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ヒューマン・ラボ

熊本大学・石原明子准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

11回目の講師は、熊本大学 大学院社会文化科学研究科 准教授

石原 明子 先生です。

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Q① プロフィールをお願いします。

名前 : 石原明子 熊本大学教員(准教授)

所属: 大学院社会文化科学研究科

プロフィール

東京都生まれ。国際基督教大学教養学部理学科卒業(教養学士)、

京都大学大学院文学研究科修了(文学修士)、

カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生大学院修了(公衆衛生修士)、

イースタンメノナイト大学大学院 紛争変容・平和構築大学院資格(修復的正義・開発学)

京都大学大学院時代の高校非常勤講師の時代に教師が天職だと感じ、

自分で将来は学校を創りたいと思う。

が、なぜか、大学院修了後、国立保健医療科学院、国立精神保健研究所など

厚生労働省の3つの研究所で医療政策研究の分野で10年働く。

その10年の中で、教育にも使えて、高齢化や平和といった持続可能性の

問題の解決にも使える紛争解決学の分野と出会う。

2008年より熊本大学大学院社会文化科学研究科准教授(紛争変容・平和構築学)。

イースタンメノナイト大学では、修復的正義の祖父と呼ばれるハワード・ゼア氏のもとで学ぶ。

Q② 石原先生の専門である「紛争解決・平和構築学」とは、

 どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

一言でいうと、対立や葛藤を入口にして、平和や幸せ、持続可能性への扉を開く学問です。

対立や葛藤や紛争は、普通は、平和や幸せや持続可能性をさまたげるもの、と

私たちは思いがちです。

しかし、もし、対立や葛藤こそが、社会の平和や自分や他人の幸せや、

関係性や社会の持続可能性のカギを握っているとしたら、どうでしょうか?

面白いと思いませんか?

紛争解決学では単に目の前の紛争や葛藤がなくなればよいというだけでなくて、

そこを入口にして、より平和な社会(平和な社会というのは、単に争いがないだけでなく、

自分も他人も含むすべての人が生き生きと幸せに生きられる状態)を築いていこうとする学問なのです。

紛争解決学では、紛争は幸せへの入口、紛争が幸せへの扉を開く、と考えています。

(それがなぜかというと、10個くらい理由があるのですが、一つには、紛争や対立は、

最も他者と強く深く出会う瞬間です。 ガキ大将同士が喧嘩の後に大親友になる

ということがあるように、対立や紛争は、もしかしたらその他者と最も深い関係を結ぶ

きっかけになるかもしれません。また、私たちは他者と出会って、

自分が何者かを深く知るチャンスをもらいます。相手を好きだ、嫌いだと感じるということは、

そう感じる自分と深く出会うチャンスでもあります。

また、対立は、それまで関係性や組織・地域で潜在的に抱えてきた問題が

表に顔を出すチャンス、つまり、関係性や組織や地域をよりよくする

チャンスかもしれないということです。などなど、、、、多くの理由があります)。

Q③ 石原先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

小学校の卒業文集で、将来の夢は

「国会議員になって戦争の100パーセントない平和な世の中をつくること」と書きました(笑)。

でも、どうやって平和な社会をつくっていいのかわからなかったし、

大人になれば、戦いや葛藤のない社会や人生なんてありえないし、

むしろ、それが生きるということだ、ということに気付き始めます。

わたしは、大学受験のころ、ちょうど自分の人生観や世界観がひっくりかえるような経験をしました。

それまでの自分の人生観や世界観が否定されて悩んでいる最中は、

とっても苦しいのですが、悩みぬいた結果、もともとの自分の世界観と、

それを否定した自分の敵ともいえる世界観の両方が両立するような

新しい世界観にたどり着いたとき、なんか自分が生まれ変わったような

新しい人生が始まるような気持ちがしました。

大学院生のころ、お金がなかったので、いわゆる“不良”が集まる高校の非常勤講師をしていたのですが、

生徒と共にいる(格闘している?)時間は、理屈を超えて幸せでした。

生きているという感じがして、天職だと思いました。

その過程を通じて、教育とは何であるべきかを考えさせられました。

そのときに、生きるということは、常に自分と異なった他者と出会い、

影響し影響され、変化して人は生きていく。

その出会って変化していく過程をしっかり生き抜いていける力が人生では大切だし、

それは、様々な人がともに生きるこの社会の平和ともつながる。

そんな「異なる他者(価値観)と出会って、ぶつかって、変化する」過程を

生きる力をつけることができる学問はないだろうか、と模索していた中で、

紛争解決学(紛争解決学)と出会いました。

Q④ <身近な応用できる紛争解決の面白知識>

紛争や葛藤が先生だ!

