「アリエル王子と監視人」 稲葉雄介 監督
毎週、わたくし松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています
「キネマのススメ」。
今日ご紹介するのは、8月22日(土)Denkikanで公開となる
「アリエル王子と監視人」です。
全編が熊本でロケされた、日本とタイの合作映画という
とても新鮮なアプローチの作品です。
今日は、キャンペーンのため熊本にいらっしゃった
稲葉雄介監督をスタジオにお招きしました。
プロフィール:
1986年生まれ。神奈川県出身。東京造形大学卒。
在学中は映画監督の諏訪敦彦氏に師事。
初監督作『君とママとカウボーイ』(2010)は
シネマデジタルソウル国際映画祭など、国内外の映画祭で上映され、
アピチャッポン•ウィーラセタクン監督などから高い評価を受けている。
ドキュメンタリー映画『ちいさな、あかり』
(2013、大野隆介監督)では撮影・助監督を担当した。
俳優として、ロカルノ国際映画祭に出品された
「息を殺して」(2014、五十嵐耕平監督)などに出演している。
Q 映画「アリエル王子と監視人」についての基本情報を教えて下さい。
監督:稲葉雄介
出演:チャーノン・リクンスラガーン、伊澤恵美子、忍成修吾、
セリーナ・ウィスマン/石田えり/北本祟人、榎木智一、
大西礼芳/篠井英介
オフィシャルサイト
http://handintheglove.jp/
http://handintheglove.jp/
Q 映画「アリエル王子と監視人」について
簡単なストーリーを紹介してください。
この映画の主人公は
お忍びで休暇を過ごすため日本にやってきた王子です。
お忍びで休暇を過ごすため日本にやってきた王子です。
日々、王位継承者というプレッシャーと戦っている彼は、
この休暇にかこつけて『自由』を体験したいと思っています。
彼は街中で地元の一般女性リサと出会い、
彼女の案内のもと3日間の休暇を過ごすことになります。
しかしリサは王子とは逆に、
自由を持て余し日常に流されている女性でした。
Q 「アリエル王子と監視人」を熊本で全編ロケすることに
なったのは、なぜですか?
映画化の「きっかけ」のようなものがあればお願いします。
熊本で撮影させていただきたいと思ったきっかけは
いろいろとあるのですが、ひとつは景観です。
例えばチラシにも使っている通町筋。
普通日本の都市は駅を中心に形成されていますが、
熊本の場合お城が中心ですね。フォトジェニックですし、
王子が主人公の映画を作る上でも、
この配置はとても面白いと思いました。
あとは人です。ずっと熊本に住んでいらっしゃる方は
ピンとこないかもしれませんが、
熊本には文化的感度の高い方が多いと感じました。
街を歩いていても、オシャレな人をよく見かけます。
なるべくかっこいい人たちと映画を作りたいと思っていたのです。
それは映画の空気感に色濃く反映されます。
Q 映画「アリエル王子と監視人」には、
熊本のどんな場所が登場していますか?
