「アメリカン・スナイパー」
「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、現在公開中の「アメリカン・スナイパー」です。
この作品、昨日発表されたアカデミー賞でも大注目された作品です。
一応、主要部門の結果をご紹介しておきますと・・・・・
▽助演女優賞は「6才のボクが、大人になるまで。」のパトリシア・アークエット
▽助演男優賞は、「セッション」のJ・K・シモンズ
▽主演女優賞は、「アリスのままで」のジュリアン・ムーア
▽主演男優賞は、「博士と彼女のセオリー」エディ・レッドメイン
▽監督賞は、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」のアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
▽作品賞も同じく「バードマン」でした。
今回のアカデミー賞、下馬評では、「6才のボクが、大人になるまで。」と今日ご紹介する「アメリカン・スナイパー」の一騎打ちと言われていたんですが、フタを開けてみると、「バードマン」が4部門、技術的な賞4部門を「グランド・ブダペスト・ホテル」が受賞という結果になりました。
「バードマン」の作品賞受賞にも驚いたんですが、逆に受賞確実と言われていた「バードマン」の主演マイケル・キートンが主演男優賞の受賞を逃すなど、数々のサプライズがあった授賞式でした。
今日、ご紹介する「アメリカン・スナイパー」は作品賞など6部門にノミネート。
受賞は「音響編集賞」のみだったのですが、
ナショナル・ボード・オブ・レビューなど数々の映画賞で高い評価を得ているほか、
全米での興行収入が3億ドルを超える大ヒットとなっていまして、これまでも大ヒットを連発しているクリント・イーストウッド監督作品でも最大のヒットとなっています。
舞台となるのは、2003年に始まったイラク戦争。
この戦争で160人もの敵兵を狙撃し、米軍史上最強のスナイパーと言われた
アメリカ海軍特殊部隊ネイビー・シールズの狙撃手、クリス・カイルの自伝を
名匠クリント・イーストウッド監督が映画化したものです。
クリス・カイルを演じたのは、「世界にひとつのプレイブック」「アメリカン・ハッスル」で
2度のオスカーにノミネートされた、ブラッドリー・クーパー。
今回の「アメリカン・スナイパー」でも体重を増やすなど徹底して役柄を作りこみ、
相当なマッチョな体型に肉体改造し、ハードな狙撃手の設定にリアリティを与えています。
役作りの甲斐あって、3度目のオスカーにノミネートされています。
(しかも3年連続となるからすごい!)
(しかも3年連続となるからすごい!)
また彼はこの原作にほれ込み、映画化権の獲得に奔走。
プロデューサーとしても名を連ねています。
アメリカの伝説的なスナイパーが主人公で、しかも本国アメリカで大ヒットしている
というと、主人公がヒーローとして大活躍する話のように思うかもしれませんが、
実は中身は全く違います。
クリスは、2003年から09年までの間に、4度イラクに行っているんですが、
戦場という極限の状況で過ごすうちに、精神がコントロールできなくなっていきます。
極限状況を体験した人間が陥ると言われるストレス症状・・・・・「ポスト・トラウマティック・ストレス・ディスオーダー」(心的外傷後ストレス障害)。いわゆる「PTSD」です。
この映画は、そんな、心を病んでいく兵士の姿を、ドキュメンタリーのようなタッチで淡々と、しかしリアルに描いていきます。
そもそも、イーストウッド監督は、「PTSD」の話を何度も映画化しています。「父親たちの星条旗」は第2次大戦の兵士の「PTSD」の話でした。「グラントリノ」の主人公も朝鮮戦争でのつらい思い出を抱えた人物でした。戦争映画ではありませんが、アカデミー賞を受賞した「許されざる者」も、人殺しをした苦悩を抱えたガンマンの主人公でした。これらの作品のラインナップを見ていると、今回の作品が、決して戦争賛美の映画でないことは、あきらかです。
特に今回の「アメリカン・スナイパー」は、戦争の壮絶な描写と、帰国してからの家族と過ごす時間の落差が見事に描かれているので、「PTSD」がどんなものなのか、兵士たちは、何を体験し、心にどんな傷を負って帰国したのかが、観客にリアルに感じられるように作られています。
イーストウッド監督らしい研ぎ澄ました演出が随所に見られるんですが、特に音の演出が素晴らしいので、是非、映画館で観てもらいたい作品です。1キロ以上の遠距離から狙撃されるとどんな音がするのか?空気を切り裂くライフルの音の怖さは、映画館でなければ体験できない立体感です。そのあたりがアカデミー賞でも評価されての「音響編集賞」の受賞だと思います。
またこの映画、エンドロールに音が入れられていない、無音であることも
話題になっています。
アメリカでは、愛国的だとか、そうではないとか、この映画を巡って
様々な論争が起こっているそうですが、イーストウッド監督本人は、
一貫してイラク戦争には反対とのこと。
みなさんは、映画からどんなメッセージを受け取るでしょうか。
ぜひご覧になってみてください。
今日ご紹介した「アメリカン・スナイパー」は、
■TOHOシネマズ 光の森
■TOHOシネマズ はません
■TOHOシネマズ 宇城
■シネプレックス熊本
■イオンシネマ熊本
で、現在公開中です。
「アメリカン・スナイパー」 オフィシャルサイト