あらゆるジャンルの“注目の人”にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。
11月から3ヵ月間、「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ
熊大ラジオ公開授業 知的冒険の旅」と題してお送りしています。
8回目のゲストは、熊本大学大学院 生命科学研究部
細胞病理学分野助教の藤原章雄先生です。
先生の専門である「機能性天然薬物学」とはどんな研究なのか、詳しく伺います。
Q①お名前と職業・所属を教えて下さい。
名前:藤原章雄(ふじわら・ゆきお)
所属:生命科学研究部細胞病理学分野・助教
プロフィール
屋久島出身
熊本大学薬学部卒業(薬剤師)
熊本大学大学院薬学研究科博士前期課程修了
熊本大学大学院薬学教育部博士後期課程修了(薬学博士)
2007年より現職
Q②藤原先生の専門である「機能性天然薬物学」とは、
どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。
天然物化学とは、植物・微生物・海洋生物などの生物が
作り出す物質についての研究を行う有機化学の一分野であります。
主に、生物が作り出す物質の単離や構造決定、
その物質の合成を行います。そして、機能性天然薬物学とは、
植物・微生物・海洋生物などの天然資源から医薬品、
医薬品の候補物質や病気の予防に役立つ物資の発見を
目指す研究だと考えています。
Q③藤原先生がこの研究に取り組むことになった
「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。
大学院生の時に、天然物化学を専門とする研究室に所属していまして、
植物から化合物(成分)を単離し、その化合物の化学構造を
決定するという研究を行っていました。
その研究過程におきまして、これまでに発見されたことのない
新規の化合物を発見することができ、その化合物の
化学構造だけではなく生物機能性も明らかにしたいと思ったことが
最初のきっかけです。当時の自分が所属する教授にお願いして、
医学部の研究室に実験をしに行かせてもらうようになり、
それがきっかけで今所属する細胞病理学の研究室とのご縁もあり、
現在でも天然化合物の機能性を評価する研究を続けられています。
現在は主に、当研究室の専門とするマクロファージ(白血球の一種)に
作用する天然化合物を探索し、マクロファージが関与する
疾患の治療法の開発を目指しています。
Q④藤原先生の研究テーマについて、もう少し教えてください。
これまでの興味深い研究成果としましては、一つ目として、
リコピンが多く含まれることで有名なトマト果実から新規成分である
エスクレオサイドを発見しました。そのエスクレオサイドは
リコピンよりも数倍も多くトマトに含まれていまして、
そのエスクレオサイドが細胞実験と動物実験の両方で
抗動脈硬化作用を有することを明らかにしました。
次に二つ目として、現在進行中の研究テーマについて紹介します。
現在は血液に存在する白血球の一種であるマクロファージの
活性化を調節することでガンの治療に有効である
天然化合物を探索しています。今のところタマネギに含まれる
オニオニンという成分がマクロファージの活性化状態を
腫瘍抑制性のタイプのマクロファージへ変換することで
ガンを抑制することを動物実験で証明しました。
現在、新たなガン治療への応用を目指して研究を続けています。
Q藤原先生の研究では、実験が多いようですが、
具体的にはどんな作業を行うのでしょうか?
また、実験に伴う苦労話や失敗談などもあればお願いします。
主に細胞(マクロファージやガン細胞)を用いた実験と
マウスを用いた実験を行っています。マクロファージは
自分達の血液から単離したものを培養して用いておりまして、
そのマクロファージを天然化合物で刺激して、
様々なマクロファージの活性化因子の発現や分泌が変動するかを
評価しています。また、ガン細胞を天然化合物で刺激して
ガン細胞の増殖を抑制するかを評価しています。
そして、効果のあると考えられる化合物については、
マウスの病態モデル(ガンモデル)に投与して、
実際に動物実験にてガンの抑制効果が認められるかを調べます。
また、投与したマウスにおける実際のガン組織中の免疫関連細胞の
活性化状態や数を顕微鏡で観察したりもします。
通常、研究は上手くいかないことの方が多いですので、
高頻度で得られる多くの失敗結果を着実に次に活かして
新たな仮説の設定や実験を繰り返し行うことが研究には
重要だと思っています。焦らず粘り強く続けて行くことで、
いつか良い結果が得られた時に喜びがあるのだと思います。
それが故に研究者の多くが研究が楽しくてやめられなくなるのだと思います。
Q研究以外での趣味などありますか?
近年、リフレッシュするために行っていることは体を動かすことです。
最近は、良くランニングをしています。
テニス(現在休会中ですがテニススクールに通っています)もしています。
あとは、甘いものを食べることだと思います。昔から甘いものは好きです。
Q⑥これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。
10年程前(大学院生時代)に植物観察を目的にチベットの近くの
中国のシャングリラという場所に行ったのですが、
そこで経験したブルーポピーの花(青いケシの花)をみた時の
感動が今でも忘れられません。
「青い花」自体が自然界においても珍しいものであり、
またシャグリラへむかうまでの道のりも大変でしたので
(行程中標高が2000m〜3000m)、
より一層印象深いものになったのだと思います。
Q⑦今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。
今後もひきつづき医薬品、医薬品の候補物質や病気の予防に
役立つ物質の同定を目指して、
天然化合物の機能性を明らかにしていきたいと思います。
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