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熊本大学・大川千寿特任准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

10回目の講師は、熊本大学 政策創造研究教育センター 特任准教授

大川 千寿先生です。

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Q① プロフィールをお願いします。

名前:大川  千寿

所属:熊本大学政策創造研究教育センター

プロフィール

1981年大阪府生まれ。

2000年大阪星光学院高等学校卒業。

2001年東京大学教養学部前期課程文科一類入学。

2003年東京大学法学部第三類(政治コース)進学。

2005年同卒業、同大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻政治コース修士課程進学。

2007年同課程修了(修了者代表)、同研究科助教。

2010年同研究科特任助教。2011年熊本大学政策創造研究教育センター特任准教授(学長特別補佐)。

現在に至る。

Q② 大川先生の専門である「 政治過程論 」とは、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

その名の通り、政治の過程(プロセス)で起こるさまざまな事象や

それに関わるさまざまな主体について研究・分析する学問です。

具体的には、権力とは何か。民主主義にはどのような種類があり、

どう機能しているのか。政党の役割とは何か。

政党・政治家の政策や意識はどう変化しどう実現しているのか。

有権者の投票行動はどのような要因に規定されているのか。

なぜ有権者は政治に関心をもったり、もたなかったりするのか…など、

現実の政治のプロセスで生じる問題に科学的な視点から

アプローチしていきます。

多くの場合、統計的な手法を用いたデータ分析が取り入れられています。

私は、これまで現代日本政治における政党について

(特に、政党や政治家の政策の変化やそれを規定する要因について)、

政治家や有権者に対する調査データを用いた分析に取り組んできました。

Q③ 大川先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

小学生のころから「社会科」が好きで、テレビや新聞などで報じられている

政治に関するニュースを見て、興味をもっていました。

1993年の細川政権の誕生は、今でも鮮明に覚えています

(ただし、私は新政権側ではなく、どちらかというと自民党の内紛に興味がありました)。

高校の進路指導の際も、政治を学びたいということで志望校を決めました。

大学に入学し、法学部に進学後、蒲島郁夫先生(現・熊本県知事)の

ゼミに入れていただきました。

ちょうど総選挙が行われた2003年のゼミでしたので、その総選挙に関する研究でした。

ゼミ長を務め、データのとりまとめを行いながら、調査・研究に没頭した経験は、

現在の研究生活の礎になっていると感じています。

当初は一般企業への就職を考えていましたが、蒲島先生と出会ったことがきっかけとなって

研究者の道を志し、先生や谷口将紀・東大教授の指導を受け現在に至ります。

Q④ 投票率の低下など有権者の「政治離れ」がよく言われていますが、

 大きな原因は何だと思われますか?

 有権者がもっと政治に興味を持つためにはどんなことが必要ですか?

特に先進国を中心として、有権者の価値観が多様化し、

また経済成長の限界が明らかになる中で、政党や政治家が有権者の意思を

十分にすくい取れておらず、有権者にとっての果実を伴う新たなモデルを

見つけられていないということがあると思います。

国や世界の未来をつくる若年層の投票率がとりわけ低いということは、

将来にわたっての社会の持続性を考える意味でも、深刻な問題だと思われます。

有権者が政治に十分に興味をもてない状況がある一方で、

有権者が高学歴化し、また発達したマスメディアを通して、

政治に関する情報が頻繁かつ詳細に入手できるようになって、

政治や政党・政治家を見つめる目がかなり厳しくなっているということも、

一方では言えるかもしれません。

しかし、有権者が直接政治に参画し、決定を下していく直接民主主義に対し、

一つひとつの課題についての詳細な決定を、

選挙を通して政治家や政党に委ねる間接民主主義は、

決定の迅速・効率性などを考えれば、なお合理的な制度です。

政党・政治家が今の時代のあり方に合った形で有権者との結びつきを再び作り、

説得に根気強く努めること、また有権者の側も、すぐには結果が出なくても、

ある程度忍耐しながら政治的な動きの一つひとつをしっかりと監視し続けることが大切だと思われます。

Q⑤ 海外の政治システムと比べて、日本の政治の一番の特徴とは何ですか?

 長所、短所も含めて説明をお願いします。

政党について主に研究している立場からすると、

「自由民主党(自民党)」の存在ということになるでしょうか。

先の衆院選で自民党を中心とする政権が再び誕生しました。

自民党は、1955年の結党以来、ほとんどの時期で政権を担当し、

今日に至るまでの日本の民主主義を支えてきました。

海外の民主主義国でも、長期にわたり政権を担当してきた政党はいくつか存在していますが、

現在に至るまでこれほど長く政治の過程で主導的な役割を果たしている、

ということになると、稀有な例になります。

確かに、2009年の衆院選で民主党への政権交代が実現しました。

これによって、二つの大きな政治勢力の間の政権交代が日本でも

定着するかと思われましたが、2012年衆院選に際しては、

自公以外の勢力が大きく分かれるなど、

この先の日本の政党システムのあり方は予断を許さない状況です。

そんな中で、自民党は何度もの分裂の機会を乗り越えて、

1つの政党として存在し続けています。当面は日本における

中心的な政党としてあり続けるのでしょう。

ただ、衆議院で現状の選挙制度(小選挙区制を中心とする制度)が継続する限り、

政党の数はいずれは収斂していかざるを得ないでしょう。

党内のガバナンス(統治)がうまくいかずに分裂を重ねた民主党の失敗も踏まえ、

自民党に対抗する勢力がまとまっていけるのか、

あるいは、政策的な多様性を持っている各政党の間で、

いわゆる「政界再編」がなされるのか、引き続き注目していかなければなりません。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

私がこれまで主に分析に用いてきたデータは、

東大蒲島・谷口将紀両研究室と新聞社(朝日新聞社)が共同・協働で行ってきた調査のデータです。

私も2007年以降この調査チームの一員として参加してきました。

調査に関する記事が新聞に載る際には、記事の締切直前まで記者さんとやり取りしながら、

データを確認・分析して細かい表記までつめる作業をします。

おかげで、私も締切というものにより敏感になったほか(笑)、

短時間で的を射た日本語で記事をまとめる記者さんの姿を通して、文章力が鍛えられました。

また、2007年参院選時には選挙の投開票日に、「戦場」と化した

新聞社本社の政治部の部屋につめて刻一刻と動く開票状況を見守るという経験もできました。

そこで栄養ドリンクを飲み、眠い目をこすりながらデータ分析の作業したこともよい思い出です。

Q⑦ 今後の活動予定などあれば教えてください。

直近では、1月12日(土)午後1時半より、熊本大学工学部百周年記念館(黒髪南キャンパス)にて行われる、

平成24年度第2回知のフロンティア講座にて、一般市民の皆さま向けの講義を行います。

タイトルは「「政治」って何だろう?―2012年総選挙を手がかりに―」です。

まだ皆さんの記憶に新しい2012年総選挙について分析した内容をお話しし、

それを手がかりに、政治学の基本的な理論や概念をいくつか紹介しながら、

政治って何だろう?というシンプルで深い問題について、一緒に考えてみたいと思います。

事前予約は不要で、興味がある方でしたらどなたでもご参加いただけますので、

ぜひ足をお運びください。

 

 

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