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3/24「トッド・ラングレン」

知名度はそこそこ高いのに、実体はよく知られていない、

という人や物は意外と多いですが、

今週紹介するトッド・ラングレンもそんな人です。

1990年代以降、主にクラブDJたちが彼の美しいメロディと

グルーヴィな側面を再発見し、

広めてくれたおかげで若い人たちに知られるようになったのですが、

それでかえって本質を見誤らせてしまったようにも思えます。

それだけの人ではないのです。

彼を人に説明するとすれば、まず優れた作曲家であり、

ダリル・ホールが歌い方を盗んだほどの上手い歌手であり、

全ての楽器を一人で演奏できるマルチ・プレイヤーであり、

自らの作品だけでなく他人のヒット作品を多数生みだした

名プロデューサーであり、

ミュージシャンをやめてもそれだけで食べていける技術をもった

エンジニアでもある天才、とでも言えばいいのでしょうか。

しかし、その音楽性はといえば、果てしなく甘く美しいメロディもあれば、

急に変なオペラが出てきたり、

ギター弾きまくりのハード・ロックがあったり、幅が広すぎ。

さらにアレンジに至っては“どうしてこの曲をこうやっちゃうの?”

と考え込みたくなるほど不思議というか、

グチャグチャなものが多いんですよ。

例えば絵画は“どこで筆を置くか”、つまり完成の見極めが

一番重要だといいますが、

この人は常に見極めが間違っているというか、

“そこでやめときゃいいのに”というところでも

隙間を見つけると別の音をかぶせちゃう感じです。

“そんなのどこが天才?”と思う人も多いでしょう。

じゃ言葉を代えましょう。変態です。でも、それだからこそトッドですし、

ファンはどんどんのめり込むんです。

決してメロディがきれいで歌が上手いだけの人ではないのです。

と言いつつも今日お送りする曲はメロディと歌の素晴らしさが全開で、

アレンジもかなりまともなほうな曲ですが、

でもよく聴くとやっぱり何かが余分。

そしてプロのエンジニアとは思えないほど、

ドラムの音がベシャベシャにつぶれています・・・。

聴けば聴くほど変態チックですが、そこが気持ちいいんですよ。

お届けしたのは、1973年の曲「たったひとつの勝利」でした。