その場所を選んだ理由などあればお願いします。
市の動植物園で撮影をさせていただきました。
特に好きなロケーションの一つです。景色が開けていて
のどかなムードなのが良いですね。それでいて動物園というのは、
動物たちが野生にいるときほど自由に動くことの出来ない場所です。
その不思議なギャップが魅力的だと感じました。
主人公のアリエル王子はいつも笑顔でいるのですが、
王位継承者という立場上、自由の許されない存在です。
そんな彼の在り方とのどかな動物園という場所とは
呼応しているように感じました。
あと、登場人物の感情が動くシーンでは、
市電の床が木製の車両を使わせていただきました。
人工物では描けない繊細さがシーンに加わったと思います。
Q 映画「アリエル王子と監視人」は、登場する俳優さんが
皆、魅力的です。主要なキャストについてご紹介ください。
主演のノンとはタイ・バンコクのオーディションで出会いました。
彼の笑顔はとてもチャーミングで上品で、あと言葉は悪いのですが、
軽薄に感じられました。なんだかよくわからないままに、
その軽薄さに惹き付けられて、"何か深刻なことを覆い隠す為に
笑顔で軽さを装っている人物"をイメージしました。
そしてそのイメージは、現代社会を生きている自分自身の気分と
やけにマッチしました。
恐らくそれがこの作品の初期衝動だったのではないかと思います。
もう一人の主演、伊澤恵美子さんとは今回の企画が始まる前から
知り合いで、とても真面目な方という印象をもっていました。
その極端なまでの実直さによって、
リサという人物はとても個性的に立ち上がったと感じています。
Q 映画「アリエル王子と監視人」の撮影は昨年行われたそうですが、
撮影時のエピソードなどあればお願いします。
今回はカメラ周りのクルー(撮影部)に全員タイ人を起用しました。
彼らの映画作りにかける想いを強く感じた出来事がありました。
下通りの人混みの中で撮影していた時、主演のノンの演技をみて
私はOKを出しました。しかし撮影助手は、画面の隅に映り込んだ人影が
どうしても気に入らないと言い、もうワンテイク要求してきました。
ついにはモニターの前に座り込み、動かなくなってしまいました。
その時は少々対立しましたが、あとから考えれば、
監督としてこんなに幸せなことはないですね。
映画スタッフの中には
「監督がいいならいいんじゃない?」という人も多いので。
Q これまでの活動の中で、最も印象深いエピソードをお願いします。
初めて作った自主制作の長編映画が、韓国の映画祭で
上映された時のことが印象に残っています。
その映画は大学卒業時に制作したもので、
もちろん人に観ていただくことを想定して作りましたが、
自分の興味だけを追求し過ぎたような気がしていました。
自分や周辺の仲間以外の世界と繋がっていける映画なのかどうか、
不安に感じていました。しかし映画の上映後、面白いと言っ
てくださった方がいたのです。
自分は人と違っていないという実感を得ましたし、
自分が映画を作る時に考えていることや感じることを
ある程度信じられるようになりました。
Q 監督は、これからどんな映画を撮りたいですか?
今後の夢、目標などあればお願いします。
夢や目標という言葉で未来を考えることはあまりしないのですが、
これからのことで言えば、ひとつ撮りたくて自分の中で
大切にしている企画があります。
今はそれを、肩の力を抜いて楽に育てていきたいです。
また熊本で映画が撮れるのならぜひ撮りたいです。
今回の『アリエル…』は観光者の王子が主人公だったので、
熊本の観光地や中心の市街地が主な舞台になっていますが、
実は準備期間中にそれとは違う熊本の顔もたくさん見ています。
もし再び熊本で撮るのなら、
今回とは違う熊本を取り入れた映画が良いですね。
Q 最後に熊本の映画ファンにメッセージをお願いします。
見慣れた風景、
そしてそこから少し浮いて存在しているかのような王子。
熊本の皆さんにとって、『アリエル…』はそんな映画に
なっているのではないかと思います。
私は神奈川県横浜市の出身ですが、鑑賞者の側に
まわった時、自分の生活圏で撮影された映画は
やはり他とは見方が変わってきます。
画面に映っているものとの距離は、その映画の感じ方に
とても大きく作用します。
だから横浜で撮影されているが故に
思い入れの強い作品もあれば、
残念に感じてしまう作品もあります。
熊本の皆さんにとって、『アリエル…』が、
熊本で撮影されているが故に特別な作品となれば
とても嬉しいです。
どうか熊本に住んでいる皆さん独特の見方で、
この映画を楽しんで下さい。
この映画「アリエル王子と監視人」は、
Denkikan
で、今度の土曜日8月22日(土)公開です。
当日は、舞台挨拶も予定されています。
詳しい情報は、Denkikan
電話096-352-2121まで、
お問い合わせください。
以上、キネマのススメでした。
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