熊本県臓器移植コーディネーター 西村真理子さん
あらゆるジャンルの“注目の人”にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。
今日は熊本赤十字病院 医療社会事業部 社会課 社会課長で、
Q①ご出演の方のお名前と職業・所属を教えて下さい。
名前:西村真理子
(ふりがな)にしむら・まりこ
所属:熊本赤十字病院医療社会事業部社会課社会課長
プロフィール:
昭和56年3月熊本県立熊本高等学校卒業
4月熊本大学薬学部入学
昭和60年3月熊本大学薬学部卒業
4月熊本大学大学院薬学研究科入学
昭和62年3月熊本大学大学院薬学研究科博士課程前期修了
4月熊本赤十字病院薬剤部入社
平成10年4月熊本県臓器移植コーディネーター就任
熊本赤十字病院社会課に異動
現在は社会課長、(公益財団法人)熊本県移植医療推進財団事務局も兼務しています。
【所属学会等】
日本移植コーディネーター協議会理事
日本組織移植学会評議員
日本移植学会
日本臨床腎移植学会
日本臓器保存生物医学会評議員
ヘルスカウンセリング学会
ABO不適合移植研究会
サイコネフロロジー研究会
Q②「臓器移植コーディネート」とは、どんな仕事ですか?
臓器の移植に関する法律に基づき、国民の皆様の移植に関する4つの権利(提供する権利、提供しない権利、移植を受ける権利、移植を受けない権利)を尊重し、守るように活動するのが、
移植コーディネーターです。
ドナー(提供者)とレシピエント(受者)の間で、中立な立場を守り、不正を監視して、国民に移植医療を正しく理解してもらう活動も重要です。
Q③西村さんが、コーディネーターになったきっかけ・経緯は?
私は、薬剤師の国家資格を持っています。日赤病院には、昭和62年に、薬剤師として薬剤部に就職しました。ちょうど当院で、腎臓移植を開始するタイミングであり担当になったので、移植についての勉強にのめりこみ、すっかりはまってしまいました。
平成9年に移植法が施行されるとき、各県にコーディネーターを設置する条件に、医療資格を持っていることがあり、移植の事情にも精通していたので、上司の勧もあり決断しました。
Q④日本での「臓器移植」の状況、また海外との違いは?
日本の移植医療の現状は、一言でいうと移植を待っている人のほうが、提供者より大幅に多く、かなりのドナー不足といえます。また、海外では、一般的に脳死は人の死と受け止められていますが、日本では臓器を提供される方にとっては、脳死を人の死とすると臓器移植法に明記されています。
その判定法についても海外では、主治医が医師の裁量権として脳死であると、救命不能であることを診断すれば、死亡となります。
その時点で家族に臓器の提供も含めて説明し、可能な症例については、しかるべき機関に通知をすることが求められている国もあります。
日本では、脳死判定は、法律に定められた手順に則って行われ、厳密に判定されますし、脳死下臓器提供症例のすべてを検証委員会で確認しているのが現状です。
かなり、厳しい条件が設定されているので、間違いが起こらないという反面、数は増えにくいと言えます。やはり、脳死は人の死であり、主治医の診断で判定できる
ほどに、一般的なこととして国民が受け入れられるようになれば、日本でも増加していくかもしれません。
Q⑤臓器移植といってもいろいろありますが、どういう状況で移植が行われるのか?
「脳死」とか「心停止」などの言葉をよく耳にしますが…。
また、どのような臓器移植が可能なのでしょうか?
脳死後:心臓、肺、肝臓、腎臓、膵臓、小腸、眼球
心停止後:腎臓、膵臓、眼球
以上がなくなった後に提供できる臓器です。
また、生体間移植が日本では、多数行われていますが、本来は救命のために緊急避難的に始められたのに、現在では、主流になっています。
健康なご家族から、肺、肝臓、腎臓、小腸を摘出し、移植するのが生体間移植です。
ドナーが不足している現在では、仕方のないことかもしれませんが、提供することによりドナーが死亡するなどの事故が発生しており、問題になっています。
Q⑤どのような段取りで、「移植」が行われるのですか?
また、移植コーディネーターの果たす役割は?
ほとんどの場合は、突然の事故や発作などで脳に障害が発生し、すべての脳の機能が停止してしまった状態を脳死状態といいます。呼吸しろという脳からの指令もなくなるので、このまま何もしなければじきに、心臓も止まります。
人工呼吸器をつけると脳死状態が保たれますが、成人で大体2週間くらいで心停止を迎えますので、この間に臓器の提供を家族が考え、承諾されると提供に向けた動きが始まります。
もう助からないという診断の際に医師から、提供についての情報提供がなされたり、家族からの申し出があって、説明を聞きたいということになって、はじめて移植コーディネーターが呼ばれるという流れになります。
そして、中立な立場で説明をして、家族の総意により承諾をいただき、法的脳死判定により、脳死であることが決定し、そこから、移植を受ける患者さんを検索していきます。
全国から、各臓器の移植医師グループが提供病院に集合して、確認後摘出が行われますが、心臓は、移植が終了するまでの時間が4時間以内と決められているので、熊本空港まで医療用のヘリコプターで搬送します。そこでチャーターした小型のジェット機に乗せかえて、待っている患者さんのもとへ急いで運ぶのです。
そのほかは、時間に余裕があるので、摘出したドクターたちが、大事に抱えて待っている患者さんのもとに運んで行かれます。
移植コーディネーターは、これらのすべてのプロセスが、間違いなくうまくいくように段取りをしたり、実際に動いたり、支えていきながら、ドナーやドナー家族の心情に配慮して、事を運びます。
当然一人では無理なので、実際の提供の場面では、日本臓器移植ネットワークから、4,5人のコーディネーターが派遣され、ことが進みます。
これまで300件以上の提供が行われてきましたが、日本ほど丁寧にきちんと行われている国はありません。システムがうまく機能している証拠だと思います。
Q⑥仕事上のハプニング・トラブル・エピソード等、印象に残っていることは?
初期のころ、脳死下の臓器提供を希望されていた方の尊いお気持ちが、カードの記入不備でかなわなかった症例を経験しました。
法律改正により、本人の気持ちが不明でも家族の承諾で臓器提供が可能になりましが、家族が悩まれるので、ぜひ、意思表示をして家族にもそれを伝えておいて頂きたいです。
Q⑦移植コーディネーターのやりがいは?
移植コーディネーターは、むやみに臓器の提供を増やすことが仕事ではありません。
臓器移植法により明記されている国民の臓器を提供する権利、しない権利をきちんと尊重するために、中立の立場で働くことが求められています。そのためにあらゆることをしますが、臨機応変に日本臓器移植ネットワークとの連携を保ちながら活動し、みんなのチームワークで、患者さんやご家族の希望をかなえられ、移植手術もうまくいったときは、何物にも代えがたい喜びを感じます。
Q⑧意思表示する際の注意点は?
現在は、意思表示の方法としていろんなやり方があるので、ぜひ、やりやすい方法で意思表示をしてください。
健康保険証や運転免許証の裏面の表示欄、意思表示カードが身近なものです。
また、インターネットで登録する方法もありますので、検索してみてください。
記入法をよく読んで指示通りに書いてください。日付は誕生日ではなく署名の日です。
Q⑨提供する側、される側の家族としての心得は?
提供したくてもできない場合もあります。したくないのに家族の承諾で提供されることも、法律改正により可能性として出てきます。やはり、日頃からの家族との意思疎通を心掛けておいてください。提供したくない人ほど意思表示をきちんとしよう!
提供される側=移植を受ける側はいつ何時呼ばれてもすぐ返事ができるように、
連絡体制を整えておいてください。そしてせっかくの機会ですから、風邪で受けられないとかいうことがないように日々の体調管理をしっかりしてください。
また、移植後の自己管理が長期正着のカギですから、生活習慣を整えることも、大事だと思います。
Q⑩皆さんにメッセージを
移植医療にかかわって薬剤師時代も含めると28年くらいになります。
医療従事者としては、健康で明るい日々を皆さんが送ってくださることが望みです。
移植医療は、機能不全の臓器を健康な臓器と置き換えることで生命維持やQOLの
回復を目指します。移植を待っているすべての患者さんが移植を受けられるようで
あればいいのですが、現在は圧倒的に提供が足りません。移植医療に関心を持って
いただきたい。提供するしないの意思表示をお願いします。
医療者としては、まずCKD対策等で生活習慣病の予防を進め、それによる腎不全、
臓器不全の患者を減らすことで、移植の必要な患者さんをこれ以上増やさないことが第1だと思います。
熊本市が力を入れているCKD対策会議のメンバーにも入れていただいていますが、腎臓が働かなくなって透析になる患者さんを少しでも減らす努力をしつつ、健康な方からしか臓器の提供はいただけないわけですから、県民の皆様が健康に過ごして結果として、いい人生だったから、何か感謝したいなと考えた場合に、臓器の提供も一つの選択肢として考えてみられてはいかがかなと思います。
やはり、正しい情報を手に入れて自分で、考えて決めることが大事です。
この機会に、免許証の裏、健康保険証の裏面を眺めて考えていただきたい!
Q⑪熊本県民にPRしたいこと、今後の活動予定、お知らせなどあれば教えてください。
現在、全国で300件を超える脳死下臓器提供が行われました。
熊本県でも体制が整い、県民の皆様の尊い提供意思をかなえる準備ができています。
今後ますます、普及啓発や体制の整備を進めて、皆様の移植に関する権利が尊重できる熊本県として活動していくつもりです。