紛争解決学では、その抱える紛争や問題、敵こそが先生だ、という考え方があります。

たとえば、会社の中で、全然働かないサボっている同僚がいて、

「あんたばっかり手を抜くから、いっつも私ばっかりに仕事がかぶってきて」と怒りを感じているとします。

この場合、問題や敵が先生だ、ということはどういうことでしょうか。

つまり、一生懸命に働いているその人(マジメ子さん)にとっては、

その問題のある人に見習って「サボる」のが答えだ、ということになります。

それにはいくつかの理由があります。つまり、怒りを感じるということは、疲れている、

休みを必要としていることを知らせてくれている、ということです。

だから、少し「働かない」「サボる」「休む」ことがその人に必要と教えてくれています。

次に、敵・問題の人は、 マジメ子さんにとって新しい生き方や価値観の可能性を

教えてくれているというものの見方ができます。

それまでマジメ子さんは、会社に入ったら一生懸命に働かなきゃいけない、という価値観で

生きてきたかもしれません。

そのような生き方を続けていたら、もしかしたら将来過労死をしてしまうかもしれない、

そんなときに、一生懸命働くのもいいし、少しサボる生き方もいい、と2つの生き方を選べるようになると、

マジメ子さんの人生はより豊かなものになりえます。

第3に、組織の中でのこととして、マジメ子さんが少し働かなくなると、

サボっていた人が急に働き始めることも起こりえます。

サボり子さんは、もしかしたら、もう少し仕事をしたいと思っていた、

あるいはもう少しする能力はあったのに、サボり子さんより優秀なマジメ子さんが

いつも一歩先に仕事をしてしまうので、つい手を出せないでいて、

その関係性が固定化してしまっていたのかもしれません。

Q⑤ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

今、東日本大震災による原発災害下の問題に取り組んでいます。

震災後に、実際に福島や近県にも何度も通い、また、震災後に熊本に引っ越してこられた方々と出会って、

お話を伺ったり、その問題解決のための取り組みに共に取り組んだりしています。

なぜ、紛争解決・平和構築の人間がこの問題にかかわってるかについては

いくつかの理由があります。

第1に、原発災害の厳しい状況の中で、原発災害の被災地域や被災された方々の中では、

今、多くの対立や人間関係の分断が起こってしまっています。

これは非常に残念なことに、水俣病の歴史の中で起こった地域社会の分断と

似たことが起こってしまっています。

第2に、紛争解決は平和の実現を目指す平和構築学とコインの裏表といいましたが、

実際に人々が常に放射線の健康リスクやストレスにさらされて暮らさなければならなかったり、

上記のような対立や葛藤の中に生きることは平和な状態ではないといえますので、

私たちの分野が大いに関係してきます。

第3に、なぜそのような健康リスクにさらされ続けたり不必要な対立や葛藤に

追いやられるかということの背景には、原発政策と核兵器政策が

あまり知られてはいませんが切っても切り離せない関係にあるということがあるから、

ということがあり、実は原発問題は戦争の問題とも深くつながっているので、

紛争解決・平和構築学の直接の対象になります。

原発災害は、多くの人々の命や健康を危険にさらすだけでなく、

人生そのものやこれまで気づきあげてきた人間関係を深く傷つけてしまいました。

これまでホッとして土に触れ空気を吸い水や畑で取れた恵みを子どもや家族と

いただく場所だった自宅がふるさとが、一瞬にして半永久的に奪われました。

先祖代々気づきあげていた歴史が文化が奪われました。

強制避難区域以外でも、多くの家庭で、命を守るために子どもとお母さんだけ遠方に

引っ越すという決断をしたり、あるいは家庭の中で意見が一致せず、

離婚も含めそのまま家族ばらばらに過ごしておられる方もいらっしゃります。

少女たちは、大人たちが放射線についてあまり語らない中で、

放射線のことを心配したり語ることが悪いことだ思うになり、普段は多くを語りませんが、

ふとした瞬間に「もうわたし結婚できないんだよね。

子ども産めないんだよね。汚染されちゃったから」とつぶやきます。

平和というと、単に戦争や殴り合い・殺し合いがない状態をイメージされるかもしれませんが、

目に見える戦争がなくても、この社会では、誰かのいのちが、目に見える形・見えない形、

気づかれる形・気づかれない形で軽んじられたり、

同じように扱われていないことが少なからずあります。

それは紛れもなく、「平和」でない状態、つまりより平和を必要としている状態なのです。

私たちの仕事は、対立や葛藤に悩む方々のお話を伺ったり、その解決や平和構築の

手伝いをしようとする仕事です。

しかし、私がこの分野をやっていて本当に良かったと思うことは、そのような現場に行って、

実際にいつも、最も優しさを頂き、元気をいただき、そして人間の深さや知恵に触れて

成長させられて帰ってくるのはいつも自分自身だということです。

語りつくせませんが、この原発災害に関する仕事を通じて、

出会ったみなさんから教えていただいたことの深さ、いただいた優しさや愛は

言葉にしつくせないものがあります。

福島のお母さんたち女性たち、若者たちは、言ってみれば、東京の人のための

電気を作っていた東電の原発災害で、故郷を奪われ、自分や子供の命を危険にさらされて、

東電や東京の人などを恨んだり殺しても殺しきれない気持ちがあってもおかしくないと思いますが、

多くの方々は、「自分は被害者で誰かが悪い」と人のせいにするよりも、

「原発のこと、この社会のこと知らなかった自分の責任。大人である自分の責任」といい、

その問題に向き合って、本当にあるべき持続可能な社会に向けて歩みだそうとされています。

紛争解決や平和構築の学問をやってよかったことは、もちろん、その知識やスキル自体が、

自分が葛藤や対立によりよく向き合ったり自分の身の回りに平和を創ることを助ける、

ということもありますが、それ以上に、常に、人間ってなんて深くやさしく強くのだ、と

目を見開かされる人々との出会いがあることであると感じています。

Q⑥ 今後の活動予定などあれば教えてください。

実は、私のいる熊本大学大学院の交渉紛争解決・組織経営専門職コース(博士前期課程)、

交渉紛争解決学領域(博士後期課程)は、日本で最初でかつ唯一の

紛争解決学を専攻できる大学院なのです。ここは、主に社会人を対象とした大学院で、

主に土曜日や平日夜間で学位が取れる大学院です。

毎年、医療や教育を含む対人援助職の方、地域や組織を変えていこうとするNPOや企業のリーダー、

プロや葛藤解決ファシリテーター、政治家、法律職の方、家裁の調停委員の方など、

様々なバッググラウンドを持った社会人が大学院生として来てくださり、

ともにこの新しい分野を作り上げていく仲間となってくれています。

毎年、博士前期課程(修士課程)、博士後期課程(博士課程)の学生を夏と冬に募集しています。

また、できるだけ地域の皆様とつながることができるように、地域の皆様が誰でも参加できる対立や

葛藤解決の公開セミナーや、対話の会などを開催しています。

もし、ご関心を持ってくださる方は、どうぞご遠慮なく、熊本大学までご連絡ください。

一緒にこの分野を盛り立てていく仲間となってください!

 

 

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熊本大学・大川千寿特任准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

10回目の講師は、熊本大学 政策創造研究教育センター 特任准教授

大川 千寿先生です。

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Q① プロフィールをお願いします。

名前:大川  千寿

所属:熊本大学政策創造研究教育センター

プロフィール

1981年大阪府生まれ。

2000年大阪星光学院高等学校卒業。

2001年東京大学教養学部前期課程文科一類入学。

2003年東京大学法学部第三類(政治コース)進学。

2005年同卒業、同大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻政治コース修士課程進学。

2007年同課程修了(修了者代表)、同研究科助教。

2010年同研究科特任助教。2011年熊本大学政策創造研究教育センター特任准教授(学長特別補佐)。

現在に至る。

Q② 大川先生の専門である「 政治過程論 」とは、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

その名の通り、政治の過程(プロセス)で起こるさまざまな事象や

それに関わるさまざまな主体について研究・分析する学問です。

具体的には、権力とは何か。民主主義にはどのような種類があり、

どう機能しているのか。政党の役割とは何か。

政党・政治家の政策や意識はどう変化しどう実現しているのか。

有権者の投票行動はどのような要因に規定されているのか。

なぜ有権者は政治に関心をもったり、もたなかったりするのか…など、

現実の政治のプロセスで生じる問題に科学的な視点から

アプローチしていきます。

多くの場合、統計的な手法を用いたデータ分析が取り入れられています。

私は、これまで現代日本政治における政党について

(特に、政党や政治家の政策の変化やそれを規定する要因について)、

政治家や有権者に対する調査データを用いた分析に取り組んできました。

Q③ 大川先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

小学生のころから「社会科」が好きで、テレビや新聞などで報じられている

政治に関するニュースを見て、興味をもっていました。

1993年の細川政権の誕生は、今でも鮮明に覚えています

(ただし、私は新政権側ではなく、どちらかというと自民党の内紛に興味がありました)。

高校の進路指導の際も、政治を学びたいということで志望校を決めました。

大学に入学し、法学部に進学後、蒲島郁夫先生(現・熊本県知事)の

ゼミに入れていただきました。

ちょうど総選挙が行われた2003年のゼミでしたので、その総選挙に関する研究でした。

ゼミ長を務め、データのとりまとめを行いながら、調査・研究に没頭した経験は、

現在の研究生活の礎になっていると感じています。

当初は一般企業への就職を考えていましたが、蒲島先生と出会ったことがきっかけとなって

研究者の道を志し、先生や谷口将紀・東大教授の指導を受け現在に至ります。

Q④ 投票率の低下など有権者の「政治離れ」がよく言われていますが、

 大きな原因は何だと思われますか?

 有権者がもっと政治に興味を持つためにはどんなことが必要ですか?

特に先進国を中心として、有権者の価値観が多様化し、

また経済成長の限界が明らかになる中で、政党や政治家が有権者の意思を

十分にすくい取れておらず、有権者にとっての果実を伴う新たなモデルを

見つけられていないということがあると思います。

国や世界の未来をつくる若年層の投票率がとりわけ低いということは、

将来にわたっての社会の持続性を考える意味でも、深刻な問題だと思われます。

有権者が政治に十分に興味をもてない状況がある一方で、

有権者が高学歴化し、また発達したマスメディアを通して、

政治に関する情報が頻繁かつ詳細に入手できるようになって、

政治や政党・政治家を見つめる目がかなり厳しくなっているということも、

一方では言えるかもしれません。

しかし、有権者が直接政治に参画し、決定を下していく直接民主主義に対し、

一つひとつの課題についての詳細な決定を、

選挙を通して政治家や政党に委ねる間接民主主義は、

決定の迅速・効率性などを考えれば、なお合理的な制度です。

政党・政治家が今の時代のあり方に合った形で有権者との結びつきを再び作り、

説得に根気強く努めること、また有権者の側も、すぐには結果が出なくても、

ある程度忍耐しながら政治的な動きの一つひとつをしっかりと監視し続けることが大切だと思われます。

Q⑤ 海外の政治システムと比べて、日本の政治の一番の特徴とは何ですか?

 長所、短所も含めて説明をお願いします。

政党について主に研究している立場からすると、

「自由民主党(自民党)」の存在ということになるでしょうか。

先の衆院選で自民党を中心とする政権が再び誕生しました。

自民党は、1955年の結党以来、ほとんどの時期で政権を担当し、

今日に至るまでの日本の民主主義を支えてきました。

海外の民主主義国でも、長期にわたり政権を担当してきた政党はいくつか存在していますが、

現在に至るまでこれほど長く政治の過程で主導的な役割を果たしている、

ということになると、稀有な例になります。

確かに、2009年の衆院選で民主党への政権交代が実現しました。

これによって、二つの大きな政治勢力の間の政権交代が日本でも

定着するかと思われましたが、2012年衆院選に際しては、

自公以外の勢力が大きく分かれるなど、

この先の日本の政党システムのあり方は予断を許さない状況です。

そんな中で、自民党は何度もの分裂の機会を乗り越えて、

1つの政党として存在し続けています。当面は日本における

中心的な政党としてあり続けるのでしょう。

ただ、衆議院で現状の選挙制度(小選挙区制を中心とする制度)が継続する限り、

政党の数はいずれは収斂していかざるを得ないでしょう。

党内のガバナンス(統治)がうまくいかずに分裂を重ねた民主党の失敗も踏まえ、

自民党に対抗する勢力がまとまっていけるのか、

あるいは、政策的な多様性を持っている各政党の間で、

いわゆる「政界再編」がなされるのか、引き続き注目していかなければなりません。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

私がこれまで主に分析に用いてきたデータは、

東大蒲島・谷口将紀両研究室と新聞社(朝日新聞社)が共同・協働で行ってきた調査のデータです。

私も2007年以降この調査チームの一員として参加してきました。

調査に関する記事が新聞に載る際には、記事の締切直前まで記者さんとやり取りしながら、

データを確認・分析して細かい表記までつめる作業をします。

おかげで、私も締切というものにより敏感になったほか(笑)、

短時間で的を射た日本語で記事をまとめる記者さんの姿を通して、文章力が鍛えられました。

また、2007年参院選時には選挙の投開票日に、「戦場」と化した

新聞社本社の政治部の部屋につめて刻一刻と動く開票状況を見守るという経験もできました。

そこで栄養ドリンクを飲み、眠い目をこすりながらデータ分析の作業したこともよい思い出です。

Q⑦ 今後の活動予定などあれば教えてください。

直近では、1月12日(土)午後1時半より、熊本大学工学部百周年記念館(黒髪南キャンパス)にて行われる、

平成24年度第2回知のフロンティア講座にて、一般市民の皆さま向けの講義を行います。

タイトルは「「政治」って何だろう?―2012年総選挙を手がかりに―」です。

まだ皆さんの記憶に新しい2012年総選挙について分析した内容をお話しし、

それを手がかりに、政治学の基本的な理論や概念をいくつか紹介しながら、

政治って何だろう?というシンプルで深い問題について、一緒に考えてみたいと思います。

事前予約は不要で、興味がある方でしたらどなたでもご参加いただけますので、

ぜひ足をお運びください。

 

 

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熊本大学・合田美子准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

9回目の講師は、熊本大学  大学教育機能開発総合研究センター 大学院社会文化科学研究科教授システム学専攻

准教授合田 美子先生です。

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Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前 : 合田 美子

