「her/世界でひとつの彼女」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、
現在公開中の「her/世界でひとつの彼女」です。
この映画は、「マルコヴィッチの穴」や
「かいじゅうたちのいるところ」などの作品で
知られる鬼才スパイク・ジョーンズ監督の、
4年ぶりとなる最新作。
スパイク・ジョーンズが監督と脚本を手がけ、
「第86回アカデミー賞」では、脚本賞を受賞した作品です。
数多くのミュージック・ビデオを監督し、
独自の世界観で映像を作り上げるスパイク・ジョーンズ監督。
2001年のファットボーイ・スリムのミュージック・ビデオ
「ウエポン・オブ・チョイス」では、
MTVミュージック・ビデオ・アワードを受賞しています。
クリストファー・ウォーケンが躍りまくる
ご機嫌なミュージック・ビデオです。
映画監督としても、毎回斬新な切り口の作品で
世界を驚かせている監督です。
その独創的な世界観で映画ファンを魅了している彼が
今回選んだテーマは、「人間と人工知能との恋」。
舞台は、近未来のロサンゼルス。
他人の代わりに思いを伝える手紙を書く代筆ライターの
セオドアは、妻と離婚し、傷心の日々を送っていました。
ある日彼は、コンピュータの最新式OS
「OS-1」を手に入れます。
使用者と話をすることで学習していく最新型のOSは、
自分のことを「サマンサ」と名乗ります。
「サマンサ」は個性も意識もあって、
魅力的な女性の声をしていました。
明るくセクシーなサマンサの声に惹かれたセオドアは、
彼女と過ごす時間に幸せを感じるようになります。
そしてついに、“恋人”としてサマンサと向き合うことを
決意するのですが・・・。
人間とコンピュータとの恋愛というと、
奇想天外な感じがしますが、
男性と女性が出会って、会話をしながら
関係を深めていくのは普通の恋愛と同じ。
しかもこのサマンサ、話しているうちにだんだん
人間らしくなってきて、コンピュータなのに
やきもちを焼いたりするんです。
サマンサを演じているのは、
人気女優のスカーレット・ヨハンソン。
彼女の声が本当に魅力的で、
声だけしか出演していないのに存在感があります。
声の出演だけで「ローマ映画祭」では主演女優賞を
獲得しています。主人公のセオドアには、
「ザ・マスター」のホアキン・フェニックス。
彼の同僚を、演技派女優のエイミー・アダムスが演じています。
近未来を舞台にしてはいますが、人が恋に落ちるまでの
微妙な心の動きを見事に描いてあって、
一流の恋愛映画と言っていいと思います。
実は、この作品の成立には、ちょっとした裏話がありまして、
主人公セオドアと「サマンサ」の関係には、
スパイク・ジョーンズ監督の
スパイク・ジョーンズ監督の
個人的思い出がかなり反映されているようです。
スパイク・ジョーンズ監督は、1999年から2003年まで
同じく映画監督のソフィア・コッポラ監督と結婚していました。
あの「ゴッドファーザー」のフランシス・フォード・コッポラ監督の娘です。
その結婚していた頃の思い出を、ソフィア監督は
「ロスト・イン・トランスレーション」という映画にして発表しています。
忙しい夫との擦れ違いで、日本で孤独に過ごす
アメリカ人女性の物語だったのですが、
その主演女優がなんとスカーレット・ヨハンソンなんです。
今回「her」では、同じ女優さんをあえて
キャスティングしていると思われます。
映画のテーマも、孤独と恋愛ですから、「her」は、
ソフィアから送られたメッセージにスパイク監督が
自分なりの表現で答えたものと言えそうです。
この映画を観た人は、是非「ロスト・イン・トランスレーション」も
比較して観てみると面白いと思います。
センスの塊のような監督として有名なスパイク・ジョーンズ監督。
この「her」の中にも数多くの心憎い演出が隠されています。
例えば、登場人物の服装。現代のファッションと大幅には
違っていなんですが、パンツがハイウエストだったり、
襟がちょっと小さかったり・・・・とちょっとした違いで
「近未来」を表現しているんですね。
群衆シーンもいくつか登場しますが、
ジーパンやキャップをかぶった人物を一人も
登場させないように演出しているそうです。
一見してすぐに分かる演出ではありませんが、
どことなく現代とは違った感覚の風景に見える・・・・・
そんな細部にまでこだわった演出がいくつも登場してきます。
もしかしたら、近い将来本当にこんなことが起こるかも・・・と
思ってしまう作品。
上質な恋愛映画としても、SF映画としてもおすすめですよ。
今日ご紹介した映画「her/世界でひとつの彼女」は、
■Denkikan
で、現在公開中です。
「her/世界でひとつの彼女」オフィシャルサイト