1/27「U2」
先週アイルランド出身のパンク/ニューウェイヴバンド、
ザ・ブームタウン・ラッツを紹介した時、
イギリスとアイルランドの対立に軽く触れましたが、今日はその続きを。
歴史をざっと振り返ると、もともと別の国(別の島)だったのを
イギリスが侵略・植民地化した長い期間を経て、
独立戦争で勝ち取ったのが現在のアイルランド。
この際にイギリス移民が多数の北部は経済的に
有利だとして独立に加わらず、イギリス統治下にとどまったのです。
この分裂が悲劇の始まりです。
いわゆるアイルランド紛争というのは大半がこのイギリス領である
北アイルランドが舞台です。
本当はもっと複雑なのですが、簡単に言えば、この地で
“イギリス支配継続を望むプロテスタントのイギリス人=ユニオニスト“と
”南北アイルランド統一を目指すカトリックの旧アイルランド人=ナショナリスト“
との対立の激化が問題のすべてです。
それが頂点に達したのが1972年1月30日の日曜日、
公民権運動でデモ行進中のカトリック系市民をイギリス軍が武力で制圧、
14名が死亡、13名が負傷した「血の日曜日事件」です。
イギリス側からすればあくまでも自国内の問題という立場でしたが、
市民が非武装だったことからアイルランドが激怒、
イギリス内でも非難の声が高まり、
ポール・マッカートニーもジョン・レノンもこの事件を歌にして
イギリス政府を批判しています。
しかし保守派の人々は反アイルランド感情を強め、
1970年代は最もイギリス・アイルランド関係が緊張状態にありました。
先週紹介したブームタウン・ラッツはそんな時代に奮闘していたのです。
さて、先ほどジョンとポールを例にあげましたが、
他にもこの事件を歌った曲は多く、中でも一番有名なのが
U2の1983年の名曲「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」です。
ブームタウン・ラッツから数年しか経ていないのに、
さらにイギリスにとってナイーヴな事件を歌っているのに、
U2は嫌われるどころか熱狂的に支持されたのはご存知の通り。
それは彼らの真面目で真摯な態度に好感を持たれたこともありますが、
イギリスを糾弾するわけではなく、
対立する同胞達に向けて“いつまで続けるんだ”と諭すような内容で、
特定の事件を歌にしつつも、
もっと普遍的な反戦平和ソングに仕上げたからでしょう。
しかしこの立場を面白く思わないナショナリスト過激派から、
実はU2はテロ対象を宣告されています。
それでも彼らはライヴで必ずこの曲をやるのです。
“ユニオニストもナショナリストももう要らない”とわざわざ前置きして
“今夜僕らは一つになれるんだ”と叫ぶのです。
まさに命がけで歌っているのです。
そんな姿勢を世界中のファンが知っているからこその
人気なのだと思います。
今日お届けしたのは、1983年の「サンデイ・ブラッディ・サンデイ」でした。