所属: 熊本大学 大学教育機能開発総合研究センター

プロフィール

生まれも育ちも東京の浅草です。

東京学芸大学教育学研究科にて英語教育の教育学修士を取得後、

1年間筑波大附属中学校で英語を教えておりました。

その後、フルブライト奨学金を取得して渡米しました。

フロリダ工科大学大学院で修士と博士課程で学び、

2004年Ph.D.(科学教育学) を取得しました。

留学中に台湾の高雄にある樹徳科技大学応用外国語系で

専任講師として2年半ほど働きました。

博士号取得後はフロリダにあるNPOマリーンリソースカウンシル

(Marine Resources Council)で教育テクノロジーコーディネータとして

地域に対する環境教育に従事しました。

また、フロリダの母校の大学院で非常勤としてコンピュータ教育入門を担当しました。

教え子の中にはNASAや地元の小中学校で働く方がいらっしゃいました。

2005年10月に帰国してからは青山学院大学で客員研究員として

eラーニング人材育成プロジェクトに参加し、大手前大学現代社会学部順教授を経て、

現職となります。海外や国内でいろいろな所に住んできました。

たくさん故郷ができてくるようで、文化的社会的多様性を享受しています。

趣味は書道と料理です。最近は旅行も好く行きます。

熊本は泉質のいい温泉が多く、熊本ライフも楽しんでいます。

Q② 合田先生の専門である「教育工学と英語教育」とは、

 どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

英語教育は英語をどのように教えるかを研究することなので想像しやすいと思います。

教育工学は、教育にテクノロジーをどう応用、適用していくかという学問です。

例えば、iPadやスマホなど、新しいテクノロジーが開発されます。

そのときに、これらの新しいテクノロジーを教育でどのように活用したらいいかを考えます。

そのままiPadを小学校の教室に持っていけば効率的な教育が実現するわけではありません。

授業のどこで使うのか、学習内容と活動はテクノロジーを効果的に使うのに適切か、

どのように教育評価を行うのか、コンテンツの設計と開発はいかに行うのか、

コンテンツの運用はどうするのかなどなど考慮すべき点がたくさんあります。

子供と大人によっても学び方が違います。

また、テクノロジーによっても教育への活用の仕方は変わってきます。

先ほどの例に戻ると、iPadとスマホでは画面サイズや入力方法、機能が異なります。

同じ学習内容でコンテンツを製作するとしても、それぞれのテクノロジーの特性を

踏まえた設計と開発が必要になります。

今あるテクノロジーを教育へ適用し、教育に活用するために

これからテクノロジーをデザインするための研究をしています。

ウェブのアプリによっても学び方も違いますし、

学び方の形態(個人で学ぶのか、みんなで学ぶのかなど)によっても

最適な学習は違うと言えます。

教育の最適解を求めるために研究を進めています。

加えて、今はないテクノロジー(ソフトも含む)ですが、

あったらいいなという学習に役立つであろうシステムを提案していくための研究も進めています。

一言で表すと、学びを面白くするための手法についてテクノロジーを含む

すべてのものを対象に扱う分野だと思います。

最近は学習支援に興味があります。

教育評価や学習コミュニティを研究していますが、

アプローチが個人の学ぶ力を伸ばすことを念頭に進めています。

教え込むというよりは、個人が自分で学ぶことが楽しい続けたいと思えるように

学び方を学ぶことを促進できるような支援について研究を進めています。

Q③ 合田先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

最初は英語教育にコンピュータを活用したいと思ったことがはじまりです。

コンピュータを使うことで個別の指導が可能になります。

英語など、スキルや能力が違う学生が一斉授業で学ぶことは

あまり効率的効果的でないと感じていました。

自分に合った方法で自分に適したペースで学べるようにするにはどうしたらいいのかと考えていました。

それにはテクノロジーが使えるのではないかと思いこの分野に進むことになりました。

アメリカに留学したのも本格的に教育工学を学びたいと考えたからです。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

最近のエピソードで印象深いエピソードをご紹介いたします。

①甥の家庭教師をしていた時のエピソードです。

中3の甥の家庭教師をしていたところ、姪11歳と姪4歳が家庭教師をしてほしいということになり、

3人を家庭教師していたことがあります。

そこで、必要な支援の違い、教え方の違いなどを再認識しました。

②甥と姪のやりとりから、学びの多様性を実感した時のことです。

姪が2歳のころ、出勤ごっこが好きで、キャスター付きの子供用バックをもって、

「行って来ます」といって、家中を歩き回って、帰ってくると「ただいま」という遊びに夢中でした。

ところが、キャスターの下に小さなぬいぐるみが挟まり前に進めないときがありました。

「ぬいぐるみをどかせば進むよ」ということを教えてあげると上機嫌で歩き回りはじめました。

隣にいた甥が、他のぬいぐるみを彼女の通り道に置きました。

いじわるだな~と思いながら見ていると、姪は違うぬいぐるみをきちんとどけて歩いていきました。

「すごい、学習している」と思いました。

甥はペンケースを置きました。そして、「同じぬいぐるみだったからだよ、できたの。」と。

その後も甥の挑戦はつづきました。

姪はペンケースもコーヒーカップもどかして歩いていきました。

このやり取りをみていて、みんな学ぶ力があるし、

甥にしたら仮説と検証をする実験をしているようだと思いました。

本当は子供のころから学ぶことを私たちは毎日しているのだけれど、

それが勉強ということになり学ぶことの楽しさを忘れてしまってきたのではないかと思うエピソードでした。

Q⑦ 最後に一言お願いします。

・NHK高校講座のベーシック英語のwebサイトで設計をお手伝いした

学習ゲームを公開しています。多くの方に使っていただければと思います。

http://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/basiceng/clip/

・被災文化遺産支援コンソーシアム(CEDACH)に参加しています。

本団体は、トヨタ財団から助成を受け研究プロジェクトも推進しています。

そこでは防災遺産学に関するeラーニング教材を開発しています。

近いうちに公開できると思いますのでそちらも使っていただければと思います。

また、CEDACHでは被災した文化遺産を保護するためのボランティアも募集しています。

ぜひご参加いただければと思います。

http://cedach.org/

 

 

 

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熊本大学・片岡恵一郎先生を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

8回目の講師は、熊本大学大学院 生体機能薬理学分野 学術研究員

そして、小国公立病院 内科・循環器科部長  片岡恵一郎先生です。

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Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前 : 片岡恵一郎

