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「龍三と七人の子分たち」

「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、
現在公開中の「龍三と七人の子分たち」です。
テレビの世界では「ビートたけし」、映画監督として活動する時は「北野武」。
二つの顔を使い分けながら、いまや日本を代表するクリエーターとして、
押しも押されもせぬ存在となった北野武監督。
その3年ぶりとなる最新作がこの作品です。
北野監督のデビューは、1989年の「その男凶暴につき」。
26年間でコンスタントに作品を発表して、この作品が長編17作目となります。
プロフェッショナルな映画監督でさえ、26年間で17本というのは、
かなり多い部類なんですが、北野監督の特殊なところは、
作品ごとにまったく違った題材を取り上げて、映画を作っている点です。
暴力映画の後におバカな映画を作ったり、時代劇を作ったり・・・・
次に何をするのかまったく読めないのが北野映画の一つの魅力になっています。
 
北野映画といえば、ベネチア国際映画祭でグランプリを受賞した「HANA-BI」などの静かでストイックなものや大ヒットした「アウトレイジ」、
「アウトレイジ:ビヨンド」といった切れ味の鋭い暴力をテーマにした映画をイメージする方が多いと思います。
しかし、メディアでもかなり紹介されていますが、
今回の作品のポイントはメインキャストが平均72歳の超ベテラン俳優たちであること!
そして、彼らが大活躍する、笑えるエンターテインメント活劇だということです。
製作スタッフはいつものメンバーの北野映画なんですが、
今回は、かなりコメディアン「ビートたけし」のテイストが濃厚に出た作品と言えそうです。
 
主人公の龍三は、かつては“鬼の龍三”と鳴らしながらも
今は同居する息子家族に煙たがられ、肩身の狭い思いをしている、元ヤクザの組長。
ある日、「オレオレ詐欺に引っかかった龍三は、
元暴走族の京浜連合と因縁めいた関係になります。
京浜連合は、高齢者をカモにしたオレオレ詐欺や訪問販売などで金儲けをする集団。
そのやり口が気に食わない龍三は、かつての仲間に声をかけ、
銃の早打ち、仕込み杖など、得意技をもつ7人の子分たちと共に、
もう一度やくざの組「一龍会」を結成!
果たして、今どきの詐欺集団と、時代遅れの元ヤクザたちの
全面戦争がはじまります!
 
龍三を演じるのは、北野作品は初参加となる藤竜也、
また、中尾彬、近藤正臣、といった顔ぶれが個性的な子分を演じます。
この8人のおじいちゃんたち、まるで漫才のような絶妙な掛け合いを
見せてくれるんですが、これには一切アドリブがなく、すべて台本通りとか。
これまでの北野映画は、現場での変更が多く、まるでジャズの演奏のようなアドリブ演出を重視した撮影が多いことで有名だったんですが、今回はしっかりと脚本を作った後に、台本の読み合わせをしてから撮影に臨むという王道の手法で撮影したそうです。
「笑いは微妙な掛け合いのテンポが大事」という北野監督のお笑いに関するこだわりから、リハーサルの段階から台詞の「間」を大事に、俳優たちに何度も練習させたそうです。
これまでもコメディ・タッチの北野映画は、「みーんなやってるか?」や「監督ばんざい!」のように何本かあったのですが、微妙に外した「クセのあるコメディ」でした。
今回の作品は、だれが観ても笑える王道のコメディ映画を狙っていて、北野監督の本業である「お笑い」へのこだわりがビンビン感じられる作品になっています。
また、北野監督は“演技も漫才と同じように一発勝負だ”という思いから、
テストをせず、ほとんど一発撮りで撮っているそうで、
画面からもライブ感あふれるエネルギーが伝わってきます。
特にクライマックスのバスのカーチェイスでは、実際に主要キャストを乗せたまま、バスが暴走するシーンを撮影したそうで、ハリウッド映画とはまったく違う「迫力ある笑える暴走シーン」になっています。
 
とにかく、ここ数年、劇場でこんなに笑いが起きた映画もなかったと思うくらい完成度の高い「喜劇映画」です。
 
この「キネマのススメ」のコーナーで、前に「喜劇映画が復活しそうな予感がある」とお伝えしましたね。「福福荘の福ちゃん」や「ジヌよさらば」のような大人のための「喜劇映画」が生まれてきていることを踏まえての発言でしたが、ここにきていよいよ真打登場という感じです。
まるで、よくできた古典落語のような味わいがあるコメディ作品だと思います。
バカなお話がどんどん展開してゆくんだけど、どこか人間の悲しみやわびしさなんかも描いた「日本の喜劇映画」です。
 
それを支えるのは、なんと言っても魅力的なキャスト。
これまでの北野映画は、あまりアップを撮らないで、俳優の表情も無表情なものが多かったのですが、この映画は、俳優の魅力的なアップの表情をたくさん使っていて、笑わせてくれます。
ネタバレになるので、詳しくは言えませんが、映画中盤で親分・龍三が、ある「コスプレ」をするシーンがあって、ここの藤竜也さんの表情が絶品です!!笑わせます!
 
ちなみに、タイトルの「龍三と七人の子分たち」の「七人」ですが、北野監督が敬愛する黒澤明監督の代表作「七人の侍」にオマージュをこめているとのこと。思い切り笑えてスカッとする、楽しい娯楽映画。
暴力描写が苦手で、これまで北野作品になかなか足が向かなかった女性たちや年配の映画ファンにもおススメですよ!
 
今日ご紹介した「龍三と七人の子分たち」は、
■TOHOシネマズ はません
■シネプレックス熊本
■イオンシネマ熊本
で、現在公開中です。
 
「龍三と七人の子分たち」オフィシャルサイト
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