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「熊大ラジオ公開授業 知的冒険の旅」 増山晃太先生

あらゆるジャンルの“注目の人”にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。
11月から3ヵ月間、「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ
熊大ラジオ公開授業 知的冒険の旅」と題してお送りしています。
7回目のゲストは、熊本大学工学部付属革新ものづくり教育センター
特定事業研究員の増山晃太先生です。
先生の専門である「景観デザイン」とはどんな研究なのか詳しく伺いました。

141215.JPG
 
Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。
 
名前:増山晃太(ますやまこうた)
所属:熊本大学工学部附属革新ものづくり教育センター・特定事業研究員
プロフィール
1982年1月23日広島県生まれ
2011年熊本大学大学院自然科学研究科博士課程修了
2011年より現職
 
Q②増山先生の専門である「景観デザイン」とは、
どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。
 
もともとは景観デザイン、または土木デザインが専門です。
道路、河川、橋梁、港湾、ダムなど土木構造物単体の形の美しさを
どのように作っていくのかが研究の対象になります。
一方で、土木構造物というのは、土地に根差しており、
もっと言えば地球の上にくっついているので、
それらをとりまく環境や周辺のまちも含めて、
連続する周辺との関係としてどのような姿が美しいのかを
追究しています。もちろん、その関係性のなかには
住民の生活や利用する人々などもいますので、
いわゆる人間関係のなかで試行錯誤をしながら
「景観デザイン」を考えることが研究のテーマといってもいいですね。
最初に「もともとは」と言いましたのは、
現在は熊本大学のものづくり教育センターに所属しています。
ここでは、工学部の学科を超えた「ものづくり」というテーマのもとに、
各学科の強みを活かした新しいものづくり教育のあり方を模索しています。
「ものづくり」に対する考え方ひとつをとっても、機械、建築、
マテリアルなど学科ごとに異なることが非常に面白く、
土木の中だけではわからないことを学べています。
景観デザインでも、まったく違う分野の人々と共に考えることは
大事なことなので、当センターで学んでいることは
今後に活かしていけると思っています。
 
Q③増山先生がこの研究に取り組むことになった
「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。
 
生まれ育った環境が大きく影響していると思います。
私の生まれた広島では6本の川がまちなかを流れ、
日々の生活の中で川との関係が深い都市だと思います。
通勤や通学のときには川沿いを自転車で通り、
日ごろの散歩道にもなっています。ふと周りに目をやると、
川を渡る橋、橋の上を行き交う人々や路面電車、
またその先に見える山並みや瀬戸内海の風景がとても好きで、
何かそれらを作っていく仕事に関わりたいと思ったことがきっかけでした。
土木というのは硬くいうと、社会基盤を作ることといえますが、
人々が暮らす風景を創造することこそ醍醐味なのだと思います。
大学からやってきた熊本は、まちのスケール感、
路面電車を日常的に使っていることなど広島とも似ているところがあり、
とても住みやすい好きなまちです。
熊本というまちから景観デザインについても多くのことを学んでおり、
これからは少しでもお返しができるといいなと思っています。
 
Q④「景観デザイン」について、具体的な例をあげて説明をお願いします。
 
熊本県内の事例では、白川の明午橋から大甲橋までの
「緑の区間」の整備をあげたいと思います。
 
緑の区間.jpg
 
景観デザインとは、形の美しさとともに、関係性のデザインだと言いましたが、
「緑の区間」でもたくさんの関係性について考えています。
ひとつは「時間(歴史)」です。熊本の都市の骨格形成には
加藤清正を外しては語れませんが、暴れ川としても有名な白川が
「緑の区間」からまっすぐに流れているのは清正の治水事業の一環です。
そのおかげで、大甲橋から上流に目を向けたときに
両岸の緑の先に龍田山を眺める風景がつくられました。
いまでは熊本市民の心象風景を代表する一つだと思います。
「緑の区間」では、両岸の既存樹木をとくに大切にし、
護岸には熊本の個性のひとつである石積みを用いて、
これまでの時間の重なりとつながっていくように考えました。
一方で、時間は未来にもつながっていくので、
これからの熊本を見据えた「空間」の関係性も大切です。
「緑の区間」の整備は治水対策が基本ですので、
非日常の緊急的な状況をいかに日常の風景で感じられるか、
という点を空間の構成では考えました。
東日本大震災が起こった時に、堤防に守られているという安心感から
逃げ遅れにつながったという話も聞きました。
未曾有の災害が起こりうる現代ですから、
完璧な治水対策はあり得ません。川と日々の生活を切り離すのではなく、
日常的に川とふれあうことで、雨が降った時のちょっとした水量の
変化に敏感であったり、環境学習などを通じて防災のことも
学んだりすることが大事なのだと思います。
川に行きやすく、ふれやすい空間づくりはそのきっかけになると考えています。
このように、「時間」や「空間」、
そして「人間」のかかわり方を考えることが「景観デザイン」なのだと思います。
 
Q⑤研究以外での趣味などありますか? 
 
研究者はある意味で、趣味を生業としている側面もあるので、
趣味は「景観デザイン」です。と書くと怒られますかね。。
スポーツ観戦は好きなので、
熊本ももっとスポーツが盛り上がるといいなと思っています。
とくにプロスポーツのロアッソ熊本が強くなって、J1を制して日本一になる、
ということは夢見ています。市民、県民が団結してチームをサポートし、
勝てば飲み屋でドンチャン騒ぎ、負ければ飲み屋でヤケ酒、
苦労をともにした先の喜びはできるだけ多くのサポーターで
分かち合いたいものです。そんな私はサンフレッチェ広島を
応援しているのですが(ロアッソの小野監督は元広島の監督で、
J2降格後に一年でJ1復帰を成し遂げた偉大な監督ですし、
ロアッソももちろん応援しております!)、
Jリーグ発足時の10チームの中で、20年間タイトルを取ったことのない
唯一のチームでした。J2降格も二度経験し、
辛い時代もありましたが、2012年11月24日のホームスタジアムで、
初優勝の瞬間に立ち会えた感動はいまでも忘れられません。
老若男女がひとつの話題で語り合えることは、そう多くはないと思います。
地方都市であるが故の不利な面もありますが、
団結する力は大都市には負けていません。
何かそんなこともまちづくりの一環ではないかなと思考を巡らせながら、
いつの日かロアッソのJ1初優勝の瞬間に
立ち会えると幸せだなと思っています。
それもこれも「景観デザイン」には大事な要素なのです。きっと。
 
Q⑥これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。
 
熊本駅の周辺整備に関わっていた時に、
坪井川沿いの水辺広場の設計をすることがありました。
できるだけ人々を水際へ近寄れるようにすると、2
mを超える段差を解消しないといけません。
一般的には階段をつけて、その脇にスロープを付けます。
このときの整備では、身障者の方に使いやすさの確認をしてもらっており、
水辺広場でも車いす利用者からお話を聞く機会がありました。
スロープの説明をすると、
「スロープを付けてもらうことはありがたいことだけど、
私たちもみなさんと同じように下りたいのよね」と言われたのです。
最近では、身障者用のスロープは多く付けられるようになりましたが、
下りた先が目的地より遠い場所であったり、
取ってつけたような作りであったりしています。
このお話を伺ったのは、ある一人の車いす利用者でしたが、
自分とは違う立場から物事を考える意味を強く考えさせられる瞬間でした。
このようなご意見もあり、水辺広場ではスロープを主要動線と考え、
階段はショートカットとして考え直しました。
結果的には、スロープをゆったりと下りる風景のほうが
坪井川上下流への視線の変化があり、
桜並木の横を通る楽しい動線となりました。
この場所のデザインとしても、そちらのほうが正しかったのだと思っています。
デザインというのは、答えのない問題を解くような側面もありますが、
いろいろな人と議論し、そこで出た意見を上手に整理することで、
大きな方向性は共有できるのだと思います。
常に粘り強く考えていくことが大事なのだと、
あらためて思わされたエピソードでした。
 
Q⑦今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。
 
熊本県内でもいくつかの整備に関わっていますが、
三角東港の広場整備が現在進行中です。
ここでは広場整備だけではなく、整備後の利活用のあり方に
ついて住民の方々と議論を始めています。
公共整備は行政がやってくれるものという考え方は、
人口減少が続くこれからの時代では成り立たなくなっていくと思います。
住んでいる私たちが何をしたいのか、まちをどうしていきたいのか、
そのようなヴィジョンを自分たちで作らないといけません。
現在は、整備の途中で議論も始まったばかりですが、
公共整備の新しい試みとして育っていくように、
私も頑張っていきたいと思います。
 
●熊本駅WS
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●三角WS
三角WS.jpg
 
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