所属: 熊本大学大学院 生体機能薬理学分野 学術研究員

     そして、小国公立病院 内科・循環器科部長

プロフィール

平成8年に大分医科大学を卒業後、熊本大学循環器内科に入局、

5年間の臨床の後、H13年に大学院入学。

2年間は熊本大学で、2年間は東京大学で、発生学、再生医療の研究を行った。

東京より熊本に帰ってくる際に、現在の生体機能薬理学に助手(助教)で採用され、

薬理学の研究を始め、循環器の薬がどの様な機序で病気を治療したり、

老化を抑えたりするのかを研究した。

平成24年10月より、臨床に復帰することを決め、臨床の場として、

小国公立病院を選び、大学に籍をおきながら、

小国の地域医療に従事しはじめたところ。 

Q② 片岡先生の専門分野は、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

専門は循環器内科学と薬理学。循環器内科は、心臓、血管の病気や

血圧を診る内科。

薬理学とは、薬がどうやって身体の中で効果を及ぼすのかを研究する教室。

一方で、一民間人として、医療以外の熊本を元気にする活動にも関わっている。

ロングライフデザインプロジェクト熊本(http://public.main.jp/d-kumamoto/)という団体で、

熊本市主催の「わくわく江津湖フェスタ」でイベントを主催したり、

政創研主催の公共政策コンペでアイデアを発表したりしている。

そういう活動の中で、「その土地らしさ」を考えることは、

現在の日本の歪を是正する上でとても大事なことだと気づき、

医療従事者と地域の患者さんで、「その地域らしい医療」を見つけ出し、

それを共有することが、地域医療を救う重要な鍵であるのではないかと考えている。

Q③ 片岡先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

研究ではないので、なぜ小国で地域医療をしようと思ったのかを書きます。

H13年に非常勤として小国に行き始めた頃は、常勤の内科医が4人いた。

しかし1人また1人と次の土地へ移動されるたびに、大学の人員不足で

後任の補充がされない状況となっていた。

3年前には院長を含めた内科医が全員辞めることになっても、

大学からは後任の医師派遣ができないという事態になった。

小国公立病院は小国町、南小国町とその周辺の15000人の医療圏だが、

さらに悪いことに、開業医の内科医もその時期ほぼゼロになってしまった。

内科医が町からいなくなっていく様子の全貌を非常勤医師として、

傍目で見ていたのが、公立病院も小国の町もなんとかしたいと頑張れる人が

沢山いたので、医者が1人いれば、なんとかなる様な気がしていた。

また、そのタイミングで赴任してもいいと思っている内科医は自分しか

いなかったので、自分が赴任しなければ、次に自ら小国に来る医師は

いない気がした。

ちょうどいいタイミングで、大学の薬理の後任もみつかり、

運命的なものを感じながら、小国に赴任したい旨を

大学の教授に話をして承認してもらった。

まとめると、

1)小国の内科医がいなくなってピンチになるのを見ていた。

2)小国の町と小国公立病院と患者さんに愛着があった。

3)ちょうどいいタイミングで大学の後任が見つかった。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

地域医療に取り組むのはこれからが本番なので、まだまだ経験している現場としてのエピソードは少ない。

しかし、平成24年の6月に熊本大学の地域医療システム学の黒田先生が

主催でやってもらった「小国郷の医療をみんなで考える会」(http://public.main.jp/iryou.oguni/)に

参加して、いろんな方々の思いを吸収してその土地の医療を創り上げる事の

重要さを改めて実感した。

今までは、その土地の医療は医療従事者が提供するものだったのだが、

今後、田舎では、医療を創り上げるのは医療従事者だけではなく、

町の人と、そして、町の外の人(よそ者)。

土着の人だけで全てを創り上げるのはマンパワー的に、既に無理がある状況。

これを、町の内外の人達に理解してもらい、外の力を分けてもらいながら

医療システムを保つ事を、基本としなければならない。

実際現在、小国公立病院の内科医は、自治医科大学から

送ってもらった若い医師と、日赤からの3ヶ月交代の医師と、

臨床から10年以上離れていたジェネラリストとはかけ離れた医者(私のことです)。

今後小国の医療を守っていくべき土着の人は1人もおらず、

既に破綻しているのだが、それを実感している町の人は少ないのが現状。

Q⑦ 最後に一言お願いします。

数年前に小国に赴任しようと考えていた頃は、小国の医師の数が

不足しているからという単純な動機であったが、視野を広げて様々なものをみていくと、

小国と同様に医師と看護師の数がどんどん減っている地域がかなりの数あり、

この医師、看護師不足の問題は小国だけの問題ではなく、

県下で同時多発的におこってきており、現在進行中であることがわかってきた。

大学卒業後の医師の研修の制度が変わって、医局の枠組みも

昭和の時代と変わり、へき地や田舎の病院にドクターを派遣していたシステムが

保てなくなり、既に破綻を始めている。

今、病院で働いている医師が辞める事になった時に、

次の医師が見つからない可能性が高い病院が県下に複数見られる。

熊本県の地域医療、へき地医療が危機的な状況に陥る前に、

医師がうまく派遣される仕組みを作らなければ、複数の田舎の病院が、

閉鎖に追い込まれる可能性がある。病院がなくなるということは、

その土地の安心安全が保たれなくなり、その土地に住もうという人が少なくなり、

さらに過疎化が進み、いずれその町はなくなり、文化も消滅していくことになる。

熊本の地域の文化を守るためにも、最低限の医療が担保されていることは

重要であり、既に医療崩壊は、医療側だけの問題では済まなくなっている。

そういう意味では、医療を保つことは、町づくり、町おこしの一貫として、

重要な位置づけを占めることになる。

現状では、一旦小国に赴任したら、次の医者は自力で見つけるしか方法がなく、

その様な状況に飛び込んでくる医師が現れるかどうかは、

かなり微妙な状況。

そういう普通ではない医者が飛び込んでくるのを待つよりは、

特殊ではない普通の医者が数年赴任して、

次のところに移動できる仕組みを作りなおさないと、

今後の地域医療は萎んでいく。

具体的に必要なことは、

1)都会の医療とは異なる、その土地らしい医療を確立し、

その土地で医療に従事する事にやりがいを持たせること。

2)地域の取り組みを外部に公開し、評価されること。

3)医師を地域に送るシステムを確立すること。                              

1)の対策:小国郷だけではなく、田舎の地域は急速に高齢化が進んでいる。

人口ピラミッドをみると、都会で今後起こる高齢化が15年程先取りで起こっており、

すなわち、都会よりも15年早く高齢化に対する対策をしないといけない。

時代を先取りして高齢化社会に対応する医療を創り上げていく必要があるのは、

まず田舎からであり、そういう意味では現在の地域医療は先進医療である。

地域に根づいた、その地域らしい医療を町ぐるみでつくる為には、

小回りの効く、小さなコミュニティで試験的な試みをやっていく必要があり、

その試験的試みに対して行政がバックアップしていただく必要がある。

行き詰まりつつある地域を救うのは、よそもん、わかもん、ばかもん、と

よく言われるが、アイデアを行政が吸い上げ、そこに少額でもいいので

行政からの補助がでると新たに医師が赴任するインセンティブになる可能性がある。

2)の対策:生の地域医療の現場を発信する広報力が必要。

医師だけではマンパワー的にも発想力的にも困難。

事務方、看護師、薬剤師、検査技師、介護士、理学療法士、施設の職員

それぞれの現状を発信する必要がある。

ホームページやSNSなどで積極的に取り組みや情報を公開し、

ネットのコミュニティをうまく利用しながら、時にマスコミに取り上げてもらうことが必要。

マスコミに取り上げられるだけで、世の中からの見られ方が変わるし、

関わっている人のやる気も倍増する。自力の広報とマスコミの広報、両者が必須。

3)自治医科大学出身の先生と、地域枠の熊大医学部の出身のドクターが有力。

このドクターをうまく地域の医師として育て、循環させるシステムが必要(実は現状それがない)。

システムは、県と大学病院、県内の中核病院、地域がタッグを組んでつくる必要がある。

システムに加担する施設や人へのインセンティブを与える必要がある。

小国の事に限定すると、一緒に働いてくれる医師と看護師さんを募集しています。

小国らしい医療を一緒に考え、町の人達と一緒に地域を作って行きたい人、是非ご連絡を下さい。 

 

 

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熊本大学・柊中智恵子准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」。

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

7回目の講師は、

熊本大学大学院 生命科学研究部 環境社会医学部門 看護学講座 臨床看護学分野

准教授 柊中 智恵子先生です。

121217

Q お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前 : 柊中 智恵子

所属 : 熊本大学大学院 生命科学研究部 環境社会医学部門 看護学講座 臨床看護学分野

プロフィール

熊本大学医療技術短期大学部看護学科卒業  看護師免許取得

熊本大学法学部法学研究科法律学専攻修士課程修了(法学修士)

広島大学大学院保健学研究科博士後期課程在籍

認定遺伝カウンセラー取得(日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会)

現在、看護教員として勤務しながら、

熊本大学医学部附属病院遺伝カウンセリングチームで活動を行っている。

Q 柊中先生の専門である遺伝看護・遺伝カウンセリング」とは、

  どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

遺伝カウンセリングとは、遺伝や遺伝子についての問題や不安を

抱えている方に対して心理・社会的援助を行うものであり、

正確な情報をわかりやすく伝え、生涯変化せず血縁者にも影響を

与える可能性のある遺伝情報をどのように受け入れたらよいのか一緒に考えることです。

また、遺伝看護とは、遺伝カウンセリングに加えて、症状コントロールなどのケアも提供します。

遺伝看護・遺伝カウンセリングといっても、周産・小児・がん・神経難病といったように、

様々な領域がありますが、私の専門は主に神経難病です。

遺伝性疾患は、希少で難病が多く、これまで看護が光を当ててこなかった

病気が多いです。

私の研究は、遺伝性神経難病の当事者や家族の病気の体験が

どういうものであるのかを明らかにしていき、看護のあり方を考えることです。

そして、遺伝性疾患に関わる看護職が何をどのように難しいと感じているのか、

困っているのかを明らかにして看護職への教育内容を考えていくという研究を行っています。

Q 柊中先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

今から25年前になりますが、看護師として熊大病院に勤務していたとき、

家族性アミロイドポリニューロパチーという熊本県に多い遺伝性疾患の

患者様に出会いました。

手足のしびれと筋力低下で徐々に体が動かなくなり、激しい下痢で痩せていかれ、

発症して10年ほどでお亡くなりになるという病気でした。

多くの患者様が、子どもへの遺伝を心配しながら、心身ともに苦しんで亡くなっていかれました。

当時、私は、たった一つの遺伝子の違いで難病になり、

人生が大きく変わることに衝撃を受け、どんな看護をしたらよいのか悩みました。

そのような時に、この病気の患者会の会長と出会い、地域社会での

病気の現実を教えていただきました。

熊大病院は、世界的にも、この病気の病態解明・診断・治療の

最先端の医療がされていましたが、自分は看護師として

何かできることがあるのではないかと思い、この病気の看護の研究をきっかけに、

遺伝性神経難病の看護の研究を始めました。

ちょうど大学院で学んでいたときに、日本にも遺伝看護学会ができ、

遺伝看護を学ぶ機会ができたことや日本人類遺伝学会・日本遺伝カウンセリング学会で

認定遺伝カウンセラー制度が出来たことで、資格を取り、

看護実践と研究をつなぐ研究が出来るようになりました。

Q これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

これまでに、いろいろな遺伝性の希少難病の患者様やご家族に出会ってきました。

皆様に共通していることは、遺伝についてどんなに深く悩んでおられても、

人は逞しく生きる力を持っているというということです。そのことに尊敬の念を抱きます。

家系の中に、何人も同じ病気の患者さんがおられます。

親が病気と闘って生きる姿を小さきときから見て育ってこられ、

自分が大人になると親と同じ病気になるかもしれないと自分の未来を恐れていても、

皆さん自分の人生を必至に生きておられることに心を打たれています。

私にできることは、一緒に悩み考えることや、考えを整理するお手伝いをすることだと思っています。

Q 最後に一言お願いします。

熊本大学医学部附属病院には、今年2月に遺伝カウンセリングチームが出来ました。

神経内科の安東由喜雄教授をチームリーダーとして、

臨床遺伝専門医の小児科の三渕浩先生、 産婦人科の大場隆先生、

看護職の坂井さん、中村さん、坂口さん、今井さん、

そして様々な診療科の医師たちで構成されているチームです。

活動は始まったばかりでありますが、これから少しづつ活動内容を充実させて

いきたいと考えています。

遺伝についての悩みは、「墓場まで持っていく」と誰にも相談できずに悩んでおられたり、

間違った遺伝の知識で不安になっておられたりすることもあります。

遺伝的な不安や心配、問題を抱えておられる方に対して、

医師・看護師・認定遺伝カウンセラーというチームで、

ゆっくりと時間をとって対応していくことができますので、

不安や心配があれば、相談していただきたいと思います。

 

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熊本大学・秋元和實准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまなジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

第6回目の講師は、熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター秋元和實准教授です。

「海洋環境学・海洋地質学」について詳しく伺いました。

121210

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前:秋元和實

所属:熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター

プロフィール

1989年1月25日 東北大学大学院理学研究科地学専攻博士課程後期課程修了 (理学博士)

1990年4月1日 名古屋自由学院短期大学講師

1994年4月1日 名古屋自由学院短期大学助教授

1998年10月1日 熊本大学理学部講師

2001年4月1日 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター助教授

2007年4月1日 熊本大学沿岸域環境科学教育研究センター准教授

現在に至る

Q② 秋元先生の専門である「海洋環境学・海洋地質学」とは、

 どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

地球表面の70%を海洋が占めています。

水深は11000mに達し、熱帯から極地域までの温度差があり、

温度、塩分、酸素濃度、pHの違いにより多様な環境が形成されています。

海洋環境学は海洋が有する多様な環境を調査研究する学問で、

海洋学、地球物理学、地球科学、生物学などの諸分野と関連を持つ総合科学です。

私は、沿岸域の環境再生に向けて、顕微鏡で鑑定するような小さな化石と

最新の年代測定法を用いて、年単位の環境変化を捉えて、

環境悪化が始まった年代と場所を明らかにしています。

さらに、津波被害のリスクが高い沿岸域の防災・減災対策強化に向けて、

東日本大震災の被災地で、世界最先端の水中ロボットや

音響解析システムを用いて海中や海底を詳細に観察して、

地形・底質に関する情報を収集し、復興事業への情報提供とともに

基礎資料を整備しています。

これは、熊本大学と国立大学協会の共催事業として、実施しています。

Q③ 秋元先生がこの研究に取り組むことになった

 「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

大学で地学を選んだきっかけは、小学校6年生の野外実習で、

小さな2枚貝の化石を採集したこと。

中学3年生の時に開催されていた「日本列島展」で、多様な化石の美しさに惹かれて。

大学で化石を勉強するきっかけは、入学試験の身体検査で色覚異常が見つかり、

理学部の岩石学の顕微鏡実習でも多色性のある造岩鉱物の鑑定ができなかったため、

化石は形で鑑定するのでハンデキャップにならないため。

原生生物の化石を研究するきっかけは、卒業論文で貝化石を研究しようと

思っていたが、卒論指導の先生からセンスがないといわれたから。

別のテーマを探すことになり、高校の地学部で、何気なく顕微鏡で覗いた

「星の砂」の仲間である有孔虫の造形的美しさが心に残っていたから。

中途半端はいやだから、日本で最も原生生物の化石を研究している

東北大学の博士課程に編入した。

海の研究をするきっかけは、博士論文で日本列島に伊豆半島などが衝突して

現在の地形が形成している過程を復元する時に、

深海に生息する有孔虫の分布のデータがなかったため。

そのとき、熱水、冷水、超深海などの極限環境に生息する有孔虫も研究するようになった。

浅海の研究をするきっかけは、沿岸域環境科学教育研究センターで、

有明海・八代海を対象に環境を扱うようになったため。

現在行っている音響解析システムとロボットで海の環境を調査するきっかけは、

生物の多様性を研究する上で、海の環境は複雑であり、

3次元空間で連続した環境情報を短時間で取得することが必要なため。

Q④ 「海洋環境学・海洋地質学」の学問的にみると、

 「熊本県」とはどういう特徴がある地域ですか?

