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「音声式点字タイプ」開発・須惠 耕二さん

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマンラボ」

今日は、音声式点字タイプの開発に携わった方のお一人、

熊本大学 工学部 技術部 技術専門職員の、須惠 耕二さんに

お話をうかがいました。

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お名前と職業・所属を教えて下さい。
名前 : 須惠 耕二 (すえ こうじ)
所属 : 国立大学法人 熊本大学 工学部技術部 技術専門職員

プロフィール
熊本市出身。 昭和62年に国立熊本電波高専を卒業後、東北で2年間の奉仕活動(末日聖徒イエス・キリスト教会の宣教師)に従事。
平成2年、九州工業大学情報工学部(福岡県飯塚市)に文部技官として赴任。
17年間の勤務を経て平成19年に、熊本大学工学部技術部へ異動。
昨年より、技術部計測制御グループのリーダを務める。
家族6人で、高2を筆頭に3男1女を子育て中。趣味はアコースティックギターと魚釣り。
「自分でやれることにはお金を払わない!」というケチ性分から、DIYでユーザ車検や、日曜大工(棚、網戸、ラック、机等)を続けている。
これが高じて、仕事でも半導体薄膜形成装置を手作りする等、ものづくりに関わるのが楽しみ。
資格は、第一級陸上無線技術士。第二種電気工事士。第一種衛生管理者など。
熊本市東町在住。45歳。

須惠さんの所属する「熊本大学工学部」の基本情報を教えて下さい。
名称: 国立大学法人 熊本大学 工学部
住所: 熊本市黒髪2丁目39番1号(黒髪南キャンパス)
電話: 096(344)2111(代表)
L: http://www.eng.kumamoto-u.ac.jp/
※所属している「技術部」は、工学部の技術職員組織(部活動ではありません)。
業務として工学部の教育・研究を技術支援する組織で、学生実験指導、研究装置開発・製作、測定装置運用、安全衛生管理、放射線管理、各種プロジェクトでの学生教育等に携わる。
毎年8月に実施している中学生対象の「夏休み自由研究技術相談会」は平成15年から8回を数え、全国の大学の先がけとなる等、各種の地域貢献活動も展開しています。

須惠さんたちが、今回開発された「音声式点字タイプ」ですが、具体的にこれまでの点字タイプとどう違うのですか?説明をお願いします。
盲学校の新1年生が「 1人でも簡単に、楽しく点字を覚えられる」というのが一番の特徴です。盲学校の点字授業では、点字タイプライターとパソコンを使用するのが一般的ですが、点字タイプライターでは、生徒が何を打ったのかは用紙が出てくるまで先生に分かりませんし、点字が読めない小さな子供には、自分が打った点字の正誤も確かめられません。
パソコン用点字学習ソフトだと音声読み上げがありますが、盲目の子供たちですから、パソコンを1人で操作することは出来ませんし、キーボードには触ってはいけないキーがずらりと並んでいます。そうなると、先生方はほぼマンツーマンになりますし、難しさを感じて点字嫌いになっていく子供もいるそうです。
そこで「音声式点字タイプ教具」は、子供1人で扱えて、遊び感覚の中で点字を覚えて貰える学習玩具のような物を目指しました。点字を入力すると即座に何を入れたか音声で応えます。録音機能があって、点字特有の句読点や濁音、促音等の記号入力も再生時には正しく文章化されます。このあたりは盲学校の先生と打ち合わせて、学校で教えやすいように開発したので、点字の授業でそのまま使えるようになっていまして、熊本県立盲学校では既に取り入れて頂いています。
点字タイプライターではなく「点字タイプを覚える道具」なので、紙に点字を打ち出す機能はありません。ただ、その分軽くてポータブルなので、生徒たちは家へ持ち帰ることができます。この冬休みには、生徒が家に持ち帰って親と一緒に点字遊びが出来たと聞いています。

どんなきっかけでこの「音声式点字タイプ」を開発することになったのですか?
昨年春に、他大学で盲学校支援の取り組みをされている技術職員の方と知り合いました。
大学職員としてそのような取り組みが出来ることを全く知らずにいたので、「困っている人のために技術を活かせるのならやるべきだ!」という気持ちだけで、どんなお手伝いが出来るかも全く分からないまま、飛び込みで直接盲学校にお電話をしました。それが4月でした。
教頭先生から「まずは現場を見て何が出来るか考えてみて下さい。」と勧められ、初めて盲学校を訪れて、4人の先生方から、教育上の苦労話をいろいろと伺う事ができました。
その際に、以前おられた先生が手作りされたという、パソコンにつないで音を出せる点字入力装置が残されていて、その修理が出来ないか、という相談を頂きました。あいにく本体側のパソコンはもう無かったのですが「パソコン無しでも音声は出せますから、これなら出来るでしょう!」ということになりました。

これまでの活動の中で、最も印象深いエピソードをお願いします。
やはり、昨年12月20日に盲学校に贈呈できた事です。小学1年生3人に、1人1台ずつ
手渡しました。その時の嬉しそうな笑顔や、嬉々として点字を打ってくれる姿、何よりこれを使って「ありがとう」「うれしかったです」なんてメッセージを作って再生してくれた時には、感無量でした。
この教具は、「盲学校の子供たちへクリスマス・プレゼントを!」という呼びかけに集まってくれた熊大1・2年生の7人に私らが指導する形で、放課後に2ヶ月かけてほとんど手作りして貰ったのですが、逆に、盲学校の子供達から私たちの方が見えないプレゼントを貰ったように感じました。なんとも心が温かくなる幸せなひと時でしたね。

活動を通じての苦労、やりがいなどあれば教えてください。
今回は、大学が国と連携する「革新ものづくり展開力の協働教育事業」の下で講習会を開き、学生さんに作って貰ったんですが、全く経験がない「ものづくり」を限られた時間内で一から全部やって貰う、そのあたりの準備は少し大変でした。
ですが、「自分たちが作ったものが実際に社会で役立つ」という経験を学生さんが早いうちにすることが出来たので、これからの学習意欲がきっと違ってくるだろうと期待しています。
また、私にとっても、大学と盲学校という二つの教育現場を、学生が学んだ成果の提供という形で結び付けられた事は新しい経験でした。こういった特殊な教具は数が出ないので、企業で製品化すると簡単には買えない値段になるものですが、学生さんが勉強の中で作る分にはそのような心配がありません。 今回プレゼントできて、学生と盲学校の生徒たち両方の笑顔が結びつきました。これが次に向けての大きなモチベーションになっています。

今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。
熊本県立盲学校からの要望を頂きまして、今月末に奈良県で開かれる全国の盲学校の先生方の研究大会で、この教具を紹介することになりました。製作に携わった学生の代表者も同行します。会場では実際に先生方に触って頂いて、いろいろな意見をお伺いしたいと思っています。おそらくは各地の盲学校から「作って欲しい」という声が出る事と思いますので、何台くらい必要なのかを調べて、学生さんにまた講習会で頑張って作って貰おうと思っています。ただ、製作にはそれなりに費用はかかりますから、このあたりをどうするのかを含めまして、現在大学でいろいろと検討しているところです。
実は、全国には盲学校が71校もございます。音声式点字タイプは手作りですので時間はかかるかも知れませんが、先生方に紹介する以上は、必要とされる盲学校に行き渡るまで、是非この製作は続けたいと思っています。
盲学校では点字以外の授業でも、いろいろな学習支援教具が必要とされています。既に、次の新しい教具の構想も出来つつありますので、それらも形にできるように、また学生さんや同僚達と力を合わせて取り組まなくては!と思っています。

 

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