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「パンク・シンドローム」

「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
 
今日ご紹介するのは、今週土曜日・5月23日から公開される
「パンク・シンドローム」です。
 
この映画は、フィンランドの
「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」という
パンク・バンドに密着したドキュメンタリー作品です。
 
パンク・ロックは、70年代にニューヨークやロンドンを
中心に誕生した音楽。
シンプルで強烈なサウンドと怒りを込めた歌詞で若者に
熱狂的に支持されました。「セックス・ピストルズ」や
「クラッシュ」などのバンドは世界的に大ヒットを飛ばしました。
時は流れて2000年代。アメリカでもイギリスでもない
北欧フィンランドでパンクをやる四人組バンドが
「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」です。
バンドメンバーは、ペルッティ、カリ、サミ、トミの4人。
下は32歳のトニから、上は57歳のペルッティと、
年齢差が大きいのもユニークですが、
最も特徴的なのは、メンバー4人すべてが知的障害者であることです。
 
バンドが結成されたのは、2009年。
あるNPOが主催したカルチャーワークショップで結成され、
活動をスタートします。知的障害があるといっても、彼らはプロ!
2010年には他のパンクバンドとのスプリットシングルという
複数のアーチストを収録したオムニバス盤の
シングルバージョンという形でレコードデビューを果たします。
これまでに7インチレコード5枚、カセット3本、
CD1枚、LPレコード1枚をリリース。
またドイツやノルウェー、イギリスでのツアーを成功させるなど、
ワールドワイドな活躍をしている有名バンドなんです!
 
「ペルッティ・クリカン・ニミパイヴァト」というバンド名は、
「ペルッティの名前の日」という意味。
キリスト教の習慣でファインランドでは、
おのおのの「名前の日」が存在します。
メンバーのペルッティの名前にちなんでのネーミングという訳です。
 
映画では、そんな彼らの練習の様子やライブ、曲作りをしているところ、
レコードデビュー、海外ツアーなど様々なバンド活動に密着。
さらにはメンバーの結婚や失恋など、
プライベートな部分にまで迫っています。
 
作詞・作曲も担当するペルッティは、とにかく服の縫い目が気になります。
他人の服の縫い目をついついチェックしてしまいます。
ボーカルのカリは、足の指の爪を切られるのが苦手。
バンドメンバーとの意志疎通がうまくいかないと
急に切れて大声を出したりします。
 
ベースのサミは、美人政治家のサポーターで、講演会に熱心に通っています。
最年少のトニは、家が大好きで、施設からの誘いを何度も断っています。
 
音楽をテーマにしたドキュメンタリー映画は、これまでにもたくさん
作られていますが、この映画が最も違うところは、
全くかっこつけていないところ。
おぜん立てされたインタビューシーンはほとんどなく、トークの部分は
彼らが自然と口にした言葉。また取っ組み合い寸前の本気のケンカや、
互いの悪口を言うシーンまで赤裸々に収め、
リアルなバンドの姿を映し出しています。
 
そしてもう1つビックリさせられるのが、彼らが歌う歌詞。
もともとパンクは、反体制的な思想が反映された音楽ですが、
その歌詞は笑っちゃうぐらい過激。しかし彼らの境遇を思うと、
これ以上ないほどのリアルさを持っていて、胸に響きます。
 
 
70年代を代表するパンク・バンド「クラッシュ」のフロントマン、
ジョー・ストラマーはこんな名言を残しています。
 
Punk is attitude. Not style.
「パンクはスタイルではない。生きる姿勢だ!」
 
この映画は、そんなパンクの魂を、時代を越え、
国境を越えて受け継いだ4人のバンドマンの物語です。
演奏やテクニックを越えた「なにか」を
スクリーンで感じることができます。
 
本国フィンランドはもちろん、日本でも山形国際ドキュメンタリー
映画祭などで上映され、絶賛された作品です。
パンクなんか興味ないという人も、この映画をみると、
きっとペルッティたちのファンになってしまうと思いますよ。
ドキュメンタリーという枠組みをこえた、
ハイパーな音楽映画と言えるかもしれません。
 
今日ご紹介した「パンク・シンドローム」は、
■Denkikan
で、今週土曜日・5月23日から1週間限定で公開されます。
 
「パンク・シンドローム」オフィシャルサイト
 
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