東シナ海は、1.8万年前以降に海水面が上昇して、現在に至っています。

この結果、ムツゴロウなど国内では希少ですが、中国沿岸と共通性が高い生物が、

有明海と八代海に生息しています。

また、6mに達する干満差と全国の干潟面積の半分を占める

広大な泥干潟が分布します。

大きな干満差と広大な泥干潟は、日本では独特ですが、

世界ではオランダやカナダにもあります。

さらに、閉鎖性の強い有明海と八代海の沿岸には、

多くの人が生活しています。

海の自然環境に対する陸域の社会活動の影響評価は、

世界的に注目を浴びつつあります。

陸域と海域の環境が相互に影響し、

世界と共通の自然環境を有する有明海や八代海は、

ユニークな研究が可能な海といえます。

Q⑤ これから、海と人間の関係は、どんな風になっていくのでしょうか?

 また、どんな風になればいいとお考えですか?

日本は海に囲まれ、多くの人は沿岸に生活しています。

南北に延びる日本列島の沿岸を黒潮と親潮が分布し、

気候は亜熱帯から亜寒帯に及びます。

多様な海洋環境が、日本各地にある様々な魚料理を育んできました。

食文化にかぎらず、各地の気候や風土は海の影響を受けています。

日本は海の恩恵を受けていますが、海について教育する機会は極めて限られています。

海洋について教育する機会が増え、海を身近に感じる社会、

海洋研究の重要性が理解される社会になることを希望しています。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

東北の漁民の我慢強さと写真の価値

気仙沼湾の養殖施設も津波で壊滅したが、流された部材を回収して、

さらにペットボトルなどを利用して、ワカメや牡蛎の養殖を再開したこと。

また、津波で800隻以上の船が被災し、使用できる船が40隻しか残らなかった。

漁民のみなさんが1隻の船を時間で分けて養殖作業をしている状況にもかかわらず、

災害調査のために漁場監視船を長期間使用させていただいたこと。

気仙沼水産試験場はホヤの養殖再開に向けて種になる野生のホヤを探していた。

4月下旬にロボット調査で群れをなす野生のホヤの映像が得られたことで、

ホヤの生殖時期が冬季に限らないことが判明した。

私にとって何気ない1枚の写真が、養殖事業者にとって重要な事実を

含むことを教えられ、改めてロボット観測の重要性を認識した。

Q⑦ 最後に一言お願いします。

熊本大学は、国立大学の一員として多様な社会貢献をしています。

東日本大震災への対応としても、医療班の派遣や救援物資、

義援金の送付を行ったほか、熊本大学で行っている研究等の中から、

震災復興、日本再生のために貢献できる分野をとりまとめてリストを作成し、

ホームページで公開しております。

今回の震災後の調査は、災害復旧や環境再生のために調査研究が

必要となった自治体や漁業組合が本学のホームページを調べて、

学長に直接依頼があり、熊本大学と国立大学協会の共催事業として

実施しているものです。

来年度まで震災復興・日本再生事業として瓦礫の分布を調査しながら、

東北マリンサイエンス拠点形成事業(文部科学省補助事業、

代表機関:国立大学法人東京海洋大学産学・地域連携推進機構)において、

石油タンク等から流出して気仙沼湾に堆積している重油の除去事業を実施します。

また、有明海と八代海の環境調査も行っていきます。

有明海・八代海を含めて、日本の沿岸・浅海域では様々な環境問題や

海象災害が発生しています。

災害復旧や環境再生に向けた調査研究が必要な時は、ぜひ大学にご相談ください。

 

       

 

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熊本大学・川井敬二准教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまなジャンルの研究テーマについて

お話をうかがっています。

第5回目の講師は、熊本大学 大学院自然科学研究科 人間環境計画学講座の川井敬二准教授です。

「建築音響学」について詳しく伺います。

121203

 

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前:川井敬二

所属:熊本大学 大学院自然科学研究科 人間環境計画学講座 (工学部建築学科)

プロフィール

昭和41年生まれ、愛知県出身

平成8年3月 東京大学大学院工学系研究科建築学専攻博士課程 修了、学位:博士(工学)

平成24年2月熊本大学 大学院自然科学研究科 准教授

専門分野:建築学の中の、建築環境工学の中の、建築音響学

       ここ3年ほど「保育園の音響設計」を主なテーマとして研究を進めている。

所属学会: 日本建築学会、日本音響学会、日本騒音制御工学会、

        こども環境学会、日本サウンドスケープ協会(常務理事)

Q② 川井先生の専門である「建築音響学」とはどんな研究ですか?

建築学科の中に「音」の分野があることは知らない方も多くおられますが、

普段の生活を思い浮かべると、たとえばマンションでは「上の階の足音がうるさい」など、

騒音が気になることも多いと思います。(住んでからの苦情件数では「音」の問題が一番多いといいます)

こうした騒音の問題は音が伝わりにくい床や壁、窓を設計することで

防止できるわけで、建築の設計でも音のことを考慮することは大変重要です。

建築音響の分野は大きく「騒音防止計画」と「室内音響計画」という

二つの柱から成り立っています。

「騒音防止計画」はいま説明した騒音防止のための技術ですが、

音は「波動現象」なので、よくわかっていないと間違った対策をとってしまうことがあります。

最近省エネに関連して普及しているペアガラスは、ガラスが2重なので音も通りにくそうですが、

実際には2重になることで共振が起こって、1重よりも音が通りやすいものになっています。

またアパート・マンションでの子供の飛びはね音の対策として

「防音マット」なるものが市販されていますが、

フェルトやゴムのようなマットは実は飛びはね音にはほとんど効果がありません。

「室内音響計画」は音楽や会話など室内で出される音をよい音で聞くために、

主に吸音材(音を吸収する材料)を用いて「響きを調整」することに関する研究分野です。

コンサートホールの音響設計は室内音響計画の花形といえますが、

響きの調整はコンサートホールだけではなく、駅や空港(アナウンスを聞こえやすくする)、

教室・講堂・ラジオスタジオ(スピーチや会話を明瞭にする)、

そして今回の保育園などでの喧噪感の緩和効果など、

様々な空間をより快適なものにするために重要な設計項目といえます。

Q③ 川井先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

ここ数年ほど、研究テーマとして「保育空間での吸音の効果の検証」、

つまり保育園の室内音響計画をメインに取り組んでいます。

室内音響計画は、現状ではコンサートホールなどの演奏空間や

音楽室・オーディオルームといった「特別な空間」での設計項目にとどまっているのですが、

もっと一般の方々にもその価値を知ってもらえるような新たな対象や、

そこで効果を実証する機会を探してきました。

対象としては、居酒屋やカフェなども想定していましたが、保育園はそうした中で、

以下に説明しますように、吸音が最も有効な空間ではないかと考えていました。

ここで保育園での吸音の現状について説明しますと、建築設計で吸音の必要性が

取り上げられることはほとんどなく、設計の基準やガイドラインも日本には存在しません。

これに関する研究も、騒音の実測例はいくつかあるのですが、

実際の保育園で吸音の効果を検証した例はこれまでありません。

ところがそうした実測例を見ると、保育園の保育室は子どもたちの活発な

発声のために大変にやかましい空間といえます。

(平均85デシベルという、労働環境の許容基準に匹敵する数値の報告例もあります)

また乳幼児はまだ言葉の発達段階にあるので、

部屋の響きや騒音の中では言葉がよく聞き取れないという研究例があり、

このことはWHO(世界保健機構)の騒音ガイドラインにも記載されています。

(これは私たちが英語を聞き取る時に、機内放送など騒音の中では普段以上に聞き取れないのと同じです)

保育園は乳幼児が一日の大半を過ごす場所で、

それが音の面で劣悪な環境であることは、健康面、情緒面、発達面でも

大きな問題なのではないかと思われます。

こうした中で、熊本市内のひとつの保育園で、自由に実験をしてもよい、と

園長先生に言っていただけました。

小さい子どもがいる現場での実験はなかなか実現しないので、

これはありがたい申し出でした。

それで、できる限り危険や悪影響のないように、吸音材はよく用いられる

グラスウールではなく寝具にも使われるポリエステル製のものを用いて、

吸音の効果をみる実験を開始しました。

Q④ 「室内の音響計画」について、保育園以外にも具体例があれば、いくつか教えてください。

音響設計(響きの調整)については、クラシックのコンサートホールのように

必ず行われる空間から、保育園のようにほとんど行われない空間まで

程度の違いがあります。

私自身は小ホール、会議室、保育園、小学校教室の音響計画に

関与したことがあります。以下、音響計画が望まれる空間について、

実施される程度をざっとまとめてみます。

・必須: コンサートホール、講堂、音楽室、テレビ・ラジオ・録音スタジオなど。

・比較的一般に定着している空間: オフィス、会議室、体育館など。

・広まりつつある空間: 空港、駅(地下駅やコンコース)、学校教室など。

・まだ例が少ない空間: 保育室、病室、高齢者のための空間、レストラン、学校の廊下など。

響くのが気になる空間は他にもあるかと思いますがいかがでしょうか?

