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「悪の法則」

毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、現在公開中の「悪の法則」です。
 
この映画は、アカデミー賞を受賞した映画
「ノーカントリー」の原作者として知られる
アメリカを代表する作家
コーマック・マッカーシーが書き下ろした
オリジナル脚本を、「エイリアン」や
「グラディエーター」などで知られる
ハリウッドの巨匠リドリー・スコットが
映画化した作品です。
 
この組み合わせに「悪の法則」という
刺激的なタイトル。
緊迫感あふれるクライムサスペンスであると
同時に人間の「罪」についての深い洞察に
みちた作品となっています。
 
主人公は有能な弁護士。
彼は結婚の決まった恋人のために、
ほんの出来心から、友人の実業家と手を組み、
危険な裏社会のビジネスに手を出します。
メキシコから国境を越え、大量のドラッグを
アメリカに密輸する危険な仕事です。
裏の世界に通じるブローカーや、
美しい元ダンサーなど、彼の周りに現れるのは、
ひとくせもふたくせもある人物たち。
ある出来事をきっかけに、主人公は、
取り返しのつかない危機へと陥っていきます・・・。
 
主人公を演じるのは、
リドリー・スコットの前作「プロメテウス」にも
出演したマイケル・ファスベンダー。
彼の婚約者には、ペネロペ・クルス。
主人公と手を組む実業家ライナーには、
「ノーカントリー」で強烈な殺し屋を演じた
ハビエル・バルデム。その謎めいた恋人
マルキナ役に、キャメロン・ディアス。
そして、裏社会のブローカーである
ウェストリーには、ブラッド・ピットと、
キャストも超豪華です。
 
ただ、この映画は、普通の
クライム・サスペンスとは一線を画す映画です。
「悪」に手を染める人間の弱さ、そして、
その行為によって、登場人物が
どんな非情な報いを受けるのか、映画は、
登場人物たちの行く末を、ある意味
突き放したように淡々と描いてみせます。
 
それが残酷な人間の死だとしても、
映画の中では、さほど重要なことでないように
静かに淡々と描かれていくのが、
逆に恐怖を倍加させるようになっています。
 
これはネタバレになるかもしれないので、
注意してお話しますが、映画の終盤で主人公に
「あるもの」が届けられるシーン。
映画をぼんやり観ていると、そのシーンの意味が
全然わからない人もいるかもしれません。
それまでの主人公たちの会話を注意深く
聴いていた人には、これが、
とてつもなく恐ろしいシーンになっています。
 
そう、この映画は、一般的なハリウッド映画と
まったく違った方法論で作られている作品なんです。
観客は、「罪」について考え、「悪」について考え、
「人間の生きる意味」について考えさせられます。
普通のハリウッド映画のようにぼんやり観ていると、
映画の本質に気が付かないかもしれません。
観客が考えることを前提にした
映画になっているんです。
 
今回のそういう「仕掛け」については、
脚本を担当し、製作総指揮をつとめた作家
コーマック・マッカーシーの存在が大きいです。
彼の書く小説は、登場人物の会話を中心にして、
普通の人々が遭遇する悪や恐怖、絶望などを
描くのが特徴と言われます。
 
アメリカという国が、「血と暴力」によって
作られていると主張する彼の作品群は、
「現代の神話」とも呼ばれていまして、
アメリカ人作家の中で最もノーベル文学賞に
近い作家とも呼ばれています。
この映画も、その小説のスタイルをとりながら、
ひょんなことから危険に巻き込まれていく
人間の姿を描き出しています。
アカデミー賞受賞作「ノーカントリー」では、
コーエン兄弟の抑えた演出が作品の完成度を
上げていましたが、
今回のリドリー・スコット監督は、
映像派の監督であることもあって、
派手な見せ場もたっぷりと用意されています。
 
俳優陣の衣装もそのひとつ、
主人公は常にアルマーニのスーツ。
実業家ライナーは、派手なベルサーチの服。
謎の女マルキナには、この映画のためにデザイン
された人気ブランドのトーマス・ワイルドの
コレクションが使用されてます。
衣装ひとつにしても、登場人物のキャラを
象徴するものとして描きわけているのが、
ビジュアリストである
リドリー・スコット監督の凄いところです。
 
単純な犯罪映画としても見ることができる
映画ですが、ここはひとつ細部まで目を凝らして
鑑賞して、リドリー・スコットと
コーマック・マッカーシーが仕掛けた、
映画的な人間考察に参加してみませんか?
 
映画を観た後に、世の中の風景が変わって
みえるかもしれません。
ちょっと歯ごたえのある映画を見たい方には、
ぜひおススメの1本ですよ!
 
今日ご紹介した映画「悪の法則」は、
■TOHOシネマズ光の森
■TOHOシネマズはません
■TOHOシネマズ宇城
■シネプレックス熊本
■イオンシネマ熊本
で、現在公開中です。
 
「悪の法則」オフィシャルサイト
 
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