「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」
「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、現在公開中の
「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」です。
タイトルの、「ジヌ」というのは、東北地方の方言で、「銭」・お金のこと。
主人公はこのタイトル通り、“お金にさらば”して、
東北地方の「かむろば村」に移住してくる青年・高見武晴、通称タケです。
タケは、東京で銀行員をしていましたが、お金にまつわる様々なしがらみを
体験したことからすっかりお金に恐怖心を抱き、
金(かね)アレルギーになってしまいました。
そこで、彼は東京での暮らしを捨てて、「かむろば村」に移住し、
1円もお金を使わない、自給自足の暮らしを決意します。
原作は、大ヒット作「ぼのぼの」で知られる、
いがらしみきおのマンガ「かむろば村へ」。
主演は松田龍平・・・。
こう聞くと、ほのぼのとしたロハスな田舎暮らしを描いた話と
思うかもしれませんが、これが全く予想を裏切ってくれます。
というのも、監督は、劇団「大人計画」主宰の松尾スズキ。
映画にも、看板俳優の阿部サダヲをはじめ、荒川良々、
皆川猿時、村杉蝉之助といったお馴染みのメンバーが
顔を揃えているんですから、一筋縄でいくわけがありません。
以前は、演劇界でこそ超人気の存在だった「大人計画」のメンバーですが、
そこまでメジャーな存在ではありませんでした。
ところが、劇団員・宮藤官九郎が脚本を担当した朝ドラ「あまちゃん」に
「大人計画」のメンバーが多数出演し大ヒットしたことで、
「大人計画」の俳優たちが、かなりメジャーな存在になってきました。
この作品では、「あまちゃん」で共演した「大人計画」以外の俳優も
何人か登場しているので、より一層楽しい感じがグレードアップしています。
映画では、田舎、というある意味閉鎖された場所だからこそ起こる
ディープな人間関係を、テンション高く描いていきます。
特に後半は、思わぬ展開が続出し、
予想もしないストーリーが繰り広げられます。
このストーリーを盛り上げるのが、
松たか子、西田敏行、二階堂ふみ、片桐はいりなどの豪華キャスト!
まさに、“映画版 大人計画”といった雰囲気の作品です。
特に主役をつとめる松田龍平が素晴らしいです。
松田龍平って俳優は不思議な存在感を持った俳優だと思います。
どんな役をやっても、なんか居心地が悪い感じがします。
なにかトラウマを抱えて現実とうまく折り合いがつけられない・・・・
そんなキャラがハマる俳優です。同じ松田優作の子供である
松田翔太とはちょっと雰囲気が違う感じですね。
思えはデビュー作の「御法度」でも、新撰組の中の
「異分子」みたいな役でした。監督の大島渚はすでに松田龍平の
不思議な存在感を見抜いていたのかもしれませんね。
今回の「ジヌよさらば」では、お金アレルギーで
世の中とうまく折り合いがつけられない青年の役。
まさに松田龍平の不思議な存在感なしには成立しない役どころです。
キャステングした監督の松尾スズキとは、10年前に「恋の門」という作品で
コンビを組んでします。さらに「あまちゃん」で俳優として共演もして、
息がぴったりのコンビと言えます。
原作者のいがらしみきおは、連載を始める時に
「限定されたところでのファンタジー」を依頼され、
“お金を1円も使わない生活”を思いついたそうです。
増税や身近な食品の値上げ、株価など、
お金に振り回されることの多い僕たちの日常。
俳優たちの弾けた演技に大笑いしながら、
“お金”についてちょっと考えさせてくれる、そんな1本です。
コメディなんだけど、どこか一本筋が通っていて、
現代社会の問題点を鋭く描写しているという点では、
このコーナーでも紹介した映画「福福荘の福ちゃん」と
共通したものがあるかもしれません。
おかしな人物がたくさん登場しているんですが、
どこか人生の真実が描かれている作品です。
こういう喜劇映画がもっともっと作られるといいなぁと思います。
余談ですが、劇場で販売されているパンフレットが
とても出来がいいので、映画をご覧になった方は、
ついでに購入することをおススメします。
出演者のインタビューがたくさん載っていたり、
いがらしみきおの描き下ろし漫画が載っていたり、
映画製作の裏話もたくさん掲載されています。
もう一度映画が観たくなる完成度の高いパンフレットです。
今日ご紹介した「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」は、
■TOHOシネマズ はません
■Denkikan
で、現在公開中です。
「ジヌよさらば ~かむろば村へ~」オフィシャルサイト