駅でいえば、熊本駅はまだ行っていませんが、福岡の地下鉄では新しい七隈線のみ、

どの駅も天井やホーム壁などに吸音材が使われており、

アナウンスがはっきり聞こえる落ち着いた空間となっていると思います。

Q⑤ どんな「音響設計」の室内空間を、人間は心地よいと感じるのでしょうか?

 (なんとなくですが、完全に無音のような音楽スタジオのような空間は

 ストレスを感じるような気がします…多少の音がある空間のほうがリラックスできるような。)

「心地よさ」という場合は、部屋の響きよりも周囲の音の大きさの方が重要でしょうが、

たしかに静かすぎても落ち着かない、というのはあると思います。

熊本大にも音響実験室として「無響室」というのがあり、それは扉を閉めると

外の音はまったく聞こえず、中で音を出しても一瞬で周囲の吸音壁に吸い込まれる、

という特殊な空間です。

初めて無響室に入った人はみな「なにこれ」「すごい違和感」「気持ち悪い」など、

とにかく驚いてもらえます。 音楽スタジオもそれに近いですね。

質問に戻って、不快な音環境といえば、「やかましい」「上の階の足音が気になる」など

騒音に関することや、ご指摘の「静かすぎて閉鎖的」といったシーンで

意識されることが多いでしょうが、音環境的に心地よい室内空間、というものは

なかなか意識されることがないと思いますがいかがでしょうか?

音はしばらくすると慣れてしまう。その慣れる範囲(許容範囲)はかなり広く、

良好な音空間からかなり不快な音空間まで、場合にもよりますが、

時間進行とともに意識されなくなることが多いと思います。

今回の保育園のように大変にやかましい空間でも、

「やかましいのが当たり前」で気にしたことがない、という声もはじめはよく聞かれました。

だからといってその状況が快適とはいえず、私としては、多くの方に快適な音環境を

体験してもらい、その心地よさを実感してもらえたらと思っています。

個人的にですが、住宅の居間のような空間を想定すると、

「心地よい」音空間とは「サウンドスケープ」を楽しめる空間だと思います。

それは、窓を開けても不快な音が入ってこない、その上で、季節ごとの

虫や鳥の声、雨風の音など、外界と室内が音でつながっていて、

それを感じることができる空間、というところです。

「サウンドスケープ」(音のランドスケープ、音風景)とはカナダの作曲家シェーファーが

1960年代に提案した造語ですが、快適な音空間づくりのよいキーワードだと思います。

Q⑥ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

最初の実験で、保育園の天井に吸音材を取り付けて、

先生方には「部屋が響かなくなってよかった」 と言ってもらえることを期待していたら、

仮設後1ヶ月くらいでの聞き取り調査では

「最初はびっくりしたけれどそれほど気になりませんから大丈夫です」という、

響きとは関係ない回答ばかりでした。

自信のあった研究テーマだけに、ここでだめだと音響設計はいつまでも

オーディオマニアの方くらいにしか振り向いてもらえないのかと、力が半分抜けました。

そうしたら、3~4ヶ月すぎて改めて現場での聞き取り調査を行ったところ、

「よくなった」「この(吸音のある)部屋は落ち着く」などなど、先生だけではなく

保護者の方々にもかなり好評な様子。

私の方も研究のテーマ設定が間違っていなかったことを実感しました。

その後も、条件設定を変えて吸音材を取り外した保育室の担当の先生から、

吸音材がなくなって(大声を出すことが増えたので)1週間で喉を痛めたという話も聞かれ、

また室内の騒音レベルも明らかに下がるという実測結果が得られるなど、

吸音の有効性を実証することができたと思います。

(園児の保護者に新聞記者の方がいて、記事の記事になりました。)

Q⑦ 最後にひとことお願いします。

吸音材というのは昔から製品もかなり市販されているもので、

とくに新しい技術ではありませんが、日常空間でのその効果

(喧噪な空間での響かないことの快適さ)はほとんど知られていません。

よく「声が響いてやかましい」といいますが、大半は「声が響く」というより

「部屋が響く」のであって、建築的に対策すればそれはかなり緩和できます。

やかましいことが当たり前、と思わないで、もっと快適な空間が手近に

実現できることを知っていただければと思います。

今後は保育や幼児教育の場の吸音設計のガイドラインづくりを通した

普及に努めるとともに、まだ検証されていない他の空間にも手を広げていきたいと思います。

そのひとつが高齢者のための空間で、耳の遠くなった方、補聴器を利用されている方にとって、

空間の響きは言葉の聴取を大きく妨げます。

(この点、高齢者は幼児とともに響きの影響を受けやすいグループといえます)

たとえば高齢者福祉施設の談話室などで、やはり耳の遠い方がおられるせいか、

テレビがかなり大きな音量で流されている場面が多いと思います。

そうなると在室者同士の会話もできなくなって、

コミュニケーションを大きく損ねることになります。

少子高齢化が進む現代社会において、子どもたちやお年寄りの

健康で快適な生活のために、音響設計は大きく貢献できるのではないかと考えています。

 

        

 

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熊本大学教育学部付属小学校・川野美智代先生を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがいます。

第4回の講師は、熊本大学教育学部付属小学校の川野美智代先生です。

「食育」について詳しく伺います。

121126

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前:川野 美智代

所属:熊本大学教育学部附属小学校

プロフィール

相模女子大学学芸学部食物学科卒

(財)学校福祉協会栄養部部長

熊本大学医学部附属病院栄養管理室(管理栄養士)

熊本大学教育学部附属特別支援学校(栄養教諭)

現熊本大学教育学部附属小学校(栄養教諭)

(国立大学附属学校栄養教諭・栄養士会会長)

熊本大学教育学部生涯スポーツ福祉課程研究生修了

Q② 川野先生の専門のテーマについてわかりやすく教えてください。

「食育」全般です。 現在は、児童を対象に食に関する指導や栄養教育、

教科と絡めた食に関する指導等の実践研究を主に行っています。

また、スポーツ栄養、臨床栄養、発達障害児の栄養などにも携わっています。

Q③「食育」とは?この言葉を初めて聞く人にもわかるように、

 わかりやすく具体的な説明をお願いします。

平成17年に「食育基本法」が施行されました。

国・地方公共団体及び国民の食育推進の取組を総合的かつ

計画的に推進するための法律の制定です。

現在、主に私が取り組んでいる「食育」は、教育の場での食育推進となります。

いわゆる、学校における食育です。

学校における食育は平成17年4月「学校教育法等の一部を改正する法律」の施行により、

知育・徳育・体育の基礎となるべきものであるという位置付けでスタートしました。

その背景には、近年、食生活を取り巻く社会環境の変化に伴い、

子どもに食生活の乱れや健康に関して懸念されるところであり、

また、増大しつつある生活習慣病と食生活の関係も指摘されています。

特に成長期にある子どもにとって、健全な食生活は健康な心身を育むために

欠かせないものであると同時に、将来の食習慣の形成に大きな影響を及ぼすもので、

極めて重要です。

また、子どもの頃に身に付いた食習慣は大人になってから改めることは

非常に困難なことです。

このため、成長期にある子どもへの食育は、「生きる力」の基礎となる

健康と体力を育むほか、食を通じて地域等を理解することや

失われつつある食文化の継承を図ること、自然の恵みや勤労の大切さなどを

理解することが重要となってきています。

このようなことから「食育」がスタートし、

平成23年3月には、第2次食育推進基本計画も内閣府より、

基本概念として「周知」から「実践」へと出されています。

Q④ 小学校での「食育」の学習は、どんなかたちで行われていますか?

学校においては、「食育」の年間全体計画・年間指導計画を作成して、取り組んでいます。

主に、学校給食を生きた教材とし、各教科、道徳、特別活動、

総合的な学習、学校行事等と絡めた食育を行っています。

本校においての年間計画では、主に低学年は体験学習を行い、

畑で野菜を育て収穫し、給食で全校児童に食べてもらうなどと、

多様な体験学習を行います。(感謝の心・食事の重要性・社会性等を学びます。)

中・高学年は、教科や特別活動、行事などと絡めて、学習します。

(例) 国語科 3年 「すがたをかえる大豆」の学習との関連

子どもたちは、大豆からできている食材を学習し、

人々の知恵を伝える文章を学習しています。

そこで食育と関連づけ、毎日食べている給食の「うまみのひみつ」を食育として学習します。

今回の国語科は、先人が伝えてくれた、うま味のもと、世界一硬い食べ物、

「かつお節」についての授業を行いました。

2つのみそ汁(だし有・だし無)を飲み比べさせ、その違いについて、

意見の交流を行い、給食に使われている、うま味のひみつを学習していきます。

そして、かつお節の製造過程を知り、「すがたをかえる魚」として

子どもたちに新たな知識が加わります。

この授業からは、食文化や食品を選択する力、感謝の心などへと

導くことができます。

このように、他の教科等においても、新たな知識から実践できる

子どもへと成長を願いつつ、食育を行っています。

担任の先生との連携が大切で、子どもたちが、興味をもち、

楽しく食育ができるように心がけています。

Q⑤ 川野先生がこの活動に取り組むことになった

 「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

二十数年前、某体育大の新体操部の栄養サポートに関わる機会がありました。

当時は、スポーツ栄養という言葉も一般化されていませんでした。

スポーツ栄養の知識もなく、先輩の言うがままでの仕事でしたので、

楽しさを感じることができませんでした。

そのようななかで、臨床栄養の場での経験が必要と感じておりました。

縁があり、本大学の附属病院で臨床栄養を学ぶ機会をいただき、

病院での経験から附属学校園での食育に携わり、

スポーツ栄養を柱に楽しく学ばせていただきながら研究を行っています。

Q⑥ 「スポーツ栄養」に関する具体例をお願いします。

健康の維持・増進、競技力向上のためのスポーツを行っている人は、

常に体をベストな状態にキープすることが重要です。

アスリートの強靱な体を作り上げているのが毎日の「食事」です。

意外に感じるかもしれませんが、多くの研究から、食事の質により、

トレーニングの効果やコンディションを左右することが明らかになっています。

例えば、いつもの練習や運動でも疲れやすい、だるいと感じるときは、

貧血ぎみが考えられますから、鉄分を多く含む食事が必要ですし、

疲れやすいという場合はビタミン不足の可能性もあります。

適切で十分な栄養素の摂取が欠かせません。

体づくりやスタミナづくりの栄養・食事、水分補給、

運動や試合前後の栄養・食事、といったように、、状況に応じた栄養・食事が大切です。

また、本校の児童のように成長期のスポーツ選手にとっては、練習も大切ですが、

栄養摂取が同じように重要です。筋肉や骨格など、

体の基礎ができていることが大前提です。

毎日の食事で発達段階に応じた、必要な栄養所要量をしっかりとるということが一番大切です。

食事の内容の偏りや欠食が栄養バランスが崩れて発育に影響を及ぼします。

本校では、このようなことから、「運動と食事」の関係について、

4年生から学習を取り入れています。家庭との連携で、

体を構成する3大栄養素の働きや食事のバランスの大切さなどを

特別活動を通して、行っています。

「食べることは、健康に過ごすためのトレーニング」を、子どもたちに指導しています。

Q⑦ 小学生に「食」の大切さを学んでもらうのは、大変だと思います。

 例えば、最近では成長期なのに美容のためにダイエットする小学生が少なくないと聞きます。

 そんな子供たちには、どう説明し、説得しますか?

食育の必要性においても、子どもの増大する生活習慣病や過度な痩身志向は、上げられています。

成長期のダイエットについては、子どもたちの痩身を、早期に察知することが、

未然に防ぐ事となります。しかし、なかなか難しいことです。

学校においては、保健の先生との連携も必要となります。

ダイエットで、痩せてきているのであれば解決に向けて、早期に個別の指導が必要です。

家庭との連携が大切で、ダイエットの要因を掴み進めて行きます。

間違ったダイエットを防ぐためにも、食育は、できるだけ早い時期から必要です。

「私たちの体は、食べものから作られています。」の学習を、しっかりと理解させる必要があります。

個別の指導が必要となった場合は、くり返し、カウンセリングを含んだ食の指導を、

保護者と連携して行います。

どの段階で、どこまでの指導が必要であるか、タイミングをはかり、

指導を入れていきます。

本人に必要な栄養摂取量を示し、実際の摂取量を知らせる。

その栄養で、自分の体が作られている。

間違ったダイエットを行った場合、どのように健康を損なうか。

などの指導をくり返し行って、要因にもよりますが、食べることへの不安を除きながら進めていきます。

周りの環境や保護者の協力が必要不可欠です。

Q⑧ ある意味「食」のプロである川野先生ご自身は、

 普段、どんな食生活を送っていらっしゃいますか?

 忙しい私たちでも参考になるような具体的アドバイスがあればお願いします。

私自身は、できるだけ休日に、まとめて常備食を作って、ストックしておきます。

一般的な金平ごぼう、ひじきの煮つけ、あえもの、

野菜の煮物などといったような、少しだけ、手間暇かけたものでしょうか・・・

そうすると、仕事から帰ったら、主菜と汁物くらい作ればそれでバランスは、何とか整いますから。

後は、長い間つき合っている自分の身体の声を聞きながらの、必要に応じた食生活です。

料理が苦手な人には、嫌われるかもしれませんが、台所が私のストレス解消場です。

これから、冬野菜がおいしい季節ですから、たっぷりと冬野菜のおいしさを楽しみます。

Q⑨ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

子どもたち相手の仕事ですから、毎日がサプライズでエピーソードといったところです。

また、節目節目での人との出会いには、エピソードがあり、感謝です。

特に、附属特別支援学校での子どもたちとの出会いは、人生観が変わりました。

純粋な瞳の全校児童生徒の、一人一人の栄養管理を、

保護者や先生方との一丸とした連携で行い、すばらしい食育や研究ができました。

感謝いたします。

現在は、本校の愛しい子どもたち、何事にも協力的な保護者のみなさん、

積極的で一生懸命に取り組む先生方と一緒に食育途上中です。

Q⑩ 今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。

力及ばずながら、毎年8月に、大学で「食育」の公開講座を開講しております。

実践研究報告や専門分野の先生方の講義を含めて、速、実践に役立つ講座です。

食は生きていく上で必要不可欠で、呼吸と等しいことのように思います。

コツコツと食育の種を蒔き、日々、精進です。

 

 

 

 

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熊本大学・田中朋弘教授を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがいます。

第3回の講師は、熊本大学文学部総合人間学科の田中朋弘教授です。

倫理学について詳しく伺います。

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Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前 : 田中朋弘

所属: 熊本大学文学部総合人間学科

プロフィール

1966年福岡県北九州市生まれ、福岡県立小倉高等学校卒業、

大阪大学文学部卒業、大阪大学大学院文学研究科博士課程単位取得退学、

博士(文学)大阪大学。琉球大学法文学部講師、助教授を経て、

2004年より熊本大学助教授、2007年より同教授。

専門は哲学・倫理学、主な著書に『職業の倫理学』(2002年、丸善)、

『文脈としての規範倫理学』(2012年、ナカニシヤ出版)、などがある。

○田中研Web: https://sites.google.com/site/rinritanaka/

○熊大通信によるゼミ紹介:http://www.kumamoto-u.ac.jp/daigakujouhou/kouhou/kouhoushi/kumatu/vol_44_file/KT44_11-12.pdf

○哲学ラジオによる紹介:http://philosophy-zoo.com/archives/2232

Q② 田中先生のご専門は、どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

私が専門とする研究分野は、倫理学です。

倫理学は哲学の一部門で、私たちが日常的に行っている倫理や道徳にかかわる

価値判断について、哲学的に考察する学問です。

哲学というのは、私たちの身の回りにあることすべてを対象として、

当たり前さの裏側にある対象の性質について考える学問と説明できます。

例えば、私たちは時に、自分自身がイメージする自分と、

他人の自分に対するイメージのギャップに気づいて、

「自分らしさ」や「本当の自分」って何だろうと考えることがあります。

そういう問いは「私」とは何かということ、つまり自分という存在の性質について

哲学的に考え始めていることになります。

哲学はこのように、自分の内側と自分の外側である世界について、

様々な問いを立てることができます。

そうした問いのうち、倫理や道徳と呼ばれる人間の関係性について

明らかにしようとするのが倫理学です。

私は、倫理学の中では、大きく分けて二つの領域に関心があリます。

ひとつは、規範倫理学と呼ばれる、倫理的価値判断の基準についての

理論的研究です。

私自身は、イマヌエル・カントという哲学者の倫理学説を博士課程で研究したのですが、

規範倫理学はカントの倫理学も含めて、様々な倫理学者の理論の妥当性を検討します。

これに関する研究成果として、先月、『文脈としての規範倫理学』(ナカニシヤ出版)という本を出しました。

もう一つは、応用倫理学と呼ばれる分野で、これは1970年代頃から活発になった

比較的新しい研究領域です。

応用倫理学では、生命倫理や環境倫理、情報倫理やビジネス倫理、

科学技術者倫理または工学倫理など、具体的な文脈における倫理問題を検討します。

応用倫理学の分野で私は特に、ビジネス倫理学に関心があります。

ビジネス倫理学では、例えば、最近ではCSRと言われる企業の社会的責任論や、

働くことをめぐる企業と社員の問題や、内部告発の問題など、

ビジネス活動に関わる様々な倫理問題を扱います。

あるいは、近年はビジネス倫理学の中では、専門職倫理に関心を持って研究を進めています。

Q③ 田中先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

特にこれというような目立ったきっかけと言えるようなことはないのですが、

中学生の頃から、少し世の中を斜めに見るようなところがありました。

特に、感情のコントロールができない大人が嫌いで、大人であるというだけで

なぜあんなに偉そうにしているのかと、少し軽蔑しているところもありました。

今から考えると、まあ反抗期というか、生意気だったのだと思います。

そんな状態ですから、その当時の担任の先生から、

お子さんは将来学生運動などに走る可能性があると注意されたそうです。

その話は、20年くらい後になってに知ったのですが・・・。

その頃に何を考えていたかは大方覚えていないのですが、

「人はなぜだれかを好きになるのだろうか」というようなことを考えていた、ように記憶しています。

哲学をやろうと思ったのは、大学で三年生に進学するときで、

それまではどちらかと言えば文学をやろうと思っていました。

ところがその頃よく読んでいた、カフカやドストエフスキーなど、

少し思想がかった文学作品を専門にやるところが私のいた大学の文学部には

見当たりませんでした。

また、国文科では古典文学しかやってないことも分かったので、

むしろ思想そのものをやろうと思って哲学科に進学することにした

というのがきっかけです。

そういう意味では、最初から哲学倫理学を積極的に選んだ

という感じではなくて、少し成り行きのようなところがあります。

学部学生の頃に、随分上の大学院の先輩から、

「君のその「らしくなさ」がいつまでつづくか楽しみだ」と言われました。

恐らく未だに「らしくない」と思いますが、哲学的に物事を考えることは嫌いではなく、

むしろ好きなので、あまりこだわりはありません。

普段は大型オートバイで通勤していますが、オートバイを運転しているときに、

アイディアがひらめくことも割と多いです。

走行中はメモが取れないのが難点です。

哲学という学問は抽象的ではあるのですが、ある意味では対象に

限定がないとも言えるので、幅広い好奇心が必要だと思います。

Q④ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

2001年から2002年にかけてアメリカのボストン市へ留学をしましたが、

その最中に、同時多発テロが起こりました。

それ以降市内は一種の戒厳体制のようになり、生活上もいろいろ不便もあったのですが、

いろいろなことを否応なしに考えるきっかけにはなりました。

『職業の倫理学』(丸善)という最初の単著の依頼は、

この年の夏にボストン滞在中に受けたもので、原稿のほとんどはボストンで書きました。

八ヶ月ぐらいは、ほとんど朝から晩までこの仕事ばかりやっていたので、

あまり遊びに行ったりはしていないのですが、

この本は、アメリカと同時多発テロという二つの要素の影響を

大きく受けてできたものだという点では、個人的に印象深いところがあります。

この本は、自分の親でも読めるようなものを、というコンセプトで書いたこともあり、

比較的読みやすいところを受け入れていただいたと思うのですが、

関東の中学受験の進学塾からこの本の一部使用願いが来たときには驚きました。

問題文としてそれを読んでいるのは、小学校6年生ということになるからです。

さすがにその年齢まで考えて書いたわけではないのですが、

しかし確かに、小学生だから哲学的に考えることができないわけではありません。

むしろ反対に、本来は子供の方が、哲学的な問いに近いところにあると考えるならば、

そうした方向のアプローチも、もっとやるべきなのかと思ったりしました。

Q⑤ 今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。

研究そのものとしては、あまり派手なところはなく、基本的には、

哲学的なテーマについて考えて、それを論文や本にして公表していくということになります。

それらはすこし専門的なものになりますが。

他方では、大学では倫理学の教師として授業も行っていますので、

そうした内容をなるべく分かりやすく、実感をもって考えることができるように

指導するよう、努力しています。

少し前になりますが、働くことと倫理の関係について『職業の倫理学』(丸善)という本を出版しました。

これは大学入試などの問題文にわりと使われたりしたので、

それなりに読みやすいものになっていると思います。

また、 『文脈としての規範倫理学』(ナカニシヤ出版)を最近出版しました。

これは、規範倫理学理論を分析した入門書です。

様々な点で先が見えにくい状況があり、他方で情報が錯綜して

どれを信じたらいいのか分かりにくい現代ですが、そうした状況だからこそ、

哲学・倫理学的に根本からものを考えることの重要性は増しているように思います。

昔をご存じの方からすると、難しい哲学書をとにかく訳も分からず

読まされるというイメージあるかもしれませんが、

現実との対応を考えながら哲学的に考えることを重視して授業をしています。

たとえば、冬学期の授業ではニーチェの『道徳の系譜学』という哲学書を

13名程度の学生さんたちと読んでいます。

今時、こうした本を読もうという学生さんがまだこれだけいることを、

非常に頼もしく思っていますし、苦労しても哲学者と共に自分で考えることは、

必ず、自分を育てることに役立つと確信しています。

 

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熊本大学・根本淳子先生を迎えて

あらゆるジャンルの注目の人にインタビューする「ヒューマン・ラボ」。

3ヶ月間にわたってスペシャル企画でお届けしています。

題して「FMK Morning Glory ヒューマン・ラボ 熊大ラジオ公開授業・知的冒険の旅」

毎回、熊本大学の先生を講師に迎えて、さまざまジャンルの研究テーマについて

お話をうかがいます。

第2回の講師は、熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻

助教 根本淳子先生です。

121112

 

 

Q① お名前と職業・所属を教えて下さい。

名前:根本 淳子

所属:熊本大学大学院 社会文化科学研究科 教授システム学専攻
                          
プロフィール                                                     

一般企業に6年間勤務した後、岩手県立大学にて研究員として約1年間勤務しました。

その後、日本で初めてのeラーニングの専門家養成をeラーニング(遠隔)で

提供する大学院が2006年(平成18年)に熊本大学で設置されることになり、

開設前年度10月から熊本大学に勤務しています。

Q② eラーニングについて説明をお願いします。

eラーニングとは、コンピュータなどのIT技術を用いて学習することです。

自宅にあるPCを使ってインターネット経由で勉強することができます。

これによって、より多くの人に学ぶ機会を提供することができます。

私が所属する大学院の学生は、熊大に来て授業を受けるのではなく、

自宅で勉強して単位を取得しています。

そのため、学生の多くは熊本県外に在住する社会人がほとんどです。

Q③ 根本先生の専門である「インストラクショナルデザイン」とは、

 どんな研究ですか、わかりやすく教えてください。

人が学び成長しようとする活動を支援することに関する研究、でしょうか。

インストラクショナルデザインには、「人が学ぶ」という活動を効果的、効率的、

そして魅力的にしていくための活動すべてを含まれています。

学びやすい教材を作る、カリキュラムを作る、環境をつくる。

すべてがインストラクショナルデザインを使って取り組むことができる教育支援です。

学習成果が上がるだけではなく、利用者(学習者)にとって、魅力的である、

つまり使いたいと思って頂けるものを作ることも大切にします。

一方現実は、時間、人材、お金など、には制限がつきものです。

ですので、限られた範囲の中で最適な提供方法を模索することも大事です。

Q④ 「インストラクショナルデザイン」による教育方法の具体例をいくつかあげていただけますか?

大学生の情報教育の授業を、学生たちがインターンシップに行った時に使える場面を

想定して学習を組み込んだ例:情報教育を物語で作ることで学生たちが

より学習に入り込みやすいような仕組みづくりを行っています。

看護師向けの複数の研修を、それぞれ独立して行うのではなく、

仮想病院の物語でつなげて文脈を作って応用しやすくした例:

得られた知識を実務でどのように活用できるのかイメージしやすくすることで

学習の効果を高める試みです。

全国各地に点在する社員を集め数日間かけて行っていた教育を、

対面でしかできない部分だけを集合研修にし、

それ以外をeラーニングで行った事例:研修を短くすることで、

時間や費用を削減するだけではなく、一人で考えた方が良い内容・活動と

仲間と直接会って話す必要がある内容・活動を整理することで、

成果を上げることを狙っています。

私たちが所属する大学院は、世の中が求めるイーラーニング専門家って

どんな人だろうか、というも人材像から大学院のカリキュラムを作りました:

教育方法というのとは違うと思いますが、入口と出口を考えて内容を作り上げる、

インストラクショナルデザインの基本を使って設計しています。

このように、それぞれが持つ悩みを理解しながら、効果・効率・魅力を

高めるさまざまな方法を考えています。

Q⑤ 根本先生がこの研究に取り組むことになった「きっかけ」のようなものがあれば教えてください。

企業に勤務していた時に、この分野について知る機会を得ました。

当時はIT系のシステムやソフトウェアのインストラクターを行っており、

自分でテキストや問題集を作ってコースを開講するというのが主な業務でした。

その仕事を選んだ理由は、自分の知識を高め、キャリアアップができるように

自分も学ぶことができる環境が魅力だと思っていたからです。

しかし、仕事の全体像が見えるようになり、自分で一通りの業務を回せるようになった頃、

自分の仕事のやり方が正しいのか、教えていた内容が本当に相手のためになっているのか、

自信がなくなりました。自分でもなぜ、この教え方がいいのか、

これが最善の方法であるのか、何となく感覚的にはあっていると思っていても、

自分自身にも説明することができなくなりました。

そのような時に、産学連携の場などを介して、

インストラクショナルデザインという学問があることを知りました。

これを使えば裏打ちを持つことによって自分の業務がきちんと成果を上げているのか、

そしてそれはなぜであるのかを自分で説明できるようになると思い、

そのまま理解を深めていくうちに大学で働く機会を得ることになりました。

 

Q⑥ 「インストラクショナルデザイン」を学ぶと、学校以外の場所、

 例えば一般企業などでも応用できるのでしょうか?具体例などあればお願いします。

はい、応用できます。

私たちが所属する大学院(教授システム学)の学生の大半は、社会人です。

彼らは彼らが所属する企業、病院、大学などの人材育成の場をよりよいものに

したいという思いがあって入学されてきます。

企業であれば、「新人育成カリキュラムを作成する」、

「ある特定の職種が抱える問題を整理し、必要に応じた教育プログラムを考える」こと

などにインストラクショナルデザインを活用することができます。

米国では軍の人材育成などに活用されているという歴史もあり、

大企業にはインストラクショナルデザイナーという専門家が配属されていることも多くあります。

Q⑦ これまでの活動を通じて、最も印象深いエピソードをお願いします。

熊本大学にて新しい大学院(教授システム学専攻)の開設準備に携わったことだと思います。

教授システム学専攻という専攻は、日本にはひとつしかありません。

新しい専攻を一から作るというところが、私にとってはすごく貴重な経験でした。

ある一つの授業を任されて、それを自分らしく講義できるような内容にまとめていく活動は、

これからもあると思います。

ですが、全く新しい専攻を準備するためにカリキュラム全体を考え、

準備する機会はこれからあるかどうかわかりません。

どんな人材を養成したいかを描き、その修了生の人材像を踏まえて

コンピテンシーを設定し、各科目がそのコンピテンシーを充足するように

科目間の内容を調整するという場に同席することができました。

これは、本分野を専門とする人にとっては、とても魅力的なことですし、

企業に勤務していた時から、是非携わってみたいと思う場でしたので、

本当に自分の経験として貴重だと思います。

といっても、当時は楽しいと思いながらも気持にゆとりはなかったなと今考えると思います。

また、それまで熊本という土地にご縁がなかった私には、

自分の生活スタイルを見直す機会でもありました。

Q⑧ 今後の活動予定やPRしたいことなどあれば教えてください。

熊本大学大学院 教授システム学専攻では、

積極的に人材開発の専門家になりたい人を募集しています。

その一環として、昨年度から熊本大学の公開講座で

「インストラクショナルデザイン講座」開いています(東京・大阪)。

今年度はすでに申し込みが終わってしまったのですが、ご興味があれば是非来年度ご参加ください。

また「まなばナイト」というイベントを2ヶ月に1回東京で実施しています。

地元の企業の方で、人材育成のカリキュラムを見直したいという方などが

いらっしゃいましたらご協力させていただきますので是非ご連絡ください。

Q⑨ 上記の件、問い合わせ先などあればお願いします。

公開講座は、「熊本大学 公開講座」で検索頂くと連絡先が出てきます。

(政策創造研究教育センター)

大学院教授システム学専攻は「熊本大学 教授システム学専攻」で検索頂くと

連絡先が出てきます。(教授システム学専攻だけでもヒットします)

共同研究なども教授システム学専攻または、根本に直接連絡を頂いても構いません。

 

 

 

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