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熊本大学 岡田憲夫教授

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

12回目の講師は、熊本大学自然科学研究科減災型社会システム実践研究教育センター教授 の

岡田憲夫 先生です。

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プロフィール                                                     
1947年 北陸・富山市生まれ。団塊の世代の走り。大阪育ち。でも幼き心の原風景は冬景色、雪だるま。 京都大学工学部ついで大学院で土木工学、特に社会基盤計画学を学ぶ。 特に水資源・環境マネジメントの新しい計画論について研究し、工学博士を授与される。 京都大学助手を経て、1977年 鳥取大学工学部土木工学科助教授、  1986年 同社会開発システム工学科教授。 当時日本でほとんどなかった都市・地域づくりやそれを支える情報コミュニケーションシステム、生産システムなどのデザイン工学を学ぶ学科を創設するためのリーダー役を務める。 これは土木工学、都市工学、経済学、情報工学、経営数理科学などの融合的で先端的な専門分野への私の興味と関心を募らせる忘れがたい体験となった。また縁あって鳥取県智頭町のまちづくりグループのお手伝いをすることになり、以来今日まで30年弱続いている。このようなこともあり、机の上の学問だけではなく、 実際の生きた現場(フィールド)で教育・研究していく私の現在の教育・研究のモットーとなっている。                              1991年 京都大学防災研究所教授に移り、水資源・環境マネジメント 、地域都市計画、まちづくりの研究に加えて、 総合防災学、災害リスクマネジメントの研究領域を切り開いていく仕事に従事する。国際的にも、ウィーンの国際応用システム研究所(IIASA)と手を携えて、国際総合防災学会(IDRiM  Society)の設立に取り組む。10年以上の積み上げをもとに、2010年より同学会が設立され、現在本学会の初代会長を務める。2009年から 2011年まで京都大学防災研究所長、2012年4月に京都大学から熊本大学に移り、同 年12月より現職。              趣味は日本各地や世界をめぐること。いろいろな人や言葉や文化と出会うこと。その意味では仕事と趣味は一体化している。 多様な本のコレクション。                                                                          
                                                                                                      
Q② 岡田先生の専門である「 総合防災学、災害リスクマネジメント」とは、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。
総合防災学とは、何か?  実はいささか込み入った話しになるが、敢えてざっくり言うと次のようになります。
1.「防災とことさら言わないで防災(減災)を実現する方法」を研究する新しい学問。 
めったに来ないけれど、来たら人の一生が引っくり返るような災害へ備えて行くには、一見
このような迂回(いろいろと遠回りしたようにして随時戻ってきてはまた一件横道にそれて行くようなアプローチ)戦略が役に立つはずである。1995年の阪神淡路大震災のときに、  そのような新しい学問を開拓することが必要だと多くの研究者が痛切に感じた。 このことは2011年の東日本大震災でも、その重要性と意義が広く理解され、求められることになった。 同時に、もっともっとこの方面での研究を進めるとともに、そのための人材づくりや教育プログラムの大切さが認識されることとなった。  「防災とことさら言わないで、一見迂回したようなアプローチをとる」とは、たとえば、ある集落・地区が突然大災害に見舞われたとき、 お互いに住民同士よく知っているか、互いにコミュニケーションはよく取れるのか、 避難所に行ってすぐに炊き出しや、避難所の物資の割り振りなどを住民自身でしなければならなくなったりする。これは、普段から地区コミュニティで共同で何かの行事や活動を定期的・積極的にしているかどうかで大きく変わる。その意味では、たとえば「伝統的な地域の祭り」を積極的に維持しようとしている地域は、このような地域力が常に保たれるような仕掛けを持っていることになる。それがあるかないかは災害の後の地域の復旧・復興の力(バネ)が効くかどうかに大きく関係することが研究面でも分かっている。 このことは、昨年7月の熊本で豪雨災害でも浮き彫りになってきたように思われる。                                                                                                              
2.「減災まちづくり」の進め方を研究する学問 」        
めったに来ないけれど、来たら人の一生が引っくり返るような災害へ備えて行くには、行政や防災の専門家にすべてを任せるやり方では限界がある。むしろ「自分という命の持ち主」はつまるところ、住民の人たちや企業の経営者であるという自覚と自立ある行動が不可欠となっている。たとえばいざとなったとき、とにかく確実に自分(たち)で避難できるようにする。行政が指定した地域の避難所に逃げるべきなのか、それとも災害の種類や状況によっては「地域ならではのいっとき避難所」に駆け込んだ方が良いかもしれない。そのようなことは日頃から、地域の人たちが中心しなり、行政や専門家を巻き込んで事前に「まちの点険」のためのタウンウォッチを繰り返したり、それに基づいて「避難の仕方」を「地域ならではのやり方」バージョンに編みあげて行く営みが大切である。これはある種の「参加型まちづくり」であり、私はそのためのユニークでとても効果のあるワークショップ技法を開発し、日本の各地(鳥取県智頭町、京都市中京区朱八自主防災会など)だけではなく、広く世界のいろいろな地域コミュニティ(韓国、ネパール、インド、インドネシアなど)に導入する事例研究を進めている。 この手法は四面会議システム(YSM)と呼ばれています。最近ではJICAや国連大学の研修でも講師を務めて、 アジアやアフリカの国々への普及も図っています。     
http://www.jcca.or.jp/achievement/riim_report/vol_06/002report6.pdf.「こちらで大風が吹けば、地球の向こうで失業する人が出てくる」  という複雑系の社会システムを研究する学問」 
「風が吹けば桶屋が儲かる」ではないが、 「こちらで大風が吹けば、地球の向こうで失業する人が出てくる」 という現象は21世紀社会では現実のこととなっている。これは「大風が吹く」
いう「こちらだけの話」が、世界がグローバリゼーションで複雑に繋がり合っているために、ここだけの話では終わらず、国境を超えて世界中に影響を与える可能性がある。現実に、2011年 3 月11日の東日本大震災が起こったとき、海の向こうの北米大陸では、トヨタやフォードの乗用車生産ラインが止まったり、生産規模を大幅にレベルダウンせざるをえなくなった。結果的に北米の地域経済や労働環境にも大きな影響が出た。  これはグローバリゼーション社会におけるサブラインチェーンシステムの宿命的な問題でもあり、ローカルな災害(自然・社会)が、地球を駆け巡る問題に変質する時代に私たちは生きていることを意味している。                                            また同じ2011年の秋、タイでも同じようなケースがあった。「2011年10月初めよりタイ中部を中心に洪水が発生し、被害が全国に広がりました。日系企業が多く入居するアユタヤ県を中心とした工業団地が冠水し、工場が操業停止となるなど大きな影響が出ました。」 http://www.jetro.go.jp/world/asia/th/flood/                     このような問題は自然現象だけではなく、情報システム、運輸交通システム、経済的・社会的システムなどが複雑につながった問題であり、その解析には数理科学の手法も含めた学問や制度の垣根を超えた取り組みが求められることを意味している。 私はこのような研究分野を切り開くためにこの10年来取り組んできている。                                                                            
Q③ 岡田先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。
 総合防災や災害リスクマネジメントの研究については、1995年の阪神淡路大震災が大きな弾みとなったが、それ以前からそのような研究は始めていた。防災にリスクマネジメントという考え方や方法論を持ち込み、さらにはリスクマネジメントの研究分野自体にも新風を吹き込んでいくという気概で、 1980年代から取り組んでいる。 「きっかけ」ではなく、それが「きっかけになって」であるが、オーストリア・ウィーンの国際応用システム研究所(IIASA)と手を携えて、総合防災学に関する 国際学会を立ち上げる運動と活動を2000年から始め、2010年にはこれが正式に国際学会になって今日に至っている。                                                         
特に 「減災まちづくり」の進め方を研究については、災害に限らず、山間地域が抱える多様な障害や危機をどのように乗り越えれば良いのかについて、  鳥取大学社会システム工学科を開設したときから、取り組んでいる。鳥取県智頭町の地域活性化のグループとのお付き合いは、もう30年近くになる。                                                         
                                                             
                                                              
Q④熊本県に住む人々にとって、注意すべき「防災」などありますが?特徴ななどありましたらお願いします。
①昨年の7月12日の豪雨災害はいろいろな教訓を残しましたが、私の専門とする「総合防災学」や「災害リスクマネジメント」という考え方や方法がもっともっと熊本でも研究や教育の両面で必要だということも、その教訓の一つではないかと考えます。  
特に「減災まちづくり」をいかに効果的に進めて行くかはこれからは避けて通れない問題のはずです。堤防などのハードな施設は大切だが、それでは完全に守れない洪水氾濫などのリスクがあることを行政は住民にもっと分かるように伝える工夫をする。これが減災のまず出発点です。あるいは都市計画などで住み方や土地の利用の仕方にもっと規制をかける 。しかしそれには住民や企業への丁寧な説明や合意形成も求められる。 さらに同じ行政でも、河川管理と都市計画や農業基盤整備の計画を担当する部局や国、都道府県、市町村レベルでのお互いの円滑なコミュニケーションと協議・調整が不可欠です。いずれにしても、それでも完全に守れない洪水氾濫などのリスクがあることを心得た上で、そこに住む人や企業活動を行う人たちがは、いざとなったらまずは自分たちで最低限 命や財産を守れるような「自衛力=地域力」を日頃から養っておかなければなりません。 また自分たちが住んだり、企業活動を行っている「ご近所の地域」の細やかな症状は、自分たちが一番気にしており、また詳しいようになっていなければならない。すぐそばまで浸水していても気づかないことはないようにしなければならない。またそのような危機が迫ったときにいざとなったらどこにとりあえず逃げるかを日頃から話あっておくことが必要です。                                             でもそのようなことを日ごろから行政や専門家を交えてどのように検討し、そのような「自衛力=地域力」を高めるような「皆で考え、計画し、行動にまで結び付ける」 には、どうすれば良いのでしょうか? 私がこれまで研究して来た「減災まちづくりのための参加型支援の方法」は、このような目的のために活用することができると考えています。「四面会議システム技法」はこのような目的に使える一つの技法です。                                                           
②7 月12日の豪雨災害は、下流の熊本市はもとより、その上流部の阿蘇市などの山間地域でより異常な降雨強度に見舞われ、甚大な土砂災害などが起こり、集落によっては今後の存亡・帰趨にも関わる事態も発生しているように推察されます。これは今後の復旧復興計画づくりが、自然災害からの回復だけではなく、もともとひたひたと進行していた「過疎化という症候群(社会の病)に追い打ちが掛けられたという認識が必要です。つまり、この深刻化した社会の病をこの機会に逆手に取り、新しい発想で徹底的にメスを入れて治癒していくという頭の切り替えが求められているのです。その場合、ただ災害に強いまちにするというのではなく、「本当に誇りをもって住みたい、住み続けるのだ 」という「コミュニティの心の心棒(心柱)」を住民がいかに見い出し、掲げられるかが鍵となるはずです。  その意味では、災害に強いまちは、「心強いまち」でなければならず、そこには「元気なふるさと」、「美しいふるさと」、「他の人たちが魅力を感じ、引き寄せられるまち」が、自分たちの言葉でいきいきと語られるようなまちづくりでなければならないのです。              実は、東北でもいま同じようなことがあちらこちらで問題になっています。 でもそのハードルはとても高いもののようです。熊本はその意味では東日本大震災の被災地の復興まちづくりからもいろいろな学びができるはずです。(私もささやかながら、少しだけ東北の復興にも関わっています。)  同時に同じような 被災をした「まち同士」が交流しあって学び合い、励まし合って乗り越えていく方法もあるのではないでしょうか。                                                      
                                                             

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Q⑤ 「多様な本のコレクション」が趣味とのことですが、どんな本をコレクションされていますか?特色ある本などあればいくつかご紹介ください。

それがいわく言い難いのです。                                                  分かりやすい方から言いますと、旅行が好きですので世界のいろいろな辞書・辞典や言語に関する本を集めています。たとえば最近買った本では、
①「世界の文字の図典 普及版世界の文字研究会 (著, 編集)」古川弘文堂http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4642014519/ref=dp_image_0?ie=UTF8&n=465392&s=books
②文字の歴史 (「知の再発見」双書) [単行本]
ジョルジュ ジャン (著), 高橋 啓 (翻訳), 矢島 文夫 (翻訳)  創元社

③ピダハン―― 「言語本能」を超える文化と世界観
ダニエル・L・エヴェレット (著), 屋代 通子 (翻訳)   みすず書房                                                  
分かりにくいコレクションの仕方としては、「流れ」というテーマで、下記のような本を集めて読みました。   
 i)「自然が創り出す美しいパターン」フィリップ ボール (著), Philip Ball (原著), 塩原 通緒 (翻訳),早川書房
http://www.amazon.co.jp/gp/product/images/4152092564/ref=dp_image_z_0?ie=UTF8&n=465392&s=books     
  ii) 禰津家久 『水理学・流体力学』 朝倉書店、1995年、pp.5-6。ISBN 4-254-26135-7。 
⇒  ここでレオナルド・ダビンチが流体力学について既に研究していたことが示されている。    
 iii)  ダ・ヴィンチの遺言,  河出書房新社,池上英祥   
http://www.amazon.co.jp/%E3%83%80%E3%83%BB%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%81%E3%81%AE%E9%81%BA%E8%A8%80-KAWADE%E5%A4%A2%E6%96%B0%E6%9B%B8-%E6%B1%A0%E4%B8%8A-%E8%8B%B1%E6%B4%8B/dp/4309503160
iv) 方丈記, 鴨長明, 岩波文庫⇒冒頭で「行く川のながれは…」と有名な哲学的観察を示している。
v) 流れの歌, 鈴木清写真集, 白水社   
 http://www.hakusuisha.co.jp/images/product/08100l.jpg                             このようなコレクションは、私の中で「流れ」で連想ゲームがおこった結果集まったもので、他の方にはよく説明しないと「脈絡のないばらばらの集まり」にしか見えないのかもしれません。                                       
Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。
  インドネシアのメラピ火山山麓地域で、現地の大学(ガジャマダ大学)の要請で四面会議システムが実際に使われ、いろいろと苦労はありましたが、いくつかの村で避難行動計画などを立てて実行する国際協力事業を二年近く(2009-2011)しました。 その直後に、 メラピ火山が大噴火を起こし、山麓の集落はことこどく壊滅的打撃を受けました。 
http://www.youtube.com/watch?v=hKGc6lFyecQ
多くの人命が失われたなか、幸いにも、私たちが入って支援した集落はすべて安全に避難してくれました。 (四面会議システムだけが功を奏したのではありませんが、少しは現実の生きるか死ぬかの行動に影響があったかもとれないと考えると、とても嬉しく思いました。)      

Q⑦ 今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください?
■熊本大学の大学院の自然科学研究科に減災型社会システム実践研究教育センター(略称 「減災センター」)が正式に発足しました。                                     
またここが熊本大学では中心となって、熊本県内の3大学(熊本県立大学、熊本学園大学、熊本保健科学大学) と連携して、文部科学省 大学間連携共同教育推進事業「減災型地域社会のリーダー養成プログラム」~減災型地域社会の創成に向けた地域の拠点による人材育成~が去年の秋から立ち上がりました。5年間の共同事業です。  下記のホームページをチェックしてみて下さい。  

・減災型社会システム実践研究教育センター(IRESC)http://iresc.kumamoto-u.ac.jp/index.html

・大学間連携共同教育事業 減災型地域社会のリーダー養成プログラム http://iresc.kumamoto-u.ac.jp/renkei/index.html

■  東日本大震災の被災地の声を世界に伝えるために英語に翻訳して発信するボランティア的
取り組みを2011年 6月より始めています。興味のある方は、下記のwebsiteを見てみて下さい。                                                                   
災害の復旧や復興に、言葉が果たし得る力と可能性を耕すささやかな試みです。ニュースソースは現地に入って活動を続けてきた災害ボランティアの皆さんが提供してくれます。翻訳ボランティアには、大阪豊中の国際化促進組織や翻訳大好きな市民がサポートしてくれています。 
http://voicefromfield.com/

 

                                                         

 

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