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熊大ラジオ公開授業「知的冒険の旅」 江川良裕先生

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする
「ヒューマン・ラボ」。
 
11月から3ヶ月間にわたって
スペシャル企画でお届けしています。
題して「FMK Morning Glory  ヒューマン・ラボ
熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」
 
毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、
さまざまジャンルの研究テーマについて
お話をうかがいます。
 
第5回の講師は江川良裕先生です。

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Q①お名前と職業・所属を教えて下さい。
 
名前:江川良裕(えかわよしひろ)
所属:文学部コミュニケーション情報学科
(大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻)
 
プロフィール
関西学院大学社会学部卒業後、地方テレビ局、
広告プロダクションを経て、
(株)西武百貨店で開発企画業務に従事。
複合商業施設や地域開発などの自社開発物件の企画と
コンサルティングを担当。
その後、商業および都市開発専門の
コンサルティング会社を経て、
メーカー系のシンクタンク、
コンサルティング会社である富士通総研に勤務。
インターネット・ビジネスやサービスを中心とした
事業や商品の企画、マーケティングなどを
中心とした経営コンサルタントとして活動。
2004年10月より現職。
 
Q②江川先生の専門である「経営学」とは、
どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。
 
経営学、もう少し細かく言うと事業戦略や
ビジネス・モデル、マーケティングが専門です。
 
事業戦略はその名の通り、事業単位での競争力に
焦点を当てており、事業としてどのような
ポジションを採るか、ヒト・モノ・カネ・
情報・知識などの組織資源をどのように
有効活用するか、ということなどが議論の
中心になっています。
 
一方で、マーケティングとは、事業より
小さな世界、製品やサービスという単位で、
競合製品やサービスにおいて、より具体的な
差別化や優位性獲得を考えるものです。
 
ビジネス・モデルとは事業戦略と
マーケティングの中間的あるいは包括的な概念と
言っても良いと思います。
価値提供、業務、収益を結びつける「勝ちパターン」
「勝利のシナリオ」みたいなものです。
 
最近では、こういった知識やノウハウを
社会的課題や地域社会にどのように
適応していくかについて興味をもっており、
研究という枠を超え、教育や地場産業との
連携などの視点から色々と試行をおこなっています。
これまで、社会的課題は公共やボランティアに
よって解決されるのが一般的だったわけですが、
公共による解決は品質やレベルが最低限で
固定的なものになりがちですし、
ボランティアによる解決は継続性という面で
脆弱です。そこから出てきたのが、
ソーシャル・アントレプレナーシップや
ソーシャル・イノベーションという考え方で、
ビジネス的な知識や手法を使って課題を
柔軟かつ持続性のある形で解決しようと
いうものです。
 
そもそも民間ベースでの事業化が難しいと
考えられた分野ですから、より高度な戦略や
モデル、マーケティングが要求されるわけで、
そこに惹かれたのです。
これについては、アントレプレナー意識を
醸成する教育をテーマにして、授業科目で
色々な試行をおこなっています。
学部あるいは大学院向けの教養教育において、
実践家を招いて課題を設定し解決のための
企画を考えるような授業などです。
 
一方で、経営学的な視点を地場産業に
適用していくことについては、
産学連携で何かを生み出すという以上に、
学生の教育の場として企業の現場を
活用することを狙っています。
 
つまり、より実践的なインターンシップ。
あらかじめプログラム化された既存の
インターンシップではなく、
チャレンジしたいことを学生から企業に提案させ、
企業サイドに認められたら実施するという
「プロジェクト」的な位置づけで、
経営学的な知識やスピリッツを現場で学生に
身につけさせることが目的です。
私のゼミの学生を中心に参加させており、
現在は鶴屋百貨店の子どもフロアの
プロモーションに協力しているほか、
調整中の企業もあります。
 
Q③江川先生がこの研究に取り組むことになった
「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。
 
何か特別な出来事があったわけではなく
「徐々に何となく」です。
大学時代は社会学部で人間工学のゼミに
所属しており、経営なんかには全く興味が
ありませんでした。
経営学的なアプローチに興味をもった
最初が西武百貨店時代で、バブル最盛期には
「生活総合百貨店」や「まちづくり」を掲げ、
商業施設に本物の教会を誘致する、
北欧から巨大なもみの木を、ハリウッドからは
リメイクの映画で使ったキングコングの
強大なロボットを運び込み、
コングの手のひらで結婚式をあげようとか、
およそ今では考えられないアクロバティックな
企画を形にしていた企業です。
そういうところから、マーケティングの
おもしろさや深さについて考えるようになりました。
また、施設開発などから事業開発などに
フィールドを移して経営コンサルタントして
活動する中から、「プロデュース」という
視点を学んだと思います。
 
コンサルタントという仕事には何か形になった
商品があるわけではありません。
「企画書」とか「報告書」と呼ばれる
紙の冊子にクライアントは数千万円を
支払うこともあるわけで、論理的でクリアなこと、
信頼されることが求められます。
また、世界的に有名なコンサルティング・
ファームなどとの競合コンペなどでは、
ブランド力に優る相手に、どのようにすれば
勝てるのかを考えることが必要でした。
 
後は「出会い」です。
教育という切り口を重視するようになったのは、
通商産業省と文部科学省の共管で設立された
コンピューター教育開発センターのプロジェクトに
誘って頂いたことですし、私の大学院での所属が
社会文化科学研究科教授システム学専攻に
なっているのも、なぜか着任してあまり期間も
経っていない時に、話をしたこともない
先生から声をかられたからです。
 
また、社会的課題解決という分野については、
ボランティア活動をしている他学部の学生が
研究室に突然訪ねてきて、
「この人の講演会を学校でおこないたいのですが、
協力してもらえませんか」としゃべり始めたのです。
そこからネットワークが広がっていきました。
 
Q④これまでの活動を通じて、
最も印象深いエピソードをお願いします。
 
最近で良かったなと感じるのは、鶴屋百貨店に対する
子ども向けプロモーション・イベントの
役員プレゼンテーションでしょうか。
 
企画検討作業を本格化させたのが今年の春先で、
プレゼンが7月。
その間、私がサポートしながら学生のチームに
企画を検討させ、クライアントである鶴屋百貨店の
担当者と調整に当たらせたのですが、
スタート当初は「大丈夫」だろうかという感じでした。
 
前提や与件を確認せず、事例などのデータも集めずに
ミーティングをおこない、フラッシュ・アイデア
だけで役割分担し相互の連携もなく進めていくので、
「どこかで見たような古くさいネタ」しか出てこない。
 
また、アイデアやストーリーに根拠がないので、
クライアントを説得できず、結局言われたことを
無条件に飲んでくる。そんなことに対して、
「誰のために企画があるのか」と問い直し、
時にはクライアントと私がぶつかるわけです。
 
ただ、それが学生には響かないらしい。
他の先生を通じてですが
「なぜ、江川先生があんなに
一生懸命になるのかが分からない」という
学生の声があったという話には、
ちょっとショックでした。
 
ただ、そんな手応えの少ないことでも
続けることは大事なもので、対面での
ミーティングだけではなく、SNSなども積極的に
使って指導や議論を続けることで、
学生も変化していきます。
 
ヒントになる事例などを含めてアドバイスや
作業指示をSNSに書き込み、
学生にはそれに応えさせる形で作業報告を求める、
というように企画検討を進め、時には、
「言われて動くのは学生のバイト、
言われても動けないのは学生以下」とか、
声を荒げることもありました。
 
そんな一進一退の作業でしたが、
プレゼン当日にはかなり成長した姿を
学生は見せくれました。企画内容が大きく
改善されたことはもちろん、
社長以下数十名の同意を得られたことは、
単純に嬉しかったです。
 
Q⑤今後の活動予定やPRしたいこと
などあれば教えてください。
 
鶴屋さんとのプロジェクトのように、
地域の企業などの現場に入って、
学生の力や私の知識や経験を含めて、
商品やプロモーションなどの開発を
おこなってくださる企業などがあれば、
是非声をかけて頂きたいと思います。
 
紹介した社会的課題解決の分野のほかには、
商業施設・都市開発、教育などのほか、
ネット・サービス系のマーケティングや
事業開発は私のもうひとつのテーマです。
 
学生にとっては学内ではできない体験が
得られる一方で、学生と連携するという意味で
企業にとっては広報的な点でもメリットが
あると思います。
 
以上、「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ
熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」でした。
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