「FMK Morning Glory」
毎週火曜日にお送りしています、「キネマのススメ」。
毎週、松崎ひろゆきが選んだ映画をご紹介しています。
今日ご紹介するのは、現在公開中の
「6才のボクが、大人になるまで。」です。
この映画は、タイトルの通り、1人の少年の12年にわたる成長を写した物語です。
アカデミー賞の前哨戦として有名なゴールデン・グローブ賞では、作品賞、監督賞、助演女優賞をすでに獲得しています。
いよいよ来週(2月22日)発表になるアカデミー賞では、作品賞、監督賞を含む主要6部門にノミネートされ、作品賞の大本命と言われています。
映画の製作プロセスについて、かなり話題になって各方面で取り上げられたので、
ご存知の方も多いんじゃないでしょうか?
ある人物の人生を描いた話ならそんなに珍しいことでもない
と思うかもしれませんが、この映画のすごいところは、
少年の6才から18才までの12年間を1人の俳優が演じていること。
つまり撮影に12年かけている映画なんです。
しかも“演じている”と書いている通り、ドキュメンタリーではなく演技、
ドラマとして撮影されたものです。
主人公の少年だけではなく、その家族、父、母、姉を演じた俳優もそれぞれ1人。
家族4人全員が、12年間1つの映画を撮影し続けたという、今までにない画期的な手法の映画なんです!
そんな映画を作り上げたのは、「スクール・オブ・ロック」などで知られる リチャード・リンクレイター監督。
彼の代表作といえば、あるカップルの18年間の年月を3部作で描いた
「ビフォア」シリーズですが、今回の作品は、このシリーズのアップデート版。
「ビフォア」シリーズでは、3作に分けられていた時間経過を、1本の作品の中で
1人の少年と家族の変化として描いた野心的試みです。
主人公は、テキサス州に住む6才の少年メイソン。キャリアアップのために大学で学ぶと決めた母に従ってヒューストンに転居した彼は、そこで多感な思春期を過ごすことになります。
離婚して別のところに住む父との再会。母の再婚。周囲の変化に耐えながら、メイソンは子供から少年へ、そして青年へと成長してゆきます。
主人公・メイソンを演じたのは、オーディションで監督に見出された
エラー・コルトレーン。無垢な少年時代から、悩み多き思春期まで、その成長とともに
見事に役を演じています。
主人公の母には、「トゥルー・ロマンス」のパトリシア・アークエット、
父には、「ビフォア」シリーズでも監督と組んだ、イーサン・ホーク。
姉役には、監督の娘のローレライ・リンクレーターが扮しています。
撮影期間は、2002年の夏~2013年10月までで、毎年夏の数日間に行われたとか。
脚本は完成していなくて、監督が1~2週間前から出演者と会って、
その年の展開を決めていったといいます。
監督の中ではある程度骨組みが決まっていたんでしょうが、
キャストとしては、もしかしたら公開されないかもしれない、
という不安もあったでしょうし、主人公の少年もグレたりすることなく、
誰かが辞めることもなく、12年間撮影できたとはまさに奇跡の映画です!
注目してみてほしいのは、随所にさり気なく描かれる時代の変化。
例えば、メイソンが遊んでいるゲームの機種が、最初は「ゲーム・ボーイ」だったのが、
「X-BOX」にかわり、やがて「Wii」にかわりと時代の変化を取り入れています。
また、「ハリー・ポッター」の新刊発売の話や「スター・ウォーズ」新作の話。大統領選挙の話など、とてもさりげなく年代がわかるように描写されています。
この映画のキャッチコピーは「すべての瞬間に『大切』が宿っている。」です。
人生とは、さりげない瞬間の積み重ねで、すべての瞬間が輝いているんだとこの映画は語っている気がします。
物語としては、特別ドラマティックな出来事は起きないけれど、
時間の経過が作り出す大きなドラマを目の当たりにできる、貴重な1本です。
今日ご紹介した「6才のボクが、大人になるまで。」は、
■シネプレックス熊本
で、現在公開中。
2月21日(土)からは
■TOHOシネマズ 光の森
でも公開されます。
「6才のボクが、大人になるまで。」オフィシャルサイト
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