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『インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌』

 
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、今週土曜日・7月12日から公開される
『インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌』です。
 
この映画は、「ファーゴ」や「ノーカントリー」などの
ヒット作で知られ、いまやアメリカを代表する映画作家となった
ジョエル&イーサン・コーエン兄弟の最新作です。
1984年「ブラッド・シンプル」で長編デビューしたコーエン兄弟は、
脚本・演出・プロデュースを兄弟で分担して行うという
珍しい製作体制で、映画を作ってきました。
一風変わったスリラーやブラック・コメディを得意と
していますが、登場人物が、どこか愛すべき
おかしな人物という点が共通しています。
 
今回の作品は、1960年代のニューヨークを舞台に、
売れないフォークシンガー
ルーウィン・デイヴィスの一週間を描き、
2013年のカンヌ国際映画祭でグランプリを受賞しました。
 
映画の舞台となった1960年代は、
ミュージックシーンがとても活発だった時期。
アメリカのヒットチャートではモータウンサウンドが
隆盛を極め、ビートルズやビーチ・ボーイズ、
ストーンズなどのロックが台頭してきます。
一方、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジでは、
ライブハウスを中心にフォークが人気となり、
大きなムーブメントとなっていきますが、
映画で描かれるのは、フォークがムーブメントとなる、
ちょっと前の時代です。
自分で曲を作って歌うという「シンガー・ソング・ライター」の
スタイルがまだまだ珍しかった時代。
音楽はプロの作曲家がつくり、
プロの歌手が歌うという分業制で作られていた時代です。
 
主人公のルーウィンは、コンビからソロ歌手に
転向したフォークシンガー。
アルバムを出したものの全く売れず、
家もなく知人の家を転々とする毎日。
しかし自分の音楽には信念を持っていて、
儲かりそうな話が来ても、
ポリシーに沿わなければ断ってしまいます。
才能はあるのに、やることなすことうまく行かない彼の姿は、
切なくもあるし、どこか滑稽でもあります。
 
ルーウィンのモデルとなっているのは、
ボブ・ディランが影響を受けたことで知られる
伝説んpフォークシンガー、デイヴ・ヴァン・ロンク。
彼の回想録を原作として、
映画の中でも彼の曲が使われていますが、
キャラクターやエピソードは、
かなりオリジナルで創作されています。
“デイヴ本人”というよりは、才能はあったけど
“ボブ・ディランにはなれなかった人々”の、
いわば集合体のような存在です。
トップスターではなく、その陰に隠れた人に注目するところが、
さすがコーエン兄弟です。
 
ルーウィンを演じているオスカー・アイザックは、
ジュリアード音楽大学の出身で
映画の中でも自らギターを弾き、歌声を披露。
また、友人のフォークシンガー役の
ジャスティン・ティンバーレイクや
キャリー・マリガンも素晴らしい歌声を聞かせてくれます。
 
この映画を企画した時に、コーエン兄弟は、
「歌も演技もうまい俳優」を探してオーディションで
たくさんの俳優にあったそうです。どちらかがうまくても、
両方うまいとなるとなかなかいませんでした。そんな中で
やっと発見した才能がオスカー・アイザックだったそうです。
オスカー・アイザックには、この作品の主演をきっかけに、
出演依頼が殺到しているそうで、現在撮影中、来年公開の
「スターウォーズエピソード7」にも重要な役で
出演しているそうですよ。
 
この作品は、夢を追い続けて、
夢破れた多くの人たちへのリスペクトに満ちた作品です。
コーエン兄弟も、実は、監督デビュー前にホラー映画
「死霊のはらわた」の編集をやっていた時期があります。
編集のアシスタントをしながら、いつかは監督デビューするんだと、
オリジナルの脚本を書きためていたそうです。
「死霊のはらわた」のサム・ライミ監督は、いまでは
「スパイダーマン」シリーズを手掛け、
ハリウッド屈指のヒットメーカーになりました。
一方、コーエン兄弟も、味わい深い傑作を生み出す
映画作家として、世界の映画祭で認められる
大物クリエーターとなりました。
彼らは、ある意味、夢をかなえた人たち。
きっと彼らの周囲には、才能はあったのに、
夢を叶えられなった友人も多かったことでしょう。
この映画は、そんな友人たちに捧げられた
作品のような気がします。
 
フォーク・ミュージックや音楽の歴史に詳しくなくても、
夢を追いかけるあなたなら、かなり楽しめる作品のはずです。
サントラ盤もおすすめですよ!
 
今日ご紹介した映画
「インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌」は、
■Denkikan
で、今週土曜日・7月12日から公開されます。
 
「インサイド・ルーウィン・デイヴィス名もなき男の歌」
オフィシャルサイト
 
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