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熊大ラジオ公開授業「知的冒険の旅」 苫野一徳先生

あらゆるジャンルの“注目の人”にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。
11月から3ヵ月間、「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ
熊大ラジオ公開授業 知的冒険の旅」と題してお送りしています。
12回目のゲストは、熊本大学 教育学部 講師の苫野一徳先生です。
先生の専門である「教育哲学」とはどんな研究なのか、詳しく伺います。
 
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Q①お名前と職業・所属を教えて下さい。
 
名前:苫野一徳(とまの・いっとく)
所属:熊本大学教育学部講師
 
プロフィール
1980年兵庫県生れ。哲学者・教育学者。
早稲田大学大学院教育学研究科博士課程修了。
博士(教育学)。著書に、『どのような教育が「よい」教育か』
(講談社選書メチエ)、
『勉強するのは何のため?—僕らの「答え」のつくり方』(日本評論社)、
『教育の力』(講談社現代新書)、
『「自由」はいかに可能か—社会構想のための哲学』(NHKブックス)など。
 
Q②苫野先生の専門である「教育哲学」とは、どんな研究ですか、
わかりやすく教えてください。
 
そもそも教育とは何か、そしてそれはどうあれば「よい」と言いうるか、
底の底から徹底的に明らかにする学問です。
 
Q③苫野先生がこの研究に取り組むことになった
「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。
 
子どものころから学校というところになじめず、
そもそも何で学校なんか行かなきゃいけないんだろう、
何で勉強なんかしなきゃいけないんだろうと、
思い悩み続けていたのが大きなきっかけです。
一方で、とりわけこの数十年、日本をはじめ世界の教育は、
その根本や目的を見失い、大きく混乱してきました。
そもそも教育とは何か、そしてそれはどうあれば「よい」と言いうるか。
この問いにできるだけみんなが納得できる指針がなければ、
学校も親も教育行政も、いったいどうやって教育を構想・実践していけば
いいか分からず、時にひどい対立や混乱を生み出してしまうことになります。
 
ところがいざ研究を始めてみると、教育学も教育哲学も、
今やこの根本的な問いに、正面から立ち向かうのを
やめてしまっていることに気がつきました。
だからますます、この問いを探究し、現実の教育に資する
教育哲学を再生させたい、そう思ってこの研究に取り組むようになりました。
 
Q④いま、教育について悩んでいる学生や
親がたくさんいます。苫野先生は、
そういう人たちにどんなアドバイスをしますか?
 
教育の悩みと言っても多種多様なのでお答えしづらいですが、
ひとまず、教育は何のためにあるかをひと言で平たく言いますと、
私たちが「自由」に生きるための力を獲得するためなんですね。
つまり「生きたいように生きられる」ようになるため。
ただ、みんなが「俺は自由だ、自由だ」と素朴に主張し合ったら
争いになりますから、私たちは自分の自由のためにも、
他者の自由もまた承認しなければならない。
これを「自由の相互承認」と言います。
 
自分が、そしてみんなが自由に生きられるようになるためには、
だれもがこの「自由の相互承認」をできるようになる必要があります。
教育は、哲学的に言うと、この「自由の相互承認」の“感度”を
育むことを土台に、すべての人が自由に生きられる力を育むためにあるのです。
教育について考える時、私は、つねにこの原理原則に
立ち返ろうと言っています。たとえば、今受けている教育について、
「これははたして自分を自由にしてくれる学びなんだろうか」と考える。
親は、「自分の子育ては、この子が生きたいように生きられる力を
育むようなものになっているだろうか」と考える。
この原理原則を見失うことがなければ、私たちはいつでも、
「自由」とその相互承認のために、今自分には何ができるかと考えることが
できるようになると思います。迂遠な話に聞こえるかもしれませんが、
教育についての悩みが深ければ深いほど、
こうした「根本」から考えることはとても大切だと思います。
 
Q⑤研究以外での趣味などありますか?
 
ギターとウクレレ演奏が趣味です。
あと、哲学者というのは、オーバーに言うと24時間365日
ものを考えているめんどくさい人間なので、実は頭が疲れて
疲れて仕方ないんです。で、どうすれば頭を休ませられるんだろうと
考えて、また頭が疲れたりします。
それで最近気づいたのが、サウナです。高温のサウナに入ると、
物理的に思考が止まるんです。そんなわけで、
この何年かずっとサウナ中毒です。
 
Q⑥これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。
 
そもそも教育とは何か、そしてそれは、どうあれば「よい」と言いうるか。
この問いに哲学的に「答え」を解明する論文を2008年に発表したところ、
ある自治体の教育委員会に注目いただき、
その教育構想の見直しや指針原理として取り入れられるようになりました。
その後、この論文をさらに展開した本を何冊か出すと、
さらに多くの学校現場や先生方、行政などに、
教育構想や実践の指針原理として取り入れていただくようになりました。
教育の「根本原理」がこれほどにも求められていたのだということ、
また、現実の教育に資する教育哲学を展開するという願いが、
少しは叶いつつあるのかもしれないと嬉しく思いました。
 
Q⑦今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください
 
今、これからの社会・世界を構想するための哲学を探究しています。
2014年に、その第一歩として
『「自由」はいかに可能かー社会構想のための哲学』(NHKブックス)
という本を出しましたが、今後はこれをより深めた、
世界・社会構想のための哲学体系を作り上げていきたいと夢想しています。
また、哲学はとても難解なものというイメージがありますが、
実は人生のあらゆるシーンでとても役に立つものです。
そんな哲学の知恵を、もっともっと一般の人たちに
アクセス可能なものにしていくのも自分の一つの仕事と考えています。
ブログには、哲学書350冊くらいの紹介・解説を掲載しています。
また、これまで何冊かの入門書も書いてきましたが、
2015年には、もっと多くの方に親しみを持っていただけるような、
中高生向けの「恋愛の哲学」や「自由の哲学」の本なども
出していく予定です。
 
Q 「恋愛の哲学」はとても面白そうですね。
少しだけでも内容を教えてもらえませんか?
 
恋っていったい何なのか、どうすればステキな恋を味わえるのか、
という問いに答える本です。
ほんの少しだけ言うと、恋の正体は「自己ロマンの投影」です。
どういう意味かは、ぜひ刊行後にお読みいただければ(笑)
で、この恋愛の正体が分かれば、「なぜ恋は狂気なのか」
「恋と愛は何が違うのか」「恋と性欲は何が違うのか」
「どうすれば恋に落ちることができるのか」
「どうすればよりよい恋愛関係を楽しめるのか」といったことも
分かるようになるんです。
 
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本日オンエアのこのコーナーをポッドキャストでも配信中。
 
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