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『それでも夜は明ける』

毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、今週土曜日・4月12日から公開される
「それでも夜は明ける」です。
 
間違いなくこの春公開の映画の中で最も注目される映画です。
この作品、先月発表された「第86回アカデミー賞」で、
最優秀作品賞、脚色賞、そして出演者のルピタ・ニョンゴが
助演女優賞を受賞しました。

日本語タイトルは「それでも夜は明ける」ですが、
原題・英語のタイトルは「12 Years a Slave」。
このタイトルにあるように、12年間奴隷となった、
ある男性の実話をもとにした映画です。
 
監督は、スティーブ・マックイーン。
大変有名な映画スターと間違えてしまいますが、
同姓同名のイギリス出身の黒人の映画監督。
美術大学を卒業後、おもにアート作品を発表し、
イギリスでは勲章までうけている人物。
劇映画のデビューは2008年で、今回の「それでも夜は明ける」が
長編映画3作目というから、間違いなく「天才」と呼べる人物です。
ちなみに黒人監督の作品がアカデミー賞作品賞を受賞したのは
史上初のことです。

製作は人気俳優のブラッド・ピット。
彼は“奴隷の映画なんて興行的に成功しない”という
大手映画会社とケンカして他からお金を集めて
この映画を作った、というエピソードがテレビなどでも紹介されて、
かなり株を上げましたよね。
俳優だけでなく、プロデューサーでも超一流ということを
この作品で証明しました。
アカデミー賞でもオスカー像を嬉しそうに持つ姿が印象的でした。

実は、ブラピ自身もこの映画の舞台となったアメリカ南部の出身。
幼少期をミズーリ州で過ごしています。
ミズーリは、奴隷制の是非が大きな争点となった
「南北戦争」の激戦地となった場所。
ブラピがこの企画に思い入れた理由も
そのあたりにあるのかもしれません。
 
さて、ではその映画の内容ですが、舞台は1841年。
主人公は、アメリカ・ニューヨーク州で
妻と2人の子供たちと共に暮らす、バイオリニストのソロモンです。
彼は、生まれたときから自由証明書で認められた自由黒人で、
白人の友人も多く持ち、何不自由ない暮らしを送っていました。
ある時、彼はワシントンでのショーに出演し、
打ち上げの席で酔いつぶれてしまいます。
翌朝目が覚めると、ソロモンの手足は鎖につながれていました。
興行主の裏切りで、奴隷として南部に売られてしまったのです!
そしてソロモンの奴隷としての壮絶な日々が始まります・・・。
 
この映画の背景となったのは、アメリカ北部では
黒人の奴隷解放が進み、南部は奴隷制度が残っていた時代。
南北戦争が始まる20年ほど前です。
このころ、海外からの黒人の輸入は禁止されていたため、
ソロモンのような自由黒人を誘拐し、
売り飛ばす犯罪が多くあったといいます。
突然自由を奪われ、人間として扱われない奴隷となって
しまったソロモンの衝撃は、現在の僕たちと全く同じ。
映画では、余計な説明を省き、
映像だけで壮絶な彼の体験を描き出していきます。
 
劇中では、奴隷に対する拷問をかなりリアルなタッチで描いています。
思わず目をそらしたくなるようなシーンも続出しますが、
それ以上に、それを目撃するソロモンの表情のアップを
かなり長い時間を使って見せています。
セリフではなく、その時に主人公がどう考え、感じていたかを、
観客に感じさせる独特の映画的手法です。
もし、あなたがその場にいたら、どんな行動をとりますか?
映画はそう語りかけているような気がします。
 
奴隷制度は、“自由の国アメリカ“のイメージからは
程遠い暗い歴史であり、アメリカ人にとっては
あまり見たくない部分ではないでしょうか。
 
これを真正面から描いたのはとても勇気のいることで、
それにアカデミー賞を与えたアメリカ映画界はさすがだ、
と思える部分でもあります。
決して口当たりの良い映画ではありませんが、
だからこそ観てほしい1本です!
 
今日ご紹介した「それでも夜は明ける」は、
■Denkikan
■TOHOシネマズはません
 
で、今週土曜日・4月12日から公開されます。
 
「それでも夜は明ける」オフィシャルサイト
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