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「ソロモンの偽証 前篇・事件」

「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、今週土曜日・3月7日から公開される
「ソロモンの偽証 前篇・事件」です。
 
この映画は、「火車」、「模倣犯」、「名もなき毒」など、
数々の作品で知られるベストセラー作家・宮部みゆきの小説の映画化です。
原作は、15年の構想と9年もの執筆期間をかけ、
3冊にわたって刊行された、かなりボリュームのあるもの。
傑作の多い宮部みゆき作品の中でもベストワンに押す人も多い傑作サスペンス小説。
現在、文庫版も発売中ですが、6冊にわたるかなりの分量の内容です。
それだけに映画のほうも1本では収まりきれず、前篇・後篇の2本に分けて公開されます。
 
物語の舞台は、1990年のクリスマス。
中学校の男子生徒が校庭で転落死し、遺体となって発見されます。
警察は自殺と断定しますが、事件の目撃者と名乗る「謎の人物」から
「あの事件は殺人だ」と告発する手紙が届きます。
そこに書かれていた犯人は、有名な不良少年の名前。
自殺か、殺人事件か。マスコミの報道が過熱し、校内が混乱に陥る中、
主人公の藤野涼子は、自分たちの手で真実を確かめようと
中学生たちによる校内裁判を行うことを決意します。
 
中学校内での生徒を死をめぐる事件、となると、
2010年に公開され話題となった中島哲也監督の映画「告白」を連想するかもしれませんが、
それとは全然内容も雰囲気も違っています。
「告白」は“ショック”が大きなテーマでした。凝った映像で中学生の心の空虚さを浮かび上がらせ、観客の心をえぐるような映画だったように思います。
一方、この「ソロモンの偽証」は、もっともっと生徒たちの繊細な心情の変化にフォーカスを当てたものです。
宮部みゆきの小説に描かれる繊細な心理。中学生キャストの見事な演技は、中学生たちの揺れ動く心情を、観客にリアルに伝えてくれます。
彼らが懸命に真実を求めようとする姿に心を揺さぶられ、
それが明らかになる後篇への期待が一層高まるという演出です。
 
監督は、「八日目の蝉」で日本アカデミー賞最優秀作品賞をはじめ数々の映画賞に輝いた成島出監督です。昨年は、吉永小百合主演の「ふしぎな岬の物語」も大ヒットさせ、いまノリにノッている監督さんです。
成島監督は、登場人物の心理を食べ物で表現するのが上手い監督です。「ふしぎな岬の物語」では小百合さんの煎れるコーヒーがとても美味しそうでした。
「ソロモンの偽証」でもいろんな食べ物が登場してきます。今回は、美味しそうな食べ物だけじゃなく、実に不味そうな食べ物も登場します。
出てくる食べ物が、そのシーンの登場人物の心理を象徴している場合も多いので、是非、このポイントを見逃さないで観てください。
 
今回、この作品の製作には、いまの日本の映画界ではかなり特殊な方法がとられています。
まず、映画を作る前に1万人規模のオーディションが実施されました。
面接や、ワークショップを経て、数か月の演技レッスンやカメラテストを行い、最終的に33人の中学生キャストが選ばれました。その期間、およそ一年間。ここまで大々的なオーディションで映画を作るのは最近の日本映画では異例中の異例のこと。
普通は、何人かすでに有名なキャストを決めてから、他の人をオーディションするという方法が一般的です。今回は、作品のイメージにぴったりあうキャストを選ぶために、オーディションのみで中学生キャストを決めています。
 
その結果は、大成功だったと思います。映画には、佐々木蔵之介、夏川結衣、永作博美、
小日向文世、黒木華、尾野真千子など芸達者な俳優が脇をかためていますが、中学生たちの演技はまったく彼らに引けをとりません。
特に、主役の女子中学生を演じる新人女優さんは、役名をそのまま芸名の「藤野涼子」としてこの映画でデビューしています。
これから彼女は日本を代表する女優さんになること間違いなしの見事な主演ぶりなんですが、オーディションの時は一番頼りない感じで、周囲が心配するほどだったとか。この存在感を見抜いた成島監督の眼力はかなり凄いと思います。
「凛」としたまなざしが実に素晴らしい藤野涼子さん、来年の今頃は、日本アカデミー賞主演女優賞の最年少受賞者になるかもしれませんよ。それぐらいの見事な演技です。
 
こういうリスクのある映画作りにチャレンジしたのは、昨年からこの番組が注目している映画会社「松竹」です。
このコーナーでも昨年、「白ゆき姫殺人事件」、「超高速!参勤交代」、「紙の月」などの松竹映画を紹介しました。
どの作品も、いまの日本映画ではなかなかチャレンジされない大人向きの映画です。
往年の日本映画を思わせる豊かな映画作りは、さすがに歴史のある映画会社という感じがします。長年、松竹映画というと、山田洋次監督がエースとして君臨していたんですが、いよいよ次世代の若い才能たちが台頭してきたという感じがします。
今後も松竹映画には注目ですねぇ・・・・・。
「あなたが映画好きなら、この春、この映画を絶対に見逃していけない!」と断言してしまいましょう!
 
今日ご紹介した「ソロモンの偽証 前篇・事件」は、
 
■シネプレックス熊本
■TOHOシネマズ はません
■TOHOシネマズ 光の森
■TOHOシネマズ 宇城
■イオンシネマ熊本
で、今週土曜日・3月7日から公開されます。
(「後篇・裁判」は、4月11日・土曜日から公開)
 
「ソロモンの偽証 前篇・事件」オフィシャルサイト
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本日オンエアのこのコーナーをポッドキャストでも配信中。
 
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