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熊本大学・片岡恵一郎先生を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

8回目の講師は、熊本大学大学院 生体機能薬理学分野 学術研究員

そして、小国公立病院 内科・循環器科部長  片岡恵一郎先生です。

121224

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前 : 片岡恵一郎

所属: 熊本大学大学院 生体機能薬理学分野 学術研究員

     そして、小国公立病院 内科・循環器科部長

プロフィール

平成8年に大分医科大学を卒業後、熊本大学循環器内科に入局、

5年間の臨床の後、H13年に大学院入学。

2年間は熊本大学で、2年間は東京大学で、発生学、再生医療の研究を行った。

東京より熊本に帰ってくる際に、現在の生体機能薬理学に助手(助教)で採用され、

薬理学の研究を始め、循環器の薬がどの様な機序で病気を治療したり、

老化を抑えたりするのかを研究した。

平成24年10月より、臨床に復帰することを決め、臨床の場として、

小国公立病院を選び、大学に籍をおきながら、

小国の地域医療に従事しはじめたところ。 

Q② 片岡先生の専門分野は、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

専門は循環器内科学と薬理学。循環器内科は、心臓、血管の病気や

血圧を診る内科。

薬理学とは、薬がどうやって身体の中で効果を及ぼすのかを研究する教室。

一方で、一民間人として、医療以外の熊本を元気にする活動にも関わっている。

ロングライフデザインプロジェクト熊本(http://public.main.jp/d-kumamoto/)という団体で、

熊本市主催の「わくわく江津湖フェスタ」でイベントを主催したり、

政創研主催の公共政策コンペでアイデアを発表したりしている。

そういう活動の中で、「その土地らしさ」を考えることは、

現在の日本の歪を是正する上でとても大事なことだと気づき、

医療従事者と地域の患者さんで、「その地域らしい医療」を見つけ出し、

それを共有することが、地域医療を救う重要な鍵であるのではないかと考えている。

Q③ 片岡先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

研究ではないので、なぜ小国で地域医療をしようと思ったのかを書きます。

H13年に非常勤として小国に行き始めた頃は、常勤の内科医が4人いた。

しかし1人また1人と次の土地へ移動されるたびに、大学の人員不足で

後任の補充がされない状況となっていた。

3年前には院長を含めた内科医が全員辞めることになっても、

大学からは後任の医師派遣ができないという事態になった。

小国公立病院は小国町、南小国町とその周辺の15000人の医療圏だが、

さらに悪いことに、開業医の内科医もその時期ほぼゼロになってしまった。

内科医が町からいなくなっていく様子の全貌を非常勤医師として、

傍目で見ていたのが、公立病院も小国の町もなんとかしたいと頑張れる人が

沢山いたので、医者が1人いれば、なんとかなる様な気がしていた。

また、そのタイミングで赴任してもいいと思っている内科医は自分しか

いなかったので、自分が赴任しなければ、次に自ら小国に来る医師は

いない気がした。

ちょうどいいタイミングで、大学の薬理の後任もみつかり、

運命的なものを感じながら、小国に赴任したい旨を

大学の教授に話をして承認してもらった。

まとめると、

1)小国の内科医がいなくなってピンチになるのを見ていた。

2)小国の町と小国公立病院と患者さんに愛着があった。

3)ちょうどいいタイミングで大学の後任が見つかった。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

地域医療に取り組むのはこれからが本番なので、まだまだ経験している現場としてのエピソードは少ない。

しかし、平成24年の6月に熊本大学の地域医療システム学の黒田先生が

主催でやってもらった「小国郷の医療をみんなで考える会」(http://public.main.jp/iryou.oguni/)に

参加して、いろんな方々の思いを吸収してその土地の医療を創り上げる事の

重要さを改めて実感した。

今までは、その土地の医療は医療従事者が提供するものだったのだが、

今後、田舎では、医療を創り上げるのは医療従事者だけではなく、

町の人と、そして、町の外の人(よそ者)。

土着の人だけで全てを創り上げるのはマンパワー的に、既に無理がある状況。

これを、町の内外の人達に理解してもらい、外の力を分けてもらいながら

医療システムを保つ事を、基本としなければならない。

実際現在、小国公立病院の内科医は、自治医科大学から

送ってもらった若い医師と、日赤からの3ヶ月交代の医師と、

臨床から10年以上離れていたジェネラリストとはかけ離れた医者(私のことです)。

今後小国の医療を守っていくべき土着の人は1人もおらず、

既に破綻しているのだが、それを実感している町の人は少ないのが現状。

Q⑦ 最後に一言お願いします。

数年前に小国に赴任しようと考えていた頃は、小国の医師の数が

不足しているからという単純な動機であったが、視野を広げて様々なものをみていくと、

小国と同様に医師と看護師の数がどんどん減っている地域がかなりの数あり、

この医師、看護師不足の問題は小国だけの問題ではなく、

県下で同時多発的におこってきており、現在進行中であることがわかってきた。

大学卒業後の医師の研修の制度が変わって、医局の枠組みも

昭和の時代と変わり、へき地や田舎の病院にドクターを派遣していたシステムが

保てなくなり、既に破綻を始めている。

今、病院で働いている医師が辞める事になった時に、

次の医師が見つからない可能性が高い病院が県下に複数見られる。

熊本県の地域医療、へき地医療が危機的な状況に陥る前に、

医師がうまく派遣される仕組みを作らなければ、複数の田舎の病院が、

閉鎖に追い込まれる可能性がある。病院がなくなるということは、

その土地の安心安全が保たれなくなり、その土地に住もうという人が少なくなり、

さらに過疎化が進み、いずれその町はなくなり、文化も消滅していくことになる。

熊本の地域の文化を守るためにも、最低限の医療が担保されていることは

重要であり、既に医療崩壊は、医療側だけの問題では済まなくなっている。

そういう意味では、医療を保つことは、町づくり、町おこしの一貫として、

重要な位置づけを占めることになる。

現状では、一旦小国に赴任したら、次の医者は自力で見つけるしか方法がなく、

その様な状況に飛び込んでくる医師が現れるかどうかは、

かなり微妙な状況。

そういう普通ではない医者が飛び込んでくるのを待つよりは、

特殊ではない普通の医者が数年赴任して、

次のところに移動できる仕組みを作りなおさないと、

今後の地域医療は萎んでいく。

具体的に必要なことは、

1)都会の医療とは異なる、その土地らしい医療を確立し、

その土地で医療に従事する事にやりがいを持たせること。

2)地域の取り組みを外部に公開し、評価されること。

3)医師を地域に送るシステムを確立すること。                              

1)の対策:小国郷だけではなく、田舎の地域は急速に高齢化が進んでいる。

人口ピラミッドをみると、都会で今後起こる高齢化が15年程先取りで起こっており、

すなわち、都会よりも15年早く高齢化に対する対策をしないといけない。

時代を先取りして高齢化社会に対応する医療を創り上げていく必要があるのは、

まず田舎からであり、そういう意味では現在の地域医療は先進医療である。

地域に根づいた、その地域らしい医療を町ぐるみでつくる為には、

小回りの効く、小さなコミュニティで試験的な試みをやっていく必要があり、

その試験的試みに対して行政がバックアップしていただく必要がある。

行き詰まりつつある地域を救うのは、よそもん、わかもん、ばかもん、と

よく言われるが、アイデアを行政が吸い上げ、そこに少額でもいいので

行政からの補助がでると新たに医師が赴任するインセンティブになる可能性がある。

2)の対策:生の地域医療の現場を発信する広報力が必要。

医師だけではマンパワー的にも発想力的にも困難。

事務方、看護師、薬剤師、検査技師、介護士、理学療法士、施設の職員

それぞれの現状を発信する必要がある。

ホームページやSNSなどで積極的に取り組みや情報を公開し、

ネットのコミュニティをうまく利用しながら、時にマスコミに取り上げてもらうことが必要。

マスコミに取り上げられるだけで、世の中からの見られ方が変わるし、

関わっている人のやる気も倍増する。自力の広報とマスコミの広報、両者が必須。

3)自治医科大学出身の先生と、地域枠の熊大医学部の出身のドクターが有力。

このドクターをうまく地域の医師として育て、循環させるシステムが必要(実は現状それがない)。

システムは、県と大学病院、県内の中核病院、地域がタッグを組んでつくる必要がある。

システムに加担する施設や人へのインセンティブを与える必要がある。

小国の事に限定すると、一緒に働いてくれる医師と看護師さんを募集しています。

小国らしい医療を一緒に考え、町の人達と一緒に地域を作って行きたい人、是非ご連絡を下さい。 

 

 

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