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「かぐや姫の物語」

毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、現在公開中の「かぐや姫の物語」です。
この映画は、宮崎駿監督と並ぶ
「スタジオジブリのもう一人の巨匠」と言われる
高畑勲(たかはたいさお)監督が、
「ホーホケキョとなりの山田くん」以来14年ぶりに
手掛けた最新作です。
 
今年はジブリの長編映画が年に2本公開されることで
話題ですが、宮崎監督と高畑監督の映画が同じ年に
公開されるのは、1988年の「となりのトトロ」と
「火垂るの墓」以来、なんと25年ぶり。

もともとは2本同日公開を目指していたそうですが、
高いクオリティを追求し、「風立ちぬ」から4か月遅れでの
封切りとなりました。
当初予定されていたこの「同日公開」のプランに関しては、
裏話がありまして、「風立ちぬ」より早く製作が
開始されていたにもかかわらず、高畑監督のあまりの
完璧主義ゆえに作業が遅々として進まなかった
「かぐや姫の物語」。
「このままのペースだと、完成は2020年になる。」というぐらいに
製作が遅れていました。そこでプロデューサーが考えだしたのが、
「風立ちぬ」と「かぐや姫の物語」の同日公開プランです。

ライバルとして互いを強く意識している宮崎監督と高畑監督。
そのライバル心に火をつけることで製作体制を劇的に
スピードアップさせることに成功したそうです。
結果、4ヶ月遅れとはなったのですが、
なんとか2013年内に公開にこぎつけることが
できたという訳です。
 
完成した映画は、確かに時間をかけて製作されたのが
頷ける完成度になっています。
淡い色彩のまるで日本画のような美しい絵が、
動く映像をみているだけでも感動します。
高畑監督は、“いわゆるアニメ的”な表現を嫌い、
「おもひでぽろぽろ」では写実的な画を。
「ホーホケキョとなりの山田くん」では、水彩画のような背景に
マンガ的なキャラクターを融合させたりと、
常に、実験的な映像の試みを行っていますが、
今回は画面全体を淡い水墨画のように描き出し、
これまでのアニメーションのイメージを覆す、
圧倒的な表現を作り出しています。
 
映画の中で、かぐや姫の幼少期は、特別、
丁寧に描写してあって、よちよちの歩く赤ちゃん時代の
かぐや姫の描写は、赤ちゃんの柔らかな肌の質感まで
観客に伝わってくるような見事な作画になっています。
通常スタジオジブリの映画は、社員スタッフが作画を担当
していますが、この作品は、現在の日本アニメ界から
選抜れた優秀なアニメーターたちが作画を担当しています。

この作品の製作が遅れたおかげで、製作スタッフを奪われた
「劇場版新世紀エヴァンゲリヲン」最新作など
多数のアニメ作品が大幅に遅れてしまったそうです。
それくらい優秀な人材を贅沢に投入しているんですね。
 
「かぐや姫」は、“日本で最も古い物語”として知られていますが、
その文章は起こった出来事が中心に描かれ、
登場人物の心情はほとんど分かりません。
しかし高畑監督はこの映画で、原作を忠実に再現しながら、
かぐや姫や育ての親たちの気持ちにスポットをあて、
物語に深みを与えることに成功しています。
特に、田舎暮らしから都に出て行って、
多くの男性から結婚の申し込みを受けるようになった時の
かぐや姫の心の内面がどう描かれているのかに注目です。
 
個人的には、この「かぐや姫の物語」は、
高畑監督が70年台に監督したテレビシリーズ
「アルプスの少女ハイジ」との共通点が多いように思われます。
当時としては画期的な現地へのロケハンなどを行い
徹底的なリサーチを行ったアニメ。

原作にはないエピソードなどを描いて、
ハイジの心情を丁寧に描いていった高畑作品です。
当時の作画を担当していたのが、監督デビュー前の
宮崎駿だったというのは有名な話です。

ハイジではスイスだった舞台を、日本に移して描かれた
少女の成長物語がこの「かぐや姫の物語」だと
言えるかもしれません。田舎で共に暮らした羊飼いの
ペーターにあたる役が、原作には登場しない
映画オリジナルのキャクター捨丸という少年として登場します。
声を担当するのは、熊本出身、我らが高良健吾くんです。
捨丸とかぐや姫の恋の行方も、この映画の見どころの
一つとなっていますので注目してください。
 
声といえば、この映画は、作画をする前に声を収録して、
その声に合わせて作画するという「プレスコ」
(プレスコアリングの略、事前収録の意味)で作成さています。
だからキャラクターの動きと声がピッタリとあっていて、
独特の生命感を生み出しています。
ハリウッドのアニメなどでは、この方式で作られる
アニメが多いのですが、スケジュールや
予算が厳しい日本のアニメでは珍しい方式です。

だからこそ、今は亡き地井武男さんが担当する
「竹取の翁」の演技は素晴らしいです。
日本アカデミー賞の助演男優賞は、今年は
地井さんに贈るべきなんじゃないかと思える名演です。
「翁」の「かぐや姫」に対する愛情や出世欲におぼれて
ちょっと調子に乗ってしまう小市民ぶりなど。
愛すべきおじいさんキャラとして素晴らしい完成度です。
 
映像も音も、大スクリーンの劇場で観るにふさわしい作品です。
今年の締めに観るならこの1本と言い切ってしまえる作品です。
スタジオジブリの実力を、改めて感じさせてくれる1本!
ぜひ劇場で体験してください!
 
今日ご紹介した映画「かぐや姫の物語」は、
■TOHOシネマズ光の森
■TOHOシネマズはません
■TOHOシネマズ宇城
■シネプレックス熊本
■イオンシネマ熊本
で、現在公開中です。
 
「かぐや姫の物語」オフィシャルサイト
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