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熊本大学・秋元和實准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまなジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

第6回目の講師は、熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター秋元和實准教授です。

「海洋環境学・海洋地質学」について詳しく伺いました。

121210

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前:秋元和實

所属:熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター

プロフィール

1989年1月25日 東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程後期課程修了 (理学博士)

1990年4月1日 名古屋自由学院短期大学講師

1994年4月1日 名古屋自由学院短期大学助教授

1998年10月1日 熊本大学理学部講師

2001年4月1日 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター助教授

2007年4月1日 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター准教授

現在に至る

Q② 秋元先生の専門である「海洋環境学・海洋地質学」とは、

 どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

地球表面の70%を海洋が占めています。

水深は11000mに達し、熱帯から極地域までの温度差があり、

温度、塩分、酸素濃度、pHの違いにより多様な環境が形成されています。

海洋環境学は海洋が有する多様な環境を調査研究する学問で、

海洋学、地球物理学、地球科学、生物学などの諸分野と関連を持つ総合科学です。

私は、沿岸域の環境再生に向けて、顕微鏡で鑑定するような小さな化石と

最新の年代測定法を用いて、年単位の環境変化を捉えて、

環境悪化が始まった年代と場所を明らかにしています。

さらに、津波被害のリスクが高い沿岸域の防災・減災対策強化に向けて、

東日本大震災の被災地で、世界最先端の水中ロボットや

音響解析システムを用いて海中や海底を詳細に観察して、

地形・底質に関する情報を収集し、復興事業への情報提供とともに

基礎資料を整備しています。

これは、熊本大学と国立大学協会の共催事業として、実施しています。

Q③ 秋元先生がこの研究に取り組むことになった

 「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

大学で地学を選んだきっかけは、小学校6年生の野外実習で、

小さな2枚貝の化石を採集したこと。

中学3年生の時に開催されていた「日本列島展」で、多様な化石の美しさに惹かれて。

大学で化石を勉強するきっかけは、入学試験の身体検査で色覚異常が見つかり、

理学部の岩石学の顕微鏡実習でも多色性のある造岩鉱物の鑑定ができなかったため、

化石は形で鑑定するのでハンデキャップにならないため。

原生生物の化石を研究するきっかけは、卒業論文で貝化石を研究しようと

思っていたが、卒論指導の先生からセンスがないといわれたから。

別のテーマを探すことになり、高校の地学部で、何気なく顕微鏡で覗いた

「星の砂」の仲間である有孔虫の造形的美しさが心に残っていたから。

中途半端はいやだから、日本で最も原生生物の化石を研究している

東北大学の博士課程に編入した。

海の研究をするきっかけは、博士論文で日本列島に伊豆半島などが衝突して

現在の地形が形成している過程を復元する時に、

深海に生息する有孔虫の分布のデータがなかったため。

そのとき、熱水、冷水、超深海などの極限環境に生息する有孔虫も研究するようになった。

浅海の研究をするきっかけは、沿岸域環境科学教育研究センターで、

有明海・八代海を対象に環境を扱うようになったため。

現在行っている音響解析システムとロボットで海の環境を調査するきっかけは、

生物の多様性を研究する上で、海の環境は複雑であり、

3次元空間で連続した環境情報を短時間で取得することが必要なため。

Q④ 「海洋環境学・海洋地質学」の学問的にみると、

 「熊本県」とはどういう特徴がある地域ですか?

東シナ海は、1.8万年前以降に海水面が上昇して、現在に至っています。

この結果、ムツゴロウなど国内では希少ですが、中国沿岸と共通性が高い生物が、

有明海と八代海に生息しています。

また、6mに達する干満差と全国の干潟面積の半分を占める

広大な泥干潟が分布します。

大きな干満差と広大な泥干潟は、日本では独特ですが、

世界ではオランダやカナダにもあります。

さらに、閉鎖性の強い有明海と八代海の沿岸には、

多くの人が生活しています。

海の自然環境に対する陸域の社会活動の影響評価は、

世界的に注目を浴びつつあります。

陸域と海域の環境が相互に影響し、

世界と共通の自然環境を有する有明海や八代海は、

ユニークな研究が可能な海といえます。

Q⑤ これから、海と人間の関係は、どんな風になっていくのでしょうか?

 また、どんな風になればいいとお考えですか?

日本は海に囲まれ、多くの人は沿岸に生活しています。

南北に延びる日本列島の沿岸を黒潮と親潮が分布し、

気候は亜熱帯から亜寒帯に及びます。

多様な海洋環境が、日本各地にある様々な魚料理を育んできました。

食文化にかぎらず、各地の気候や風土は海の影響を受けています。

日本は海の恩恵を受けていますが、海について教育する機会は極めて限られています。

海洋について教育する機会が増え、海を身近に感じる社会、

海洋研究の重要性が理解される社会になることを希望しています。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

東北の漁民の我慢強さと写真の価値

気仙沼湾の養殖施設も津波で壊滅したが、流された部材を回収して、

さらにペットボトルなどを利用して、ワカメや牡蛎の養殖を再開したこと。

また、津波で800隻以上の船が被災し、使用できる船が40隻しか残らなかった。

漁民のみなさんが1隻の船を時間で分けて養殖作業をしている状況にもかかわらず、

災害調査のために漁場監視船を長期間使用させていただいたこと。

気仙沼水産試験場はホヤの養殖再開に向けて種になる野生のホヤを探していた。

4月下旬にロボット調査で群れをなす野生のホヤの映像が得られたことで、

ホヤの生殖時期が冬季に限らないことが判明した。

私にとって何気ない1枚の写真が、養殖事業者にとって重要な事実を

含むことを教えられ、改めてロボット観測の重要性を認識した。

Q⑦ 最後に一言お願いします。

熊本大学は、国立大学の一員として多様な社会貢献をしています。

東日本大震災への対応としても、医療班の派遣や救援物資、

義援金の送付を行ったほか、熊本大学で行っている研究等の中から、

震災復興、日本再生のために貢献できる分野をとりまとめてリストを作成し、

ホームページで公開しております。

今回の震災後の調査は、災害復旧や環境再生のために調査研究が

必要となった自治体や漁業組合が本学のホームページを調べて、

学長に直接依頼があり、熊本大学と国立大学協会の共催事業として

実施しているものです。

来年度まで震災復興・日本再生事業として瓦礫の分布を調査しながら、

東北マリンサイエンス拠点形成事業(文部科学省補助事業、

代表機関:国立大学法人東京海洋大学産学・地域連携推進機構)において、

石油タンク等から流出して気仙沼湾に堆積している重油の除去事業を実施します。

また、有明海と八代海の環境調査も行っていきます。

有明海・八代海を含めて、日本の沿岸・浅海域では様々な環境問題や

海象災害が発生しています。

災害復旧や環境再生に向けた調査研究が必要な時は、ぜひ大学にご相談ください。

 

       

 

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