの繭玉体験記」では、カイコについて学習した後、
細く裁断した不織布をカイコが吐き出す糸に見立てて、
本物と同じような手法で全長約3メートルの
巨大な繭玉を制作するなどしました。
第4回ワークショップ「アートdeマルシェ」では、
校庭に設けた特設市場で木の皮や毛糸などさまざまな素材を調達し
台紙に貼付けるなどして思い思いの作品をつくり、
後で各自がこれらを組み合わせてショートストーリーをつくり発表しました。
住民参画型現代美術プロジェクトと紹介していただきましたが、
住民“参加型”ではなく“参画型”で取り組まれていることへの思いは?
広い意味では「参画型」も「参加型」のひとつです。
ただ、専門的には「参加型」は「参集型」、「参与型」、「参画型」に
分類することができ、この中で最も進歩的なのが「参画型」です。
他のふたつに比べて企画の段階からプロジェクトにかかわり、
その後も運営に携わる必要があるため、
実行委員には常に自省的な対応が求められますが、
このことは行政主催のプロジェクトであるにもかかわらず、
実行委員のアイデアが大きく反映されることを意味しており、
やりがいもあるわけです。
実際にやってみたら途中で次から次に課題がでてくることも
少なくありませんが、その度にミーティングを重ね落としどころを探るので
組織としての結束も強まります。
都心部ならともかく津奈木町のような地域では
美術に興味を抱く人は極少数。
このような地域で美術の面白さを地域の視点で伝え、
なおかつそれを地域の活性化につなげるためには
企画から参加してもらうしかないでしょう。
それまで美術に興味のなかった人から「現代美術は面白い」といった
声を聞き、彼れらが自主的に来年以降の活動について
議論している姿を見ると、この考えは間違いではなかったと思います。
この「参画型」は美術に限らず音楽や演劇の分野やなどでも
応用できると思いますが、そのためには地域文化コーディネーターの
存在が不可欠です。
専門分野の知識だけではなく文化全般に関する幅広い知識と
地域の人や予算を動かすマネジメント能力を備えた人間が
アーティストと地域の橋渡しをする必要があります。
行政としても組織の中にこのような人材を育成する必要があると思います。
今後開催予定のイベントについて教えて下さい。
「AKASAKI海想日誌」でファシリテーターを務める今田淳子さんの個展
「今田淳子展 いのちのかたちと空間」を開催します。
「生」と「死」がたたずむ空間をインスタレーションを交えた作品群で構成し、
今田淳子さんの挑戦の軌跡、そして変化と飛躍の兆しを伝えます。
会期は9月17日から11月27日まで。
また、9月17日(土)は午後2時からアーティスト・トークを開催します。
そして、
9月25日には第5回ワークショップ「レッツ!スケッチ!キモチのカタチ」、
10月16日にはアート・ピクニック、
11月6日には女子美術大学の南嶌宏さん(元熊本市現代美術館長)
による記念講演会「アーティストに力を与える者と物」を開催します。
ワークショップとアート・ピクニックは事前の申し込みが必要です。
また、10月25日には、私がくまもと県民交流館パレアの
「くまもと県民カレッジリレー講座」で
「アートで復活!海の上の小学校」と題してレクチャーを行います。
こちらの申し込みは熊本県生涯学習センターまで。
お問い合わせ先を教えて下さい。
AKASAKI海想日誌 Blog http://akasakikaisou.blog.fc2.com/
つなぎ美術館 0966-61-2222 毎週水曜休館
本日オンエアのこのコーナーをポッドキャストでも